第70話 永久凍土

「地球温暖化ストップ!」を叫ぶだけで20世紀が終わり、カオスの21世紀も既に2020年夏だ。

〇大気さへ歪(ゆが)めてしまふ夏の陽(ひ)に地球は蕩(とろ)くる吾は汗滂沱(ばうだ)たり


▼ロシア科学アカデミー永久凍土研究所のフェドロフ副所長は警鐘を鳴らす。

「ロシア北東部のサハ共和国では、温暖化により永久凍土から古代動物の遺体が溶けだしており、古代の細菌が遺体から放出されるリスクもある」と。


▼1918年11月の悲劇。

 …アラスカのブレビックミッション村で(150名ほどの住民のうち)72名もの命がわずか五日間で奪われた。

 犠牲となった人々は今でも白い大きな十字架の下の永久凍土に眠っている、という。


▼1997年8月、ヨハン・フルティンは〈スペイン風邪〉の原因究明に、再度ブレビックミッションを訪れた。

 村議会の許可を得て村民と一緒に墓地の凍土を掘り起こす。

 四日目、30歳前後の女性「ルーシー」の遺体を発見。

 その肺の検体を米軍病理学研究所へ送付した。


▼検体を受け取ったジェフリー・トーベンバーガーは(わずかな材料から遺伝子を増幅させる)PCR法で遺伝子解析…。

「1918年のパンデミックを引き起こしたインフルエンザウイルスの遺伝子情報の全容が解明された」のである。


▼1998年9月、フルティンは三度目のブレビックミッション訪問時、真鍮製の銘板を(かつて自分がたてた)白い大きな十字架に張り付けた。

 …と、中屋敷均氏の講談社現代新書『ウイルスは生きている』はドラマチックに述べる。


▼地球温暖化は進む。

 何の手も打たぬまま無事に済むはずはない。

 それほど遠くない近未来、凍土に埋まる〈パンドラの箱〉が開くかもしれない。

〇温暖化にて永久凍土の溶けながら危険な古代菌の現るるとも


(20200831)

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