第35話 「養生訓」に学ぶ

 最近また「養生訓」が人気だと聞く。

 この書は単なる健康法の解説ではないらしい。


 貝原益軒は、全八巻からなる人生指針を書いた翌年に、八十五歳で生涯を閉じた。

 …三百年以上も昔の話。

○養生に貯金なしとふ。寝だめダメ! 食ひだめもダメ! 蓋(けだ)し記憶も


 巻第一〈畏の一字〉に曰く「からだを保ち養生するのに極めて大切な一字〈畏〉がある。

 畏れるということは、身を守る心構え(心法)であり、慎みに向かう始まりである」と。

○身をたもち生を養ふ要訣を「畏」なる一字に益軒は籠(こ)めき


 巻第八には〈老いの生き方〉も説かれている。

「慎んで、怒りと欲をこらえ、晩節を堅持し、物事に寛容で、子の不孝を責めず、つねに楽しんで残された年月を送るのがよい。これこそが老後の境遇にふさわしい生き方である」と。


 〈晩節を堅持〉するうえで侮れないのは高齢者が原因の交通事故。

 そんな折も折、三つ折り圧着はがきが届いた。

「年寄りは運転などするな」と諭されたようで(歳のせいか)不愉快になった。

○あらかじめボケの検査をせよといふ運転免許更新のはがき


 同じ団塊世代にも「運転できなければ不便だ」という声が多い。

 たしかに車は便利だと思う。


 そこで、改めて〈畏の一字〉の件を読み熟慮のうえ決心した。

「将来の日本を支える若者や子どもの命を、万が一にも奪ってはならない」と。


 たかが運転免許証の更新…(あきらめるのではなく)潔く拒否しよう!

「人は人、我は我」である。


 そもそも〈老いの楽しみ〉は、世俗的で物欲的なものとは対極にある…はず。

 もともと自分の心のなかにあるもので、それを探すこと自体も〈老いの楽しみ〉である…と思いたい。

○常に日を惜しみて無駄に暮らすなく老いては益々楽しみ増やせ


(20191202)

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