第25話 シルキーとルドルフの策


 グレンが部屋に入りスザクとの戦闘を繰り広げている頃。俺とシルキーが入った部屋には、坊主頭で大柄な一人の男が一心不乱に食事をしていた。

 

 

「おぉ! ちょっと待ってくれな! 今飯食ってるところだ! 後でちゃんと殺してやるからよ!」

 

 そう言うと男は食事を一瞬で全て食べ尽くし、俺達の前に立った。

 立ち上がると更にその男の大きさが理解出来た。縦にもそして横にも大きい。

 しかし太っているのではなく身体は硬い筋肉で覆われているのが見てわかった。

 

「げぷぅーーーー。あぁー食った食った。おし! お前らよくここまで来たな! 外の役人達はどうした? 殺したのか?」

 

 男は大きなゲップをした後、にやついた顔でそう言った。

 

「殺していない。ていうか誰とも戦わずにここまで来た」

 

「おいおい嘘はよくねぇなぁ。何人もの役人達がいたはずだ。そいつらを素通りなんて出来るわけねぇだろ!」

 

  俺がそう言うと男は呆れた表情を見せる。

 

「本当だよー! 私の仲間が城門を突破してくれたおかげで一階は今大騒ぎなんだよー!」

 

「なにーー!!?? そうなのか!?」

 

「気付いてなかったのかよ!!」

 

 シルキーの言葉に男は驚いた様子だった。俺は思わずツッコんでしまった。

 

「まぁいい……。お前らちゃんと俺を楽しませられるんだろうなぁ!?」

 

「それはちょっと保証できないな」

 

「あ……!?」

 

 俺がそう言うと男は表情を歪ませた。

 

「楽しむ余裕なんて、ないかもよー!」

 

 シルキーは言葉を発すると同時に男に向かって飛び出した。

 

「へっ! おもしれぇ! かかってこいやぁ!! このゲンブ様が相手をしてやる!!」

 

 そう言いゲンブは両手を広げ俺達を迎え撃つ体制に入った。

 

 シルキーは太腿からナイフを抜き、いつものように背後から、俺は正面から両手を口に変え二人で同時に攻撃を開始。

 しかしゲンブは攻撃が当たるまでピクリとも動かなかった。


 ガキン……!

 

 そして、俺達の攻撃はゲンブの硬い皮膚に阻まれ弾き返された。

 

「ガーハハハ! そんな雑魚い攻撃くらうかよ! 俺様は【大亀】のスキルで全身を亀の甲羅のように固くできる! お前らの攻撃くれぇじゃ俺様に傷一つつけられねぇよ!」

 

「くっ……! なんだよ【大亀】って。亀でいいじゃんかよ」

 

「ほんとだよねー。アイツの身体固すぎてナイフ一本折れちゃったよー」

 

「亀でいいじゃんだと…!? よくねぇよ!! 俺の身体はでけぇだろ! だから大亀なんだよ!!」

 

「いや、それただお前がでかいだけだろ。スキルの能力じゃないって」

 

「ぷぷぷー! 確かに確かにー! リオっちの言う通りだねー!」

 

 するとゲンブはただならぬ殺気を放ち俺達を睨みつける。

 

「テメェら……。余程俺様に殺されてぇらしいなぁ……? いいぜぇ……全力でぶち殺してやるよォ……!!!」

 

 そう言いゲンブは俺達に襲いかかってきた。

 刹那――――

 

 

「ねぇ、リオっち……」

 

「ん? 何、シルキー?」

 

 シルキーはいつになく真剣な表情で話しかけてきた。

 

「アイツは私が引き付けるからさ。その隙にリオっちは奥の扉から出てサナエっちを助けに行って……?」

 

「はぁ……!? 何言って……!?」

 

 俺はシルキーの言葉に動揺した。

 しかしシルキーは構わず続ける。

 

「私なら大丈夫。それに、頭のいいルドルフもきっとそうする!」

 

「おい、待て! シルキー!」

 

 そう言うとシルキーは扉と逆方向へゲンブを誘い始める。

 

「おーいデカブツー! 私が相手になってあげるよー!」

 

「テメェ、このクソチビがぁ!!」

 

 そう言いゲンブは狙い通りシルキーの方へと向かう。

 俺はシルキーのその姿を見て心を決めた。

 

 ――シルキーが作ったチャンスを無駄にはしない……!

