第52話 クリスマスローズ

 本稿執筆は四月十四日。

 岩手県だけが(新型コロナウィルス感染症の)未確認地域だという。

 もっとも「PCR検査数は全国最少」との前提付きである。

「感染未確認地域は未感染地域だ」という誤解がないだろうか?

 それが怖い。


 江戸時代なら関所を閉じて南部藩だけ無傷ということもあるだろうが…。

 井上ひさし著『吉里吉里人』を思い出す。

「あんだ旅券ば持って居だが」と、上野発青森行急行十和田3号を緊急停車させた男たちが問う。この日午前六時、東北の一寒村〈吉里吉里国〉は突如日本からの分離独立を宣言したのだ。


 閑話休題、令和二年四月七日「緊急事態宣言」が七都府県に出された。

「不要不急の外出を避けるように」と要請されるなか、逆に〈コロナ疎開〉をする輩もいるという。

 東北新幹線・航空機や東北道なら容易に岩手へ入れる。


 三陸沿岸には外国からクルーズ船も…。

 タラレバの話だが、ダイアモンドプリンセス号の感染発覚が横浜港でなかったなら…背筋が凍る。


 そう考えると「感染未確認地域」という現状は単なる僥倖(ぎょうこう)に過ぎないのではないか。


 こんな状況で大勢の高齢者を介護する老健施設としては気が抜けない。

 すでに昨年末から季節性インフルエンザの感染対策を徹底してきた。

 さらに新型コロナウィルス感染症へと対策マニュアルを引き締めている。

 それでも(医療介護の機能を制限できない現状では)最悪のシナリオさえ想定しなければならない。


 今朝も出勤前(新型コロナウィルス除けに)神頼みをした。

 そして振り向けば、ベランダでは(弘前の庭から掘り上げた)鉢植えのクリスマスローズが咲き始めている。

 何かと不安の多い昨今だからこそ、わずかな癒しでもありがたい。

○花言葉は「私の不安をやはらげて」 クリスマスローズの翠(みどり)がうつむく


(20200420)

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