第29話 人間到処有青山

 エレベーター頼りの日々。

 マンション名「青山」を山の名前に見立てて詠む。

○わが庵は〈青山〉にあり峰なれば登りも降りもボタンをおして

「短歌は誰が読んでも分るように詠みたいものですね。作者だけが分るのでは独り言に似ます」と師匠からお小言を…。

「御意!」と応えつつも、ひそかに思う。

 …洒落のつもりなのになあ。


 九月から毎朝「足腰の鍛錬に!」と階段を使い始めた。

 三日坊主にならぬよう「朝刊を取りに一階まで往復」が任務。

 あくまで洒落のつもりだが、新聞二部を大げさに「ぼっか」しながら…。

○朝陽あび充電しつつ〈青山〉を歩荷(ぼつか)いたさむ我が養生ぞ

○〈青山〉を朝刊とりに歩荷せば四頭筋こそ日ごとふくらめ

○雨なれば仕方なしとて嬉しげにエレベーターで五日目の朝


 平地の「青山」は他にもある。

 なかでも有名な「青山通り」は、篠山藩主「青山氏」の江戸屋敷に由来し、内堀通りから渋谷駅近くを結ぶ六~八車線の幹線だ。

 このおしゃれストリートを流したクロスバイクやヘルメットは今…しょんぼりと弘前の自宅で待機している。


 青山氏に由来する「青山」ではあるが、これを「あおやま」でなく「せいざん」と読めば「墓」の意にもなる。

   将東遊題壁(釈 月性)

  男児立志出郷関

  学若無成死不還

  埋骨豈惟墳墓地

  人間到処有青山

 結句(四句目)だけは記憶にある。

「人間(じんかん)到(いた)る処(ところ)青山(せいざん)有(あ)り」と。

 これを広辞苑で引くと…「故郷ばかりが墳墓の地ではない、人間の活動のできる所はどこにでもあるの意。

 大望を達するために故郷を出て大いに活動すべきことをいう」と解説されている。


(20191014)

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