 

 ゲンブの隙をつき、俺は奥の扉に飛び込んだ。

 

「て、テメェ……! これが狙いかぁ!?」

 

「そーだよ! お前、でかいだけだし、私だけで十分かなーって! こー見えて、私結構強いんだよー?」

 

「上等だ、クソチビ……! ぶち殺してやる!」

 

  こうしてシルキーはゲンブとの一騎打ちに臨むことになった。


 ◇


 

 一方、マサムネとルドルフが部屋に入ると、中には細身で長身の男が待ち構えていた。

 

「クハッ……! 本当に来たよ! ただ――――」

 

 男はにやつき、その後少し表情を曇らせた。

 

「――――君ら……弱そうだねぇ。一人は死に損ないの爺さんで、もう一人は……。うーん……多少はやれるみたいだけど、それだけだね」

 

「お主、ワシらをなめすぎじゃのう……?」

 

 マサムネは刀に手をかけ男を睨みつける。

 

「おーこわいこわい。でもね、なめてるわけじゃないよ? しっかりと観察した上で俺の方が強いって言ってるんだーけ」

 

「あなた……初対面の人にそういう事を言うのは失礼かと思いますが? まずは名前を名乗りなさい!」

 

 ルドルフは銃を二丁取り出し、男に向けた。

 

「名前? そんなの聞いてどうすんのさー? ふっ……まぁいいよ。――――俺の名前はタイガ。あとさ、俺より弱い奴に、弱いって言って何が悪いわけ? 俺より弱い奴の事なんていちいち気にしてらんないでしょ」

 

 タイガはやれやれといった様子でそう言った。

 

「こんな奴がこの里の侍とはのう。ヨシツグが見たら何と言うかのう……」

 

「そうですね、マサムネさん。こんな奴が侍でいていいはずがありません。僕達で必ず倒しましょう!」

 

「そうじゃの!」

 

 二人はそう言うとルドルフは引き金に指をかけ、マサムネは刀を抜きタイガに向かって行った。

 

「本当にやる気なのかい? はぁ……。しょうがないなぁ……。どうなっても、知らないからね……!?」

 

 タイガは一つため息をついた後、漸く刀を抜きマサムネに向かって行った。


 そして マサムネとタイガの刀がぶつかった瞬間――――ルドルフは引き金を引いた。

 マサムネの刀に対し、同じく刀で対抗しているタイガの両手は完全にふさがっていた。

 

 これは確実に命中するとルドルフは確信した。

 しかしタイガは右足で銃弾を蹴りあげると、それは真っ二つに割れ地面に落ちた。

 

「は……!?」

 

 ルドルフはその様に驚愕し、動きを止める。

 するとタイガは不敵な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「クハッ! 俺のスキルは【虎】でねぇ。俺の爪は刀のように鋭い切れ味なんだよ。そしてその爪は両手、両足に生えている。君らがどんなに一生懸命攻撃してきても、俺は全てを斬り落とす。俺には攻撃が当たらないんだ。わかるかい? だから君らは僕に勝てない」

 

「「…………っ!」」

 

 二人はタイガから距離を取り、勝ち筋を探る。

 タイガは余裕の笑みを浮かべていた。

 するとルドルフは早口でブツブツと独り言を言い始める。

 

「……………………ブツブツ」

 

「なんじゃ、ルドルフ。何を言っておる?」

 

「やっぱりこれしかないようですね……。――――マサムネさん、失礼します」

 

 そう言うとルドルフはマサムネの手を引き、走り出した。そして。もう片方の手でタイガに向かい銃弾を放ち続ける。


「クハッ……! 無駄だと言っているのがわからないのかい?」

 

 そう言いタイガは刀と足の爪でその銃弾に対応していく。

 

 するとタイガのいる位置が、僅かに扉の位置から外れた。その隙にルドルフはマサムネを扉の方へ投げ飛ばした。

 

「マサムネさん! その扉からサナエさんを助けに行ってください!」

 

「お主……! そういう事かい……!」

 

 マサムネがルドルフの策に気付いた瞬間――――タイガは扉の方へ戻ろうとする。

 

「させないよー!?」

 

「いいえ、ここは通してもらいます!」


 バンバンバンッ――――ルドルフはタイガに銃弾を放ち彼の動きを止めた。その隙にマサムネは扉の中へ入りサナエの元へと向かった。


 

「チッ……。君、やってくれたねぇ……?」

 

「あなたの相手は僕一人で十分です」

 

 二人は向かい合い、武器を構え睨み合う。


 こうして二人で部屋へ突入したシルキーとルドルフだったが、奇しくもグレンと同様に侍との一騎打ちとなってしまった。

 

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