第26話 シルキーVSゲンブ


 リオンを先に行かせ、一人部屋に残ったシルキーは、グレンと同様に侍ゲンブとの一騎打ちとなっていた。


 

「ガハハハ! おいクソチビ。本当にあの男を行かせてよかったのか?」

 

「大丈夫だよ。リオっちはきっとサナエっちを助ける。それに私はこう見えて結構強いんだよー!」

 

「そうか、強いか! ガハハハハ! じゃあどっちが強えか勝負だな! クソチビ!」

 

 そう言いゲンブは大きな足音を立てシルキーに襲いかかる。

 しかし――――その速度はあまりにも遅かった。

 

「おっそっ!! なにそれ、歩いてんの?」

 

「体が重ぇんだ! 仕方ねぇだろ!」

 

「じゃあこっちからいかせてもらうよー! 【麻痺毒付与 刃物プラリシスナイフ】!」

 

 シルキーはそう言うと自分のナイフに痺れ毒を付与しゲンブに斬りかかる。

 しかし、先程と同じようにナイフは意味をなさず跳ね返される。

 

「ガハハ! お前の方から近付いてくれるとはなぁ! クソチビぃ!」

 

 ゲンブは刀を鞘から抜き、シルキーを斬り捨てる。

 

「きゃあっ……!」

 

 ゲンブの攻撃をまともに受け、部屋の壁まで吹っ飛ばされたシルキーは、たったの一撃で気絶しかけていた。

 

 ゲンブの攻撃は切れ味よりもその重さに特徴があり、斬られると言うよりも刀で殴るに近いものだった。


「ガハハハハ! 可愛い声で鳴くじゃねぇか! もっと鳴かせてやろうか? クソチビ!」

 

 そう言いゲンブはゆっくりとシルキーに近付く。

 しかしシルキーはゲンブの攻撃の衝撃の重さで動けずにいた。

 

 そしてゲンブはシルキーの元へ辿りつくと、ボコボコと鈍い音を立て、殴り続けた。


 シルキーは虚ろな意識の中、何とか反撃の手がないかを考えていた。

 

(やばいなー。この亀めっちゃ強いじゃんー。グレンー。ルドルフー。リオっちー。サナエっちー。助けてよー。って誰もいないんだっけ……。私一人で何とかしなくちゃなんだよね……。うーん……どうしようかな。皮膚は固くてナイフじゃ歯が立たないし、体内に直接毒を入れらればなーー……)

 

「おい! クソチビ! おらっ! 生きてっか!? おらっ!」

 

 ゲンブはシルキーに話しかけながら笑顔で殴り続けていた。すると突然ゲンブは攻撃の手を止め、話をし始めた。

 

「そういや昔もこうやってちっせー女を殴りまくった事があったっけか? ガハハハハ! あのガキ、名前なんつったっけな。確かそなえ、すなえ……。――――あっ! そうだ! サナエだ! あん? そーいや今奥の部屋で捕まってんのもサナエとかいう奴だったっけか……。ガハハ! まぁどうでもいいか!」

 

(サナエっち……?)

 

 虚ろな意識の中、シルキーはサナエという言葉に反応していた。しかしゲンブは話す事を辞めない。

 

「あのガキ、ちっせーくせに生意気にも俺様に向かって『負けない!』とか『絶対侍になるんだ!』とか言ってたっけなあ! でも俺が殴り続けたら、泣きながら気絶してたっけなあ! ガハハハハ! あんな弱っちーのに侍になんかなれるわけねぇのにな! あそこで俺がボコボコにしとかないとあのガキの為にもよくねぇからな! うん! 俺はいい事をしたな! ガハハハハ!」

 

(こいつ、昔サナエっちをボコボコにしたって言ったの……? こんな事ならサナエっちの話、ちゃんと聞いとくんだったな……。ごめんねサナエっち。でもね……私は友達を傷付けられたらね……怒っちゃうんだよ? サナエっち。待っててね、このデカブツをぶっ飛ばしてすぐ助けに行くからね……)



「ねぇ、デカブツ……。そろそろそのヘボ攻撃やめてくれない?」

 

「あん? 何言ってんだクソチビ? テメェまだ生きてたのか? ガーハハハ! あんまり手応えねぇからもう死んじまったかと思ったぜ!」


「お前みたいなクソ野郎に……殺されてたまるか」

 

 そう言うとシルキーはムクっと立ち上がり、下からゲンブを睨みつける。


「お? なんだぁ!? クソチビまだやんのか?」

 

「痛かったよ……」


「あん!? なんだって!?」

 

「痛かったって言ってんだよ……!」

 

「ガハハ! そらそうだろ! なんたって俺様が殴ってんだからよお!」

 

「サナエっちも痛かったんだ……」

 

「はぁ? テメェ、さっきから何が言いてぇんだ!?」

 

「お前も同じ目に遭わせてやるって言ったんだよ……!!」

 

 そう言うとシルキーは手のひらを使ってゲンブの顎を下から思い切り押し上げた。


「ぐふぅっ!」

 

「お前、亀なんだろ? だったら後ろに倒れてなよ!!」

 

 シルキーがそう言うとゲンブは変な声をあげてバランスを崩し、後ろに倒れた。

 

「て、テメェ……! クソチビ、何しやがんだ……!?」

 

「まだまだ終わりじゃないよ……! サナエっちと私の痛み、ちゃんと味わってから死ねよ……!!」

 

「死ねだと? 俺を殺せるってかクソチビが! 笑わせやがる! ガーハハハ!」

 

 そう言うとゲンブは大きく口を開き笑った。

 刹那――――シルキーは倒れたゲンブの上に馬乗りになり、手をゲンブの口の中に突っ込んだ。

 

「ふ、ふぇめぇ! ふぁにひややる! (て、テメェ! なにしやがる!)」

 

「私は毒を使うからさー、いつも手袋をしてるんだよねー」

 

「ふぁふぁらふぁんら! (だからなんだ!)」

 

「あれ? わかんない? この手袋にはさ、私のもうひとつの武器。ほそーい針を何本も仕込んであるんだよー」

 

「ふぁふぃ!? (はりぃ!?)」

 

「そー。その針全部に毒を付与して、お前の口の中に刺したらどーなると思う?」

 

「ふぁさふぁ!? (まさか!?)」

 

「身体中の穴という穴から血を吹き出して、耐え難い痛みに死ぬまで苦しめられるんだよー。泣こうが喚こうがだーれも助けてくれないよー。死ぬまでずーーっと痛い痛い痛い痛い……」


「ふぁふぇふぇふへぇー!!!! (やめてくれー!!!!)」

 

「お前さっきから何言ってるかわかんないんだよ。さっさと死ねクソ野郎が……!!! 【猛毒付与 針ヘビィポイズンニードル】!」


 そう言うとシルキーはゲンブの口内に毒を付与した無数の針を刺し、その口から手を抜いた。

 

「ぎゃあああああああああ!!!!」

 

 ゲンブは襲い来る激痛と出血に恐れをなし気絶した。

 するとシルキーはゲンブの上から下り、ふぅーと一息つく。

 

「ばーーか……。嘘だっつーの! それはただの麻痺毒、血も出ないし、そんなに痛くないよーだ。――――まぁ、起きて来られても鬱陶しいしそのまま気絶しててねーー!」

 

 そう言うとシルキーはふらつきながらサナエのいる部屋へと向かった。

 

(あっぶなーー。アイツがバカでよかったー。口に手入れた時、思いっきり口閉じられてたら私の手も無事じゃなかったよー)

 

 内心そう思っていたシルキーだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る