第29話 人斬りの過去


 ※ このEpは、人斬りヨシロウ視点での構成となります。


 ◆

 


 

 私はヨシロウ。

 三代目将軍ヨシユキの息子として生を受けた。

 

 将軍である父だが、少々臆病すぎるきらいがあった。

 その原因は元々の性格もあるが、一番は私の祖父にあたる二代目将軍ヨシイエが町の者に暗殺されたことだ。

 

 そして父上は一族にある一つの決まりを設けた。

 それは――――『城の外へは出てはならない』というものだ。

 

 私が物心がついた頃には、その決まりが浸透しており、私はどれだけ歳を重ねようとも友と外で遊ぶ事も、若い娘と遊ぶ事も禁じられた。

 

 幼い頃からそうであったが故、初めは普通の子供だった私も、いつからか心を閉ざし、次第に誰とも口をきかなくなった。

 

 そして私は長い孤独な時間を過ごし、次第に楽しそうに笑う町の連中にも、周りにいるだけで何の役にも立たない役人共にも大きな憎しみを抱くようになった。


 ◇

 

 そんなある日、私が一〇歳になった頃。


 

「ヨシロウよ、退屈ならばこれを使って遊びなさい」

 

 そう言われ父上から一本の刀を譲り受けた。

 それは何もない私には遊び道具として丁度良かった。

 私はそれまで何をしてもつまらない人生だったが、刀を手にしてからは一人で鍛錬を積むようになり、強くなっていく事に少し喜びを覚えた。


 ◇

 

 そして更に一年が経ち、私は一人での鍛錬に限界を感じ始め、刺激を求めて侍達の元へ向かった。

 

 私は侍達に稽古に付き合えと命じた。

 

「若様と刀の稽古ですかい? 俺たちゃ別に構わねぇですが、刀だとうっかり殺しちまうかもしれませんぜぇ?」

 

「若様を殺すなど口が裂けても言わない方がいいよぉ? ゲンブ殿。じゃないと俺がお前を叩き切る事になるからねぇ」

 

「ゲンブ! タイガ! お前達そのくらいにしないか! 若様の御前だぞ! ――――失礼しました若様。何なりと私共にお申し付け下さいませ」

 

 身の程を弁えない二人に怒鳴り声を浴びせると、その男は頭を下げた。そして私はその男に名を聞いた。

 

「はっ。私はリュウと申します」

 

 この三名の侍達は、里で上位三名に残った強者だと聞いていた。だが、それぞれ性格に一癖も二癖もあった。

 そして、それらをまとめていたのがこのリュウという男だった。

 

 リュウは規律を重んじ、自分に厳しく、統率力もあり、刀の腕も一流で鋭く黄色い目が印象的だった。

 

 私はまだ幼いながら、このリュウこそが父上よりも将軍に相応しいのではないかと思った。


 ◇

 

 そしてそのリュウの申し出により、刀ではなく木剣での稽古を行う事となった。

 それから私は毎日侍達と稽古を重ねていった。

 

 しかし一年もすれば、ゲンブとタイガは木剣での稽古に飽きたと言い、稽古に参加しなくなった。

 私はそれに憤り、リュウの反対を押し切り刀での稽古を提案した。

 そして私は侍達に私を殺す気で来いと更に命じた。


 ◇

 

 それから五年。幾度となく侍達と殺しあった結果。

 私はスキルが目覚め、ゲンブとタイガを圧倒する程の力を手に入れた。

 そしてゲンブとタイガは私の力に恐れをなし、私と関わるのを避け始めた。

 

 そんな中、私はリュウにだけ未だ一度も勝てずにいた。

 リュウは侍達の中で一番の強者だった。その強さの所以は一手先の未来を見る【竜の目】というスキルを持っていたからに他ならなかった。

 

 リュウは刀の腕もさることながら、【竜の目】を使い、どんな攻撃をも受け流し、どんな小さな隙をもついてきた。

 

 私は初めこそリュウの事を尊敬すらしていたが、次第に疎ましく思うようになっていた。

 

 ――何故勝てぬのか?

