第27話 ルドルフVSタイガ


 シルキーがゲンブとの戦闘を繰り広げている頃。

 ルドルフもマサムネを先にサナエの元へと向かわせ、タイガとの一騎打ちに臨むのだった。



「君さぁ、僕に一人で勝とうなんて思い上がりすぎじゃないかい?」

 

「いえいえ、しっかりと観察した上で勝てると判断しただけですよ」

 

「君さぁ……っ!!」

 

 そう言うとタイガはルドルフに向かって突進。ルドルフは二丁の銃でタイガの足元を撃ち、動きを止める。

 

「ほんっと……その戦い方、鬱陶しいねぇ!?」

 

「すみません、これが僕の戦闘スタイルなので」

 

 ルドルフの戦闘スタイルは相手との距離をとり自分への攻撃を防ぎつつ、遠くからの狙撃で相手を倒すというもの。近接戦が得意なタイガにとっては少々厄介なスタイルだった。


「なるほどねぇ。君がそういう戦い方をするならこっちにだって考えがあるよ?」

 

「考え……?」

 

 タイガはニヤリと笑い、自分の後ろの扉へと目をやる。

 

「クハッ……! そんなに俺との距離をとってていいのかい? 君がそんな所にいる間に、俺はこの扉からさっきの爺さんを追いかけて殺して、その先にいるサナエとかいう女武士も殺せちゃうんだよ? 大丈夫?」

 

「そんなの……させるわけないでしょう!?」

 

「でもさぁ、実際君の戦闘スタイルでは俺に近付くのは不利になるよねぇ。君が俺に近付けば君は殺され、君が距離をとればこの先にいる二人が殺される。クハッ……! 君はどっちを選ぶんだい?」

 

「そんなの決まってますよ……。僕が距離をとってあなたを二人の元へ行かせず、倒します!」

 

「君さぁ、そういうのなんて言うか知ってるかい? ――――なめてるっつーんだよ!」

 

(速い!)

 

 ルドルフが驚いていると、タイガは一瞬で距離を詰める。そしてタイガは目にも止まらぬ速さで、刀をルドルフの右肩に突き刺し、貫通させた。


「ぐっ……があああ!!」

 

「クハッ……! これで君の右肩は死んだ。もう腕が上がらないだろ? それじゃあ君は左手でしか銃を撃てないよねぇ?」

 

 タイガがしたり顔で刀を抜くと、ルドルフは左手でタイガに銃弾を放つ。

 しかしタイガは足を蹴り上げそれを両断。

 

「…………っ!」

(この距離でも対応できるのか!? なんという反射神経なんだ……。いや、これはもう野生の獣のソレだ……!)


「クハッ……! 君の攻撃は当たらないって言っているだろ? 俺のこの爪と刀に加えて、常人の域を遥かに超えた反射神経で、君の攻撃は俺の視界に入った瞬間に対応できる」

 

「そう……ですか……」

 

 ルドルフは俯き、静かにそう呟くと、再度タイガに向かって銃弾を数発放ち、走り出した。


 だが、やはりと言うべきか。タイガはそれを容易く斬り落とす。

 しかしそれもルドルフは織り込み済み。タイガがいくら速いと言っても対応している間は隙が出来る。その隙をつき、ルドルフは奥の部屋へ通ずるの扉に向かって走った。

 

「させないよー!?」

 

 タイガは銃弾を全て斬り落とすとルドルフの方へ向き直した。そこでルドルフはすかさず銃を撃つ。

 

「【必中弾ストライクバレット】!」


 タイガの足を止めることには成功したが、やはり銃弾は全て斬り落とされタイガには当たらない。

 だが、ルドルフはその間に何とか扉の前にたどり着いた。

 

「クハッ! 本当にウザい戦い方だねぇ……」

 

「くっ……! 【必中弾ストライクバレット】でも駄目ですか……」

 

「クハッ! その扉の前に立ってどうするんだい? 君は俺に勝てないんだから、遅かれ早かれ俺は君を殺してその先にいる二人も殺す。この事実は変わらないよ?」

 

「ふっ。変わりますよ。僕がここを動かなければあなたは扉を開けられない。二人は殺させない! 僕は死んでもあなたに勝つ!!」

 

「死んでも勝つって意味がわからないなぁ」

 

 そう話しながらも、ルドルフはもう一度タイガに勝つ為の方法を考える。

 

(このまま戦っていてもジリ貧だ。僕がこの扉の前から動かずに相手との距離を保って【必中弾ストライクバレット】を撃ってもすぐに斬り落とされる。本当に僕はこの人に勝てないのか……? いや、必ず勝つ! そう決めたんだ! でもどうやって……。兄さん。兄さんならこんな時……)

