第34話 人生は鞍掛山

 十一月二日、鞍掛山へ初めて登った。

 即位礼の日にもトライしたが(仕事の電話があり)宮沢賢治の「くらかけの雪」碑の脇で昼食をとって登山はキャンセル。


 …なので今回はそのリベンジ!


 登山靴が思ったより重い。

 絶好調の妻は(姫神山のガイドをまねて)後ろから「ゆっくりゆっくり、背筋を伸ばして」と余裕を見せる。

 素直にアドバイスされながら登り続ける。

 急に視界が開けて「頂上だ!」と喜んだ、が高台展望台。


 まさかの下り階段のあと橋を渡って再び登りが…。

 たどり着いた頂上は、秋晴れのもと老若男女でいっぱい。

 眼前に迫る岩手山の圧倒的な迫力に一首。

○錦秋の鞍掛山にたどりつきスマホむければ岩手山せまる


 おにぎりもおかずもデザートも平らげ、リュックは随分と軽くなった。

 …が(長い階段を下るのかと思えば)気は重い。

「さあ行くよ」とチビッコ連れの家族が岩手山側へ下る。

 聞けば「展望台はないけどダラダラだから」と。

 それを信じて(若者に抜かれながら)ダラダラ無事に下山できた。そこで一首。

○鞍掛は八百九十七米と聞きて登れど下山は不如意


 だいぶ昔に読んだ五木寛之の「下山の思想」を思い出した。

 人生を山に例えて、前半を〈登山〉後半を〈下山〉に。

 曰く…中国の言葉「青春・朱夏」が登山で「白秋・玄冬」は下山だと。

 また頂上を「定年退職」と宣う。

 でも「生涯現役」を願う爺医にはピンとこない。

○要諦は〈下山〉にありと悟達して鞍掛山に人生を見る


 寿命など知る由もないが、古希過ぎは「錦秋の候」だろうか。

 鞍掛山に例えれば〈高台展望台〉は四十代のアメリカ留学の頃で〈まさかの下り階段〉は白い巨塔を離れた頃かも。


 頂上はいつだったのか、記憶にない。


 でもそれが…人生さ。

「セラヴィ!」


(20191125)

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