第97話 異形に祈願す

「我は海中に住む阿摩比古(あまびこ)と申すもの。当年より6年は豊作だが、諸国で病が流行して6割が死ぬ。我が姿を書き見るものは、その病を逃れることができる」と初代は語ったらしい。

 その姿は(福井県越前市の武生公会堂記念館によると)毛におおわれた三本足のサルのようだったと伝えられている。


▼人魚のような異形(いぎょう)が夢に出て「我は阿摩比古が子孫〈アマビヱ〉の娘〈アマビエ〉なり」と告げた。

 名前の由来を問えば〈アマビコ〉の〈コ〉を書き間違えて〈アマビヱ〉となり、今は〈アマビエ〉と書くのだと答える。


▼一年前に初めて「あまびえ」を聞いた時は「天冷え」と漢字変換された。

 でもイメージしたのは「甘海老」だ。

 回転寿司で二本ならぶ海老だから、人魚のようなアマビエの姿に「私のとは違うなぁ」とモヤモヤ感が残った。


▼江戸時代、疫病封じの〈まじない〉ではなく感染防止の〈隔離〉を説く医者が現れた。

 1810年、西洋医学も学んだ橋本伯寿は『断毒論』を出版し天然痘の隔離予防を広めるが、幕府によって版木まで押収される。

 結局「江戸の隔離は民間力で行われた」そうだ。


▼大正期のスペイン風邪でも役所の対応は適切さを欠いた。

 米国ロサンゼルス市の新取締規則「芝居・見世物・教会・学校、其田一切の公会を禁ずる」の翻訳を大山卯次郎領事は(大正七年十月十二日)外務省に送る。

 ところが、小橋一太内務次官の指示(同九年一月十四日)は「マスクとうがいをせよ」とだけ…。


▼お上が頼りないのは令和の御代も同じ。

 大局的な戦略がないまま、目先の利害で右往左往するのは全くもって情けない。

 新型コロナウイルスのワクチン接種における昨今の泥縄騒動を見るに、切り札はもはや祈願しかないのかも…。

○予言獣「阿摩比古」様のおはすなら早きコロナ禍退散を願はむ


(20210308)

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