第83話 老風満帆

 定年後の幸福な生き方を問われたら…

「朝起きてやることが決まっていることである」と言いたい。

 もちろん職場でのサポートがあってのことだし、妻の支えにも感謝している。

○ヒルティの『幸福論』によらずとも老いて働ける幸せを思ふ


▼この世で「いちばん幸福な状態」とは

「たえず有益な活動を続けられることであり、いきいきと仕事をしているときだ」とヒルティは言う。

 そして「人間の本性は仕事をすることにある」と信仰上の立場で強調する。


▼テレビのドキュメンタリー番組『親の隣が自分の居場所~小堀先生と親子の日々』を見た。

 国立国際医療センターの病院長で外科医だった小堀鴎一郎先生が82歳で在宅医療に走り回る。

 その姿に、20年前のことが懐かしい。


▼国立国際医療センターに来ないかと誘われ、2000年の冬に52歳で上京。

 夫婦でのロングドライブは、後ろに積んだ神棚と買ったばかりのカーナビだけが頼り。

 …だが慣れないメッセージに戸惑い、首都高の出口を間違えて焦る。

 グルグルと探しまわり、夜も更けたころ何とか新宿のホテルにたどりつけた。


▼翌朝はお偉方への挨拶回り。

 最後に、病院長室で小ぶりの黒い机を見せられた。

「森鴎外の使っていたモノだ」と自慢気に指さすので、こちらも「それは貴重ですね」と冗談っぽく世辞をかえす。

「そうだよ。祖父のなんだ」

「えっ?」と今度は恐れ入るしかない。

 あの森鴎外の孫だとおっしゃる。そう言われて見れば〈鴎〉の字が一緒だ。


▼かつてはチョット突き放すような物言いの小堀先生が、今やおしゃべり好きな在宅診療の医師に大変身。

 でもダンディな姿は当時と変わらない。

 10歳も若い老健施設長としては負けていられない。

○満帆に〈老い風〉うけて「宜候」と老い真っ盛り活躍盛り


(20201130)

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