第30話 仲間


 ヨシロウの話を最後まで聞かされた私は、これまでの極悪非道な行いの動機を知った。だが、それは全く同情出来るものではなかった。

 

 そして話を終えたヨシロウは、部屋から出ようと扉に手をかける。しかし私ははそれを声を掛けて制止した。

 

 

「おい、待てヨシロウ……」

 

「何だ……」

 

「貴様……人斬りとして生きるのが辛いのか?」

 

「………………。私にそのような事を言う資格はない」

 

 ヨシロウは少し俯き、少しの間を開けて答えた。

 私は彼がどこか、胸の内を表に出さないよう努めているように感じた。

 

「そうか。だがお前がしてきた事は到底許されるものではない。もう時期ここへきっと、私の仲間が来る」

 

「……何故わかる?」

 

「わかるさ。仲間だからな。もし私が逆の立場だったとしたら、私は全てを捨ててでも助けに行く」

 

「仲間とは……そういうものか」

 

「あぁ。そういうものだ」

 

 私がそう言うと、ヨシロウは扉から手を離し、私の腰元に刀を差し込んだ。

 

「……返しておく」

 

「なんの真似だ?」

 

 私の問いにヨシロウは「特に意味はない」とだけ返し、扉の横まで戻り腰を下ろした。

 

「さて、では……待たせてもらおう。私には仲間がいないのでな。少し興味がある」

 

「ふっ。好きにしろ」

 

 ヨシロウの言葉に私は吐き捨てるように笑った。

 そして段々と、部屋の外が騒がしくなり始める。


 

「……どうやら来たようだな」

 

「あぁ……! 私の仲間達だ……!」



 ◇

 ※ ここからはリオン視点に戻ります。

 

 

 そして現在。

 

 シルキーの策により侍の部屋から出た俺は、隠し部屋に繋がる通路を走っていた。


 

「シルキーがくれたこのチャンス。絶対無駄にはしない! サナエを必ず助け出す!」

 

 そして俺は長い通路の先に扉を見付けた。

 

「あれだ……! 待ってろよサナエ……! 今助けるからな!」


 そして俺は勢いよく扉を開けた。

 すると目の前には壁に鎖で両手両足を繋がれたサナエがいた。


 

「サナエ……!」

 

「リオン……!! やはり来てくれると信じていた!」

 

「当たり前だろ! 俺は仲間を見捨てたりはしない!」

 

 そう言い俺はサナエの元へと駆け寄る。

 すると背後からザザッと足音が聞こえた。

 振り返るとそこには一人の男が立っていた。


 

「ふっ……これが仲間というものか、サナエよ」

 

「あぁそうだ……!」

 

 男がそう言うとサナエはそう答えた。

 

「ふふっ……そうか……。これが仲間か……。俺にはないものだな……ふはははは……!」


 すると男は手で目を覆い、上を向いて笑い始めた。

 

「何がおかしい!?」

 

 サナエがそう問いかける。

 

「いや、何でも。私には仲間はいないのでな。どんなものかと少し興味があったが…………なんてことはない。私の憎しみそのものではないか」

 

「何を言って……?」

 

 サナエがそう言うと男は更に話を続ける。

 

「私は幼い頃からずっと一人で生きてきた。役人共も町の連中も皆、仲間と呼べる者がいたのだろう。私が持っていないものを持っているお前達を見ていると、私の中にある憎しみがこみ上げてくる。私の憎しみの原因であるお前達がへらへらと馴れ合う姿を見ると、全てを壊したくなるのだ……」

 

 そう言うと男の様子が変わり、びりびりと肌で感じられる程の殺気を放ち始めた。すると男は、俺を指さし、鋭い目付きで睨み付けた。

 

「おいお前……。お前はサナエの仲間か?」

 

「そうだ。俺はリオン。サナエの仲間だ……! そう言うあんたは何者だ?」

 

「私はヨシロウ。いや、こう言うべきだろうか……。私は――――人斬りだ」

 

「……っ! お前が……人斬りかぁ……!!!」

 

 ヨシロウがそう言うと俺は我を忘れ、叫びながらヨシロウに掴みかかる。俺はヨシロウの胸ぐらを掴み怒鳴った。

 

「なぜお前は人を殺す!? 答えろ……!!」

 

 するとヨシロウは顔色を変えずに口を開く。

 

「なぜ人を殺すかだと? ふっ。先程サナエにも同じような事を聞かれたな。そんなもの決まっているだろう? 私が人を殺すのは単なる退屈しのぎだ。それ以外に何か理由でもあるのか?」

 

「ふざけんなよ……? なんでお前なんかの為に、サナエがこんな目に遭わなくちゃならないんだ!!」

 

 淡々と話すヨシロウに俺は更に怒りを覚え、右手を口に変え噛み付こうとした。

 しかしヨシロウは俺腕を掴み、それを止めた。

 そしてヨシロウは薄ら笑いを浮かべながら、口を開いた。

 

「それは……お前達のせいだろう?」

 

「何……?」

 

 俺はヨシロウの言葉を聞き、動きを止めた。

 

「わからないのか? お前達がサナエを誘い、私を捕縛したからだろう? 丁度いい身代わりを私に与えたのはお前達ではないか?」


 ――俺達のせいで……サナエが……?