 

 そしてルドルフはグレンとの会話を思い返していた。


 ◇

 

 

 数年前


 

「兄さんはやっぱり強いなぁ。兄さんに触れられたら僕の銃弾が全て無力化されちゃう。どうやっても勝てないや」

 

「ははは! ルドルフ! おめぇは真面目すぎんだよ!」

 

「真面目すぎる?」

 

「そうだ! 敵と戦ってんのにクソ真面目に正面から攻撃してどうする? 俺みてぇに全ての銃弾に対応されたら勝てねぇだろ」

 

「じゃ、じゃあどうすれば……?」

 

「んなもん簡単じゃねぇか! おめぇは頭がいいんだから相手の行動を予測して誘導し、使えるもんは仲間でもなんでも囮に使え! そんで相手の死角から攻撃すりゃあいいんだよ」

 

「そんなの出来るわけないよ!」

 

「ははは! 出来る! おめぇは俺の弟なんだからよ!」


 ◇

 

 

(――――兄さん……。やってみるよ! 自分を……兄さんを信じる!)

 

「ん? 君、目の色が変わったねぇ? まだ俺に勝てるとか思ってるのかい?」

 

「僕は最初からそのつもりですよ……!」

 

 そう言いルドルフは左手でタイガに銃弾を連続で放ち続ける。

 

「それはもう飽きたって言ってんの……!」


 タイガは向かってくる銃弾に全て対応していく。それでもルドルフは撃つのを止めない。


 そしてルドルフは左手で銃を撃ちながら扉から離れ走り出す。

 

「あらぁー? 扉から離れちゃうのかい?」

 

「えぇ。僕はあなたに勝つために……その扉を捨てます!」

 

 そう言いルドルフはあえて一瞬銃を撃つのを止めた。

 その隙にタイガは扉の方へと走り出した。

 

「クハッ! 君、今のは二人を見殺しにするって言ったのと同じだよ? まぁどうでもいいけどさぁ!」

 

「見殺しになんてしませんよ。あなたが勝手に勘違いして僕の誘いに乗ってくれただけですよ」

 

「何それ? 俺がいつそんな誘いに…!?」


「あなたは僕のことをなめている。僕のことはいつでも殺せると思っているでしょう。だから僕が扉の前から離れた時、あなたは先にマサムネさんとサナエさんを殺してしまおうと考えたでしょう?」

 

「だから何だと言うんだい……?」

 

「ふっ。図星ですか……。あなたが僕をなめていてくれたおかげで僕はあなたに勝てました」

 

「クハッ! 勝てた!? 俺はまだ一度も君の攻撃を食らってないんだけど!?」

 

「いえ、次は当たりますよ」

 

 そう言いルドルフは右手で四発、左手で四発の銃弾を放った。


 しかし肩を負傷した右腕は満足に上がらず、手首の角度だけで狙いを定めた為、右手で放った銃弾はタイガから大きく外れ、部屋の四方へと飛んで行った。

 

「クハッ! どーこ狙ってんのさぁ!? そんな肩じゃ右腕が満足に上がらないって言ったでしょうが!」

 

 タイガはルドルフを嘲笑った。

 そして左手で放った銃弾はタイガの正面へ。タイガはそれらを当たり前のように対応し始める。

 

「だからさぁ! こんなのは当たらないって言ってるよねぇ!?」

 

「あなたはこの期に及んでまだ僕をなめている。その油断、慢心、奢りがあなたに隙を生み、その銃弾に気付けない……!」

 

「はぁ!?」

 

「【追尾弾ホーミングバレット】!!」

 

 ルドルフがそう言うと先程右手で放ち四方へ飛んで行った四発の銃弾がくるっと向きを変え、タイガの両手両足を撃ち抜いた。

 

「がああああ……!!」

 

 タイガは叫び声をあげその場に座り込んだ。

 そしてルドルフはタイガの眉間に銃口を当てた。

 

「や、やめろぉ……!!」

 

 両手両足を負傷し刀も爪も使えなくなったタイガは泣きながらルドルフに懇願した。しかしルドルフは無情にも引き金に指をかける。

 

「ばーーーん!」

 

 そしてルドルフは引き金から指を離し、口頭で脅かすように銃声を真似た。それに驚いた満身創痍のタイガは、いとも容易く失神した。

 

「ふぅ……。あなたは僕より強かった。でも、あなたが僕より賢くなくてよかった」


 ルドルフは負傷した右肩を押さえ、奥の部屋へと進んだ。

 

 こうしてグレン、シルキー、ルドルフの手によって将軍の三名の侍は倒されたのだった。

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