第47話 怒髪天を衝かず
陸前高田の小友、気仙沼の本吉、南三陸の荒砥…三陸の海が懐かしい。
○東方を遠望すれば雪かづく早池峰の向かふに三陸の海
東日本大震災後に気仙地域で医療支援をしていた頃…近くに床屋などないので五年位ご無沙汰した。
だからと言って、伸ばし放題にしていた訳でもない。
電動バリカンを使って、鬚(あごひげ)髭(くちひげ)髯(ほおひげ)から側頭部まで、6ミリで一気に刈り上げる。頭頂部だけは、2センチで適当に薄毛隠しとする。
自分では刈りにくい後頭部も、困るほどは生えてこなかったし…。
復興は少しずつだが進み、仮設の床屋もサインポールを回し始めた。
それでも(被災地で暮らしていると湧いてくる)妙な悲壮感のためか、南三陸町を離れるまでは電動バリカンを使い続けた。
○やうやくに仮設床屋に回りゐるサインポールも復興の兆し
サインポールを英語ではbarber's poleという。
その三色の由来として、十二世紀のヨーロッパでは(床屋が外科医を兼ねた)床屋外科説が有名だ。
…が「赤は動脈、青は静脈、白は包帯」という解釈は(動脈と静脈の発見が十七世紀なので)年代的に見て眉唾らしい。
閑話休題
…床屋通いを決心したものの、〈受動喫煙〉と〈待ち時間〉が問題だ。
そこで〈禁煙〉と〈予約〉をキーワードに(開運橋付近を)ネット検索…ヒットしたのが盛岡駅前の床屋。
三週ごと店長さん指名で約二年間お世話になった。
ところが青山に引っ越し後は予約制の床屋が見つからない。
「時は金なり」とばかり電動バリカンの再登場だ。
しかも今なら(刈りにくい)後頭部は妻に刈ってもらえる。
二週ごとのカット代は(なぜか豚の形の)五百円玉貯金箱にチャリ~ン。
○天を衝(つ)く怒髪なぞなき老いの身は自宅でカットが相応なるらむ
(20200309)
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