 いや、違うだろ……。

 そもそもコイツがしている事が原因で、俺達に非があるはずがない。


 俺は自問自答を繰り返している最中、気が付けばヨシロウから手を離してしまっていた。


「リオン…………!!」

 

 サナエの声が部屋中に響いた。俺はその声でハッと我に返った。

 刹那――――ヨシロウは刀を抜き俺の肩に刀を振り下ろした。


「ぐっ……ぐぁぉぉぁぁっ……!」

 

「リオン……! おい、大丈夫か!? リオン!」

 

「ふははは! 心配するなサナエよ。今のは峰打ちだ。おい、リオンとやら。次は確実に始末するぞ?」

 

「くっ……黙れ人斬りが……。俺はサナエを助けに来たんだ……。それまで俺は……お前にやられるわけにはいかない……んだ……!」

 

 そう言い俺は峰打ちされた部分を手で押さえヨシロウを睨みつけた。

 

「くっ……。まずサナエを助けないと……!」

 

 俺はそう呟きサナエの方へと向かう。

 

「ふははは! 戦闘中に敵に背中を向けるとは! そんなに仲間が大事か?」

 

「大事だ! 故郷を離れ、一人だった俺に初めて出来た仲間だ! 自分の命よりも大事に決まってるだろうが!!」

 

 俺はヨシロウにそう叫んだ。

 するとヨシロウはまた笑い始める。

 

「ふはははは! そうか、お前も一人だったのだな? そして今は仲間がいると……? ふははは! ――――ならば、尚更全部ぶち壊したくなったわ……!」

 

 そしてヨシロウは刀を構え、俺の方へと走り出し、そのまま俺の背後から刀を振り下ろした。

 

 刹那――――ヨシロウの刀は何かによって弾かれた。


 

「ほっほっほっ。遅くなってしもうたのう。リオン、傷は大丈夫かの?」

 

「マサムネ……!!」

「マサムネ師匠……!?」

 

 隠し部屋にあるもう一つの扉から現れ、ヨシロウの刀を弾き返したのはマサムネだった。

 

「マサムネ、どうしてここに!? ルドルフは?」

 

「ルドルフが機転をきかせてワシを先に行かせよったんじゃ」

 

「そうか、さすがルドルフだ!」

 

「ほっほっほ。サナエよ! 無事じゃろうのう?」

 

 マサムネはヨシロウの刀を警戒しながらそう聞いた。

 

「大丈夫です! 師匠! 私は武士です! こんなところで死ぬわけにはまいりません!」

 

「ほっほっほっ。よう言った! リオン! コイツはワシに任せてさっさとサナエを解放してやれ」

 

「あ、あぁ! わかった!」

 

 俺はそう言いサナエの鎖を全て噛み砕き捕食した。

 

「ありがとうリオン! これで私も自由だ!」

 

「おう!」

 

 俺はサナエに礼を言われ笑顔で親指を立てた。

 そしてヨシロウとマサムネは刀を構え、向かい合っていた。

 

「…………なんだお前は?」

 

「ワシか? ワシはただの死に損ないのじじぃじゃ。サナエの刀の師匠でもあるがの。ほっほっほっ」

 

 マサムネはそう言い笑った。

 

「師匠か……。仲間ではないのか?」

 

「ほっほっほっ。仲間とは少し違うかもしれんのう。…………じゃが! サナエを大事に想う気持ちはリオン達と同じじゃ!」

 

「そうか……。ならばお前も私の憎しみの原因と同じく――――抹殺対象だ……!」

 

 ヨシロウはそう言いマサムネに斬りかかる。

 そしてマサムネはそれを受け止め、鍔迫り合いを始めた。

 

「かかってこい! 若造が! お主は将軍一族の恥じゃ! 絶対に許さん!!」

 

「黙れ! 死に損ないのじじぃが! 二度とそのような口がきけぬよう、叩き切ってくれるわ!!」


 

 そしてこれから、隠し部屋での戦闘は激化していく。

 

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