 刀の腕なら私の方が上だと言うのに。

 あの目のせいだ。

 あの目さえなければ私が負けるわけがないのだ。

 

 いつしか私の頭の中は、リュウをどんな手を使ってでも倒す事で一杯になっていた。


 ◇

 

 そして更に三年が過ぎた頃。

 私はリュウを隠し部屋に呼び出し、ここで勝負をする事を命じた。

 

「若様、何度やっても私の目にはどんな攻撃も見えてしまいます。若様のスキルは強力ですが、私には通用しません。もう既にゲンブとタイガよりもお強くなられたのですからもうこれ以上は……」

 

 そう言いかけたリュウに私は刀で斬り掛かる。

 しかし彼の目によって、それはことごとく阻まれる。

 

 そして私はいよいよ限界に達し、姑息な手段をとることにした。

 それは勝負の合間、リュウに睡眠剤を栄養剤と偽り飲ませることだった。

 

 その内にリュウは眠りにつき、私は眠っているリュウの瞼を斬った。

 

「ぐあああああ…………!!!!」

 

 リュウは叫びもがき苦しんだ。

 そして私はそんなリュウに対し、もう一度勝負をしろと命じた。

 

「若様……どうしてこんな事を……?」

 

「リュウ、お前は目に頼りすぎなのだ。その目を今一度封じ、私に勝てたのなら、その時こそお前を認めてやろう」

 

 私はそう言い、目を開けることすら出来ずにいるリュウの首を一振りではねた。


 リュウはそのまま絶命し、私はリュウの顔を見た。

 あれ程までに疎ましく思っていたリュウを殺したというのに、何故か私は涙を流していた。

 

 その後私は、何度も何度もリュウの顔に謝った。

 しかしリュウは返事をしなかった。

 その時、私の頭の中は罪悪感で溢れた。

 それと同時に、この里で最強だったリュウを殺したことで自分が最強になったのだと自覚した。


 

 そして私はもう一つ、とある事に気が付いた。

 それは、リュウのスキル【竜の目】を奪えるという可能性。

 

 そして私は罪悪感を振り払うかのように、リュウの目と自分の目をくり抜き、入れ替えた。

 すると目の前が真っ暗になり何も見えなくなった。


 ◇

 

 

 暫くして私は城の治療所で目が覚めると視界が驚く程綺麗に戻っていた。城の治療師によるものだった。

 

 そして私は自分の目を鏡で確かめてみた。

 するとそれは自分の目の色ではなく、リュウの目と同じ黄色い目になっていた。

 

 しかし目を入れ替えることには成功したが、まだスキルが使えていない。

 スキルはやはり与えられた人間にしか使えないのかと私は思っていた。

 だが、治療所に父が入ってきた時にそれは起こった。


 

 父上は自分の侍を私に殺されたことに怒り、私に刀を向けた。

 その瞬間、父の殺気を感じ、一手先の未来が見えた。

 私はそれを頼りに父の刀をなぎ払った。

 

 

「ふっ。ヨシロウよ、強さを求めた果てにリュウを殺し、【竜の目】すらも手に入れよったか」

 

「はい、父上。私は父上から頂いた刀と、この【竜の目】によりこの里で最強となりました」

 

「そのようだな。最強となった今、これからどうするのだ?」

 

「私の好きに生きさせて頂きます。父上は今までと何も変わらず城におられればよろしいかと」

 

「くっくっく。そうであるか。では好きに生きるとよい。我は何も言わん」

 

「有り難き幸せに存じます」


 

 私はそう言い部屋を出た。

 その後、父上は新しい侍としてスザクという少年を迎え入れた。彼は【不死鳥】というスキルを持ち、ゲンブやタイガにも劣らぬ実力を持っていた。

 

 そしてどういう理屈かはわからないが私はリュウのスキル【竜の目】を手に入れる事が出来た。

 

 それから私は、ゲンブとタイガの所へ行き、私に攻撃するよう命じた。

 そして私はそれらを全て躱した。

 

 何時間にも及ぶ特訓により、スキルの使い方にも慣れ私は二人の元を去った。


 

 リュウを殺し、スキルを手に入れた私だったが孤独で退屈なのは何も変わらなかった。

 

 そしてその孤独と退屈は次第にリュウを殺してしまった罪悪感へと変わり、私はそれに押しつぶさそうになっていった。

 

 そして私の中にはもう一つ、幼い頃から持ち続けた役人共と町人への憎しみがあった。

 

 私は罪悪感を払拭するかのように、憎しみに身を任せ夜な夜な町に出ては、無差別に人を襲い、殺した。

 

 すると罪悪感で一杯だった私の中に少しのゆとりの様なものが生まれた。

 

 それはただの幻想か、はたまた全てから開放されたいという希望かはわからなかったが、私はそれに縋ってしまった。


 

 そして気が付けば何人もの人を殺し、その行為をただの退屈しのぎだと自分に言い聞かせ、いつの間にか人斬りと呼ばれるようにまでなってしまっていた。



 

 

 

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