第28話 サナエの決意


 ※このEPはサナエ視点でお送りします。


 ◆


 

 

 俺達が城の内部へと侵入する前。昨晩、サナエがリオン達とオアシスの前で別れた後まで遡る――――


 ◇


 

 私はリオン達に明日の朝、オアシスに行く事を約束し家へと帰った。

 

 帰宅後、私は父と母に今日の出来事を話した。

 二人は驚いた様子だったが、里の為、家族の為によく頑張ったと私を褒めてくれた。

 

 侍になりたいと言ったあの日から、二人は私の想いを尊重し支えてくれていたが、褒められたことはなかった。

 

 だから凄く嬉しかった。

 これだけの功績をあげたのだからもしかしたら将軍様も認めて下さって、私を侍にしてくれるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱きながら私は眠った。


 ◇

 

 

 翌朝

 

 私はいつもの鍛錬へ出掛けようと準備をしていた。

 すると家の扉を叩く音が聞こえた。


 ドンドンドンドンドン


「はーい!今出ますねー!」

 

 母が外に向かって返事をした。

 だが、母はまだ満足に歩くことが出来ずにいるので、代わりに父が扉を開けた。

 するとそこには無数の役人が立っていた。

 

 ――父の職場の人が迎えに来たのか?

 私はそのくらいに思っていた。しかし現実は違った。

 父は役人達の先頭にいた男に話しかけた。


 

「おぉダイモン。こんな朝早くにどうしたんだ? 俺は今日は午後から仕事の予定だが?」

 

「マサオか……。心して聞けよ……」

 

 マサオとは父の名である。父はダイモンという男にそう言われ不思議そうな表情をしつつも、少し身構えた。

 

「お前の娘、サナエは大罪人として直ちに拘束し城へ連行し、侍達に引き渡し、明日の朝――――処刑される事になった……」

 

「何ぃ……!?」

 

 父はその言葉を聞き、ダイモンの胸ぐらを掴み激怒した。

 

「どうしてサナエが大罪人なんだ!?」

 

 父はダイモンを怒鳴りつける。

 しかしダイモンは淡々と話を続けた。

 

「昨晩サナエは町のゴロツキ共と協力し人斬りをとらえた」

 

「それは知っている! サナエから聞いた! よくやったと褒めていたところだ!」

 

「だが、その人斬りは…………」

 

 そう言いダイモンは口を噤んだ。

 

「何だ!? その人斬りが何だと言うんだ!?」

 

 父はダイモンの体を揺らし聞いた。

 するとダイモンはゆっくりと口を開いた。

 

「その人斬りは……ヨシロウ様だったんだ……」

 

 すると父は膝から崩れ落ちた。

 その後、絶望した表情で私を見た。

 

 ――ヨシロウ様……。

 将軍様の息子だと父から以前聞いた。

 ヨシロウ様が人斬りだって……?

 

 私は未だ、何が何だかわかっていなかった。

 しかしダイモンは続けた。

 

「人斬りを捕縛した事は里のことを考えればいい事だ。そしてその正体は誰も今まで知らなかった。しかし昨日サナエ達によって引き渡された人斬りの正体が、ヨシロウ様だと判明してしまった。当直だった役人達はそれを上に報告した。本来なら厳しく罰せられるはずだった――――が、人斬りの正体がヨシロウ様と知った将軍様は、あろう事かそれを隠し、人斬りの正体を……サナエに……。サナエに仕立てあげろと命じられた……!」

 

「な、なんという……! ぐっ……!」

 

 父は悔しそうに涙を流し、ダイモンの脚を掴みすがりついた。

 

「すまん……。俺に力がなく……。どうする事も出来んかった……!」

 

 ダイモンは俯き、両手を握り、父と同じように涙を流していた。

 

 この様な卑劣で狡猾な将軍の行為に、私はふつふつと怒りが湧き上がってきた。

 そして私は今後自分がどうなるか、家族が、リオン達がどうなるかを考え、決意した。


 

「ダイモンさん。私が城へ向かえばいいのですね?」

 

