第31話 竜の目


 マサムネの登場でサナエを助け出す事に成功した俺は、サナエと二人でマサムネとヨシロウの戦闘に助太刀する機会を伺っていた。


 

「ほっほっ。中々良い剣筋じゃ。誰に教わった?」

 

「誰にも教わってなどいない。私は己の力のみで強くなった」

 

「ほっほっほっ。笑わせるのう。剣は己の力だけでは強くなれん。自らの師を見付け、導かれ最強へと近付く。それがワシの持論じゃ。ほっほっほっ!」

 

「ふっ。くだらん持論だ。話が合わない。――――死ね」

 

「ほっほっ。じゃから師のいないワシもお前と同じく、最強にはなれんのじゃがの」

 

 マサムネがそう言うとヨシロウはマサムネの刀を払い、自分の刀をマサムネの首目掛けて振り下ろした。

 刹那――――ヨシロウの刀は弾き返され、部屋中に金属音が鳴り響く。

 


「ほっほっほっ。ワシも老いたのう。まさか弟子に助けられるとはのう。サナエよ」

 

「師匠は死なせませんよ! まだ生きて教えてもらいたい事が沢山あります」

 

 サナエはいつの間にか俺の横から消え、高速でヨシロウとの間合いを詰め、攻撃を防いでいた。

 

「サナエェッ……!」

 

「ふっ。お前が刀を返してくれたおかげで師匠を助けることが出来た。感謝……してやろうか?」

 

「…………ほざけ」



 そう言い二人は刀で押し合い、お互いに距離をとると、間合いの外へ出た。

 そこで俺は、戦闘に加わろうとマサムネとサナエの側へと近付く。するとマサムネが真剣な表情で口を開く。

 

「リオン。サナエを解放した今、お主がここにおる意味はない。あの若造はワシとサナエで何とかする。お主はそこの壁を掘り進み、上の階へ上がるのじゃ」

 

「はぁ!? 待ってくれ、俺もアイツと戦うよ!」

 

 俺がそう言うとマサムネは首を横に振った。

 

「今ここで三人がかりであの若造を倒しても、恐らく無傷では済まんじゃろう。その手負いの状態でヨシユキの所へたどり着いたとしても、勝算は薄い。リオンは見たところほぼ無傷に見える。ならここはワシとサナエに任せてお主だけでも上へ行くんじゃ!」

 

 マサムネの言うことは正しいと思った。

 だから俺は、ヨシロウにやり返したいという子供みたいな気持ちを心の奥にしまった。

 

「大丈夫だリオン! 私達が必ずアイツを倒す! だからリオンは安心して、思いっきり将軍をぶっ飛ばしてきてくれ!」

 

 サナエのその言葉にハッとさせられ、俺の腹は決まった。

 

「わかった……! じゃあ二人とも……ここを頼んだ!」

 

「任せろ!」

 

「ほっほっほっ。リオン、油断するでないぞ。ヨシユキは臆病者じゃが、強いぞ……?」

 

「わかってる! じゃあいってくる!」

 

 俺はそう言い残し二人と別れた。そして壁に穴を開け、土を捕食しながら上へと向かった。


 

「お前達……あの男に何をさせるつもりだ?」

 

「ほっほっほっ。お主は知らんでよいことじゃ」

 

「師匠の言う通りです。お前の相手は私達だ!」

 

 そう言うと二人は左右にわかれヨシロウに斬りかかる。しかしヨシロウは不敵な笑みを浮かべそれを後ろへ跳び躱した。

 

「ふはははは! 無駄なことを……。二人でかかれば私に勝てるとでも思ったのか? 私は【竜の目】を持っている。私には一手先が見えている! お前達など相手にならんわ!」

 

 ヨシロウはそう言うと高笑いをしながら二人を見る。

 

「ふぅ……【竜の目】……。これまたやっかいじゃのう……」

 

「師匠、何か策は無いのですか!? このままでは……」

 

 サナエがそう聞くとマサムネは暫く思案してから、口を開いた。

 

「そうじゃのう。一度試したい事はある」

 

「それは何ですか?」

 

「じゃが、まだ確定ではないんじゃ。じゃからサナエ――――」

 

 マサムネはサナエにとある策を伝えた。


 

「――――わかりました……! やってみましょう!」

 

 そして二人はその策を実行に移す。

 サナエは刀を構え、集中力を高める。

 

「スーー……。ハーー……。――――【剣技 閃光】!!」

 

 そしてサナエは技名を口にすると同時に、高速でヨシロウの懐へ入り、そのままの速度で斬りかかる。


 しかしヨシロウは【竜の目】で、サナエの一手先を見て、それを防いだ。

 

