第64話 コロナ払い

 ご存じ「なぜ英雄はそれを選んだのか?」のナレーションで始まる歴史番組。

 この『英雄たちの選択』を我が家では(録画にとり)欠かさず見ている。

 MCの掛け合いが可笑しい。

 鼻声(?)が人気の杉浦友紀アナウンサーのツッコミを無邪気にボケるのが磯田道史(国際日本文化研究センター)准教授である。


▼その磯田センセがテレビのノリで語る。

 文藝春秋の七月号『感染症の日本史(3)世界一の衛生観念の源流』では…。

「西暦300年頃の崇神天皇五年に列島で疫病が流行して国民の大半が死ぬ。その社会不安のなかで現在の天皇につながる王権と祭祀が誕生した史実を押さえておきたい」と。


▼京都祇園祭は疫病封じなのだとか…。

「蘇民将来之子孫也」と書かれた護符(ちまき)が配られる。これを戸口に張っておけば、疫病が家内に侵入しないと信じられてきた。たわいない〈まじない〉が、ワクチン替わりである。


▼江戸時代には、疫病封じの〈まじない〉ではなく、感染防止の〈隔離〉を説く医者が現れる。

 1810年、西洋医学も学んだ橋本伯寿は『断毒論』で、天然痘の隔離予防を広めた。

 しかし幕府によって『断毒論』は版木まで押収される。

「江戸の隔離は民間力で行われた」と磯田センセは語る。


▼大正期のスペイン風邪でも、日本政府の対応は適切さを欠く。

 米国ロサンゼルス市の新取締規則「芝居・見世物・教会・学校、其他一切の公会を禁ず」の翻訳を大山卯次郎領事は(大正七年十月十二日)外務省に送る。

 ところが、小橋一太内務次官の指示(同九年一月十四日)は「マスクとうがいをせよ」だけだった。


▼磯田センセは「新型コロナとの対峙は、まだ始まったばかり」と結んでいる。

「温故知新」と叫びたい。

○つゆぞらにズドーンと響く加農砲は自衛隊なす〈コロナ払ひ〉か


(20200720)

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