第41話 四冊目の年報
四年分の年報を見比べると…。
昨年の2019 Annual Report CARMONAには、「施設での〈看取り〉を希望する家族が急増した」の記載がある。
そして(赴任当初のように)慌ただしく救急搬送して病院で死亡確認…というケースはなくなった。
平成と令和がつながる一年(2019)を振り返り一首。
○此の年の集計しつつ思ひ出づ逝きし人らの安らかな顔を
施設長として五年目になる。
勤め始めた頃は、終末期に〈看取り〉を説明すると病院搬送を望む家族が少なくなかった。
親の死を受け入れられない気持ちに加えて、世間体を気にしての選択だったのかもしれない。
なにしろ「病院での看取り率が世界一!」と言われる日本人である。
ちなみに、アメリカでは40%以上あった〈病院死〉が30%以下まで減少し、逆に〈在宅死〉がトップになった、という報告(2019)もある。
近頃、家族との話し合いで話題に上るのが〈平穏死〉という言葉。
…穏やかな死…全てをあるがままに受け止め生きることである。
〈平穏死〉を提唱してきた石飛幸三先生は曰く。
「命を延ばすだけが正解なのではない。その質も考えよう」と。
私自身も(老健で穏やか看取りに立ち会うなか)死に対する恐怖心のようなものが薄らいだと感じる。
○先達の穏やかな死を見しよりは生くると死ぬとの境界うすらぐ
四冊の年報を並べて見ると、年ごとに家族と施設との信頼関係が増したと思う。
「最期までお願いします」と頼まれれば爺医も頑張ってしまう。
昨年のことだが、(休日を避け)施設長の出勤に合わせたかのように旅立ったお婆さんの顔を思い出す。
熱心に介護を続けた親孝行な家族のため(余計なこととは思いながらも)死亡診断書に添えてしまった一首。
○月曜の日の出を待ちて旅立ちし老女の笑みに阿弥陀が宿る
(20200120)
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