「何度やっても同じだ! どれだけ早かろうとも私には一手先が見えている。見えていれば防ぐことなど容易い!」

 

 ヨシロウがそう言っている間に、マサムネはヨシロウの背後に回り込み、斬りかかった。

 

「これならどうじゃ!」

 

「ふははは! いくら私の死角に入ろうとも、サナエの視線で居場所が丸分かりだ! じいさんよ!」

 

 不意をついたマサムネの一撃。だが、ヨシロウはサナエの視線から逆算し、マサムネがいる方へ目を向けた。

 

「ほっほっほっ。良い勘と動体視力じゃ。じゃがそれでもよい。ワシのこれは――――囮じゃ!」

 

「何……!?」

 

「はぁぁあ……!!」

 

 ヨシロウがマサムネの言葉に動揺している一瞬の隙に、サナエはもう一度刀を振り、彼の脇腹を斬った。

 

「ぐっ……があぁぁぁ……!!」

 

  ヨシロウは血が噴き出す自らの脇腹を押さえ、二人を睨みつける。

 

「サナエよ! 一度距離をとるのじゃ!」

 

「はい! 師匠!」

 

 そう言い二人はヨシロウから言葉通り、距離をとった。


 

「ほっほっほっ。確定じゃの」

 

「何がです? 師匠」

 

 自慢気に笑うマサムネにサナエは、訳も分からずそう問う。するとマサムネは、真剣な表情で説明を始めた。

 

「奴の【竜の目】の弱点がわかったんじゃ……」

 

「えっ!? 本当ですか、師匠!!」

 

 驚愕するサナエに、マサムネは一度頷き、話を続ける。


「奴の【竜の目】は、対象一人を見ることでその一手先を見ることが出来る能力じゃ。つまり、二人同時に先読みすることは不可能ということじゃ」


「確かに……。先程の私と師匠の連携もそうですが、以前戦った時も、リオンとシルキーが似たような事をしていました。それに奴は、一切対応が出来ていませんでした……!」


「そうじゃろう。加えて、恐らく奴は、今まで己の動体視力と反射神経で同時攻撃も自分が見える範囲でなら、躱したり防いだりと対応して来たはずじゃ。じゃが片方が死角に入るとそれを見ようと一度対象から視線を外し、死角にいる者に対象を切り替える必要がある。いくら奴でも連続攻撃と同時攻撃を組み合わせられれば対応出来んくなるはずじゃ」


「なるほど……。つまり先と同じ様に、二人で同時攻撃を続ける。そういう事ですか?」

 

「そうじゃ。我が弟子よ、準備はよいな?」

 

「はい! 師匠!」

 

 そして二人は未だ脇腹を押さえ立ち止まっているヨシロウに刀を構える。

 そんな中、ヨシロウは二人を睨みつけ、またも不敵な笑みを浮かべると、その後高笑いを始めた。

 

「ふっ。ふははは! よくぞ私の【竜の目】を見破った! ――――だがそれで勝ったと思うなよ……?」

 

「ほっほっほっ。負け惜しみじゃ。行くぞ! サナエ!」

 

「はい!」

 

 そう言い二人は、先と同じ様に連続攻撃を繰り出す。

 ヨシロウは一つ目のサナエの攻撃を防ぎ、二つ目の背後からのマサムネ攻撃を防ぐ為サナエから目線を外しマサムネの攻撃を防いだ。

 そしてそれと同時にサナエはもう一度刀を振る――――だが。


「確かにその攻撃を【竜の目】で凌ぐのは困難だ。だが……それでは不十分だ……!」

 

 先程通じたはずの三つ目のサナエの攻撃を、ヨシロウはマサムネの刀を弾いてから、サナエの方へと向きを変え、刀を振り、弾き返した。

 そして、その一撃により、サナエの刀は折れてしまった。



「「なっ…………何が起こった!?」」

 

「ふはははは! 【竜の目】を見破った事は褒めてやる。だが、私が女神に与えられたスキルは【竜の目】ではない!」

 

「何じゃと……!?」

 

 ヨシロウの言葉に驚き、硬直しているマサムネ。

 気が付くとヨシロウは、先程までサナエの方を向いていたはずが、瞬きをした程度の一瞬でマサムネの方に向きを変えていた。

 

 その動きの速さを二人は全く目で追うことは出来なかった。

 そしてもう一度瞬きをしたその刹那――――

 

「あがぁぁああああ!!!!!」

 

 マサムネの叫び声が部屋中に木霊した。


 

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