第76話 たのしみは…とき

 まもなく盛岡暮らしも5年目になる。

 連載『モリオカNOW』の2年(75回)分を読み返すと、折々の〈喜怒哀楽〉までよみがえってくる。

「感情は認知症が進んでも残る」と言われるが、むしろ強調されるように思う。


▼さて気になるのは己の行く末である。

「不機嫌なボケ老人」と嫌われぬように〈怒〉を避けて生きたいもの。

 願わくは、日々の「たのしみ」を詠いながら…。

○たのしみは温きふとんにくるまりて朝餉のかをりに目覚めたるとき

○たのしみは慌しくも朝食後チョコレートつまみ珈琲飲むとき

○たのしみは散歩がてらに本を買ひワンタン麵で昼にするとき

○たのしみは「おかえりなさい」と迎へられ甘きものにてお茶を飲むとき

○たのしみは黄金色なる金柑の甘く煮たるをかみしむるとき


▼江戸時代末期に、橘曙覧(たちばなのあけみ)という歌人がいた。

 彼は千二百首あまりの和歌を詠んだが、そのなかの〈独楽吟〉と題された52首の連作すべてが「たのしみは…」で始まり「…するとき」と詠まれている。


▼1994年、天皇皇后両陛下の訪米歓迎式典。

 クリントン大統領は「It is pleasure/ When, rising in the morning/ I go outside and/ Find that a flower has bloomed/ That was no there yesterday」とスピーチに〈独楽吟〉を一首引用した。

「たのしみは朝おきいでて昨日まで無かりし花の咲ける見る時」の英訳である。


▼コロナ禍で〈塞ぎの虫〉がうずきだす。

「弘前に戻って隠居生活を…」とも思うが、それでは老いさらばえる一方だろう。

 こんな時こそ『モリオカNOW』のネタ探しを楽しみに暮らそうと思う。

 連載の百回継続を祈念しつつ…。

○たのしみは朝おきいでてタイムズに『モリオカNOW』の載るを見るとき


(20201011)

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