第14話 三種の神器

 平成31年は今月末で終わり、五月には令和元年が始まる。

 昭和から、平成・令和と、二回も改元を見ようとは…。

〇改元が間近となりて思ひをり 昭和は遠くなりにけるかも


 改元で話題になるのが〈三種の神器〉だ。

 皇位の象徴で、八咫鏡(やたのかがみ)・草薙剣(くさなぎのつるぎ)・八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)の総称。


 ところが1950年代には、白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫まで、三種の神器になぞらえたから驚く。

 このノリで、老健施設長の三種の神器を紹介したい。


 〈聴診器〉は必需品だし、若い頃よりも高性能な神器だ。

 胸に当てながら「うんうん」とうなずき、おもむろに「いい音だ」と告知。婆さんは「よかったよかった」と両手を合わせる。爺さんは、「合格!」の一言に満足するようだ。

〇あばら透け「おしょし」と笑ふ婆さんのシャツの上から聴診すなり


 産科医だったから〈エコー検査〉は得意だ。

 妊娠初期でも、ピコピコ動く心拍を見せれば「順調だ」とわかる。大きくなった胎児なら、股間を見せれば男の子は一目瞭然だ。

 老健施設では、エコーを見て感激する親もいないが…。

〇いまもなほ産科医時代の口癖の「順調ですよ」 エコーあてつつ


 高齢者に多い水虫などの診断には、〈顕微鏡〉も欠かせない。

 皮膚片のアルカリ処理をしていると、学生実習の頃にもどる。白癬菌は今も菌糸を伸ばしていた。

 老健カルモナの爪白癬は、電動ヤスリも動員して随分と減った。

〇こもりぬの顕微鏡下の白癬菌 アルカリ処理のかなしくもあるか


 ついでに言えば、エッセイストの三種の神器とは?

 …脳の杖だから〈パソコン〉は外せない。

 新明解国語や全訳古語、類語国語など〈辞典〉も手元に置いている。

 それから渉猟散歩には〈図書カード〉を携帯したい。


(20190408)

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