「サナエ……すまん……!」

 

「サナエ! 行くな……! 行ってしまっては……処刑されてしまうのだぞ……!?」

 

「父さん、ごめんなさい。私はもう将軍を許すことはできない。それにこれ以上父さんが私の為に役人達に逆らったら、反逆罪になってしまうかもしれない。――――家族に罪人は私だけで十分だよ」

 

 父は私の話を聞き、声を上げ号泣した。

 その間、母は何も言わずただ黙って私を見ていた。

 

「サナエ、本当にすまない……」

 

「ダイモンさん。私にそんなに態度をとる必要はありませんよ。父と同期のよしみで同情してくれてありがとうございます。しかしダイモンさんは私を捕まえる命を受けたのでしょう? それならば堂々とそれを全うして下さい。でないとダイモンさんも反逆の意思があるとみなされますよ。この後リオン達の所へも行くのでしょう?」

 

「……っ! わかった……! ありがとう……サナエ」

 

 私は黙って頷いた。

 ダイモンはそう言うと令状を読み上げ、私の腕に縄をかけ拘束した。

 

 家を出る時、私は父と母に向かってこう言った。

 

「父さん、母さん。私は何も悪い事はしていない。必ず帰って来る。だから何もせずここで私の帰りを待っていて欲しい」


 父は泣き崩れ、母は私を真っ直ぐ見つめ頷き「いってらっしゃい、サナエ」とだけ言い、笑顔で見送ってくれた。



 ◇

 

 そして私は、役人に連れられ城へと入った。

 そのまま四階へと上がり三名の侍へと引き渡された。

 

「コイツがサナエか。いい女じゃねぇか! ガハハ!」

 

 ――この笑い方……ゲンブだな。

 

 私には覚えがあったが、ゲンブは覚えていないようだった。

 

「おい、女ぁ。間違っても助けが来るなんて思わないようにねぇ。まぁ来たとしても俺達が返り討ちにするから関係ないけどねぇ」

 

 このタイガという男も試験会場で見た覚えがあった。

 だが話をしているのを見るのは初めてだった。

 鬱陶しい話し方をするなと思った。

 

「ねぇ。僕もう寝てもいいかな? こんなの二人に任せておいたらいいじゃん」

 

 そう言うスザクという少年を、私は見た事がなかった。

 えらく眠そうに、そしてボソボソと話していたのが印象的だった。

 

 

 この三名の侍達は私がおかれている状況を理解していた。

 そして私を侍達の部屋の奥にある隠し部屋へと監禁し、その手前の部屋で侍達が見張る事となった。


 ◇

 

 そして隠し部屋に通された私の前に一人の男が現れた。男は何も話さずただ黙って私の方を見ていた。

 

 外見は少し長めの黒髪を頭の上で留め、鋭い目付きをし、身体は細身だがしっかりと筋肉もついていて、侍にもひけをとらない風格だった。

 そして男は、表情を変えず、突然口を開いた。


「――――お前が私の代わりに人斬りとなった者か。大儀であるぞ」

 

 私は一瞬、この男が何を言ったのかわからなかった。

 だが、すぐに言葉の意味を理解し、怒りが湧いた。

 しかし両手両足を鎖で壁に繋がれ身動きが取れずにいた私には、この男に殴り掛かることも出来ない。

 

「何故! 何故お前は人を斬る!? 何の罪もない人達を何故傷付ける!? 答えろ! 人斬り!!」

 

 私は怒りのままにそう叫んだ。

 すると男は鼻で笑うとゆっくりと口を開いた。

 

「ふっ……。何故人を斬る……か。――――そんなものただの退屈しのぎに決まっているであろう?」

 

「何ぃ……!?」

 

 私は怒りで頭がおかしくなりそうだった。

 何故私がこんな奴の代わりに処刑されなければならないのか。

 

 ――許せない……許せない……許せない……!

 

 すると男は突然、私に向かって話を始めた。

 


「――――私はヨシロウ。父はこの里の将軍である」

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