第一章 ヨスガの里 編
第1話 始まりの日
――――――数ヶ月前
◇
ここはフィフシスという小さな村。
そこには村を囲むように大きな森が広がり、それを更に外側から大きな白い土壁が囲んでいた。
そんな村で俺は優しい両親と仲良く平和に暮らしていた。
そしていつもの様に狩りに出掛けた俺は森の最奥で初めて壁に触れた。
そう。
初めてだった。
何故なら村には『森の最奥にある壁に近付いてはならない』という唯一絶対の掟があったからだ。
だから今まで生まれてから一六年間も、この壁に触れた事が無かったのだ。
しかし今日はたまたま見つけた野うさぎを追いかけていたら、いつの間にか森の最奥へと来てしまっていた。
そして俺は初めて触れた白い大きな土壁を呆けた顔で眺めていた。
「へぇ。近くで見るとやっぱりでかいなぁ……」
その白い土壁は頂上が見えないくらい空まで続いている。
そして横にも果てが無く、フィフシス村と森の全てを囲むように聳え立っていた。
「でも何でこの壁に近付いたら駄目なんだ? でかいだけで別に危険な感じもしないし……。ていうか何の為にこんなものがあるんだ?」
そして俺は壁をポンポンと叩いてみたり蹴飛ばしてみる。
すると――――ボロッ……ゴロゴロ……ガラガラン……! と音を立てて壁が少し崩れた。
見た目は大きいが所詮はただの土壁。
かなり脆いのか、叩いたり蹴ったりした部分は簡単に崩れ人が余裕で入れるくらいの穴が空いた。
「え、この壁……壊せるの!?」
その事実に俺は心が踊り、ワクワクしながら穴の中へと入って行く。
「こんなでかい壁に穴が空いたらそりゃあ普通入るよなぁ。さてさて、この中にはどんなお宝があるのかな。へへ、楽しみだな」
俺はそんな事を呟きながら一人でニヤニヤと笑う。
「それに、もしかしたら大量の魔石とか見付けちゃったりして? そしたら俺、村の英雄じゃね?」
魔石とは魔力のこもった石の事で、石の中の魔力を使い切れば壊れてしまうという性質を持っている。
そんな性質のせいか、魔石は村にもあまり数が無く、俺達の様な貧乏人は節約しながら使わないといけなかった。
だからこそ、村の人々にとってかなり貴重な魔石を持ち帰れば英雄になれると考えたのだが――――
「チッ……。なんだよ。この中……土ばっかりじゃんか!」
掘り返した土を投げつけ、地面に向かって悪態をつく。
俺の踊った心はすぐさま大人しくなり、冷静に今の状況を分析した。
――ここは初めて触れた土壁の中。
とはいえ所詮は土壁。
当然、土だらけで何も無い。
「……つまんなっ!」
俺はそう言葉を吐き捨てると魔石を探すのを諦めて穴の出口へと向かった。
刹那――――
グラグラグラグラ…………! ゴゴゴゴゴ……ドガガガガガーン……!!
大きな物音と立ち上がれない程の地震が起こり、俺は咄嗟にその場にしがみついた。
「う、うわぁー!! な、なんだこれ!? や、やべぇ……こんなとこで俺死ぬのか!?」
俺が困惑していると、穴の中の土が先の地震の衝撃で崩落を始める。
そして頭に拳大の石が落下し、俺は逃げ出す間も無く気絶してしまった。
◇
暫くすると俺の意識は覚醒し始めた。
――どれくらいの時間が経った?
でもまだ体は動かないし目も開かない。
とりあえず頭の中を整理してみるか……。
何が起きた?
確か大きな地震があって、頭に石が落ちてきて気絶した………のか。
どれくらい気絶していた?
わからない。
でもその間に何か変な夢を見ていたような……。
するとようやく体が動き目を開けるようになった。
どうやら穴の中の崩落は奇跡的に足下で止まっているようだ。
「助かった……これで何とか穴から抜けられそうだな。ていうか、そんな事より早く家に帰らないと……! 父さんと母さんが心配だ……!」
そうして俺は穴から抜けようと足にかかった土を払い除け穴の出口へと向かった。
だが、穴の出口にさしかかり外が見えると、そこには俺がこれまでの人生で見たことも聞いたこともない世界が広がっていた――――――
「は……? どこなんだよ……ここは……?」
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