第24話 グレンVSスザク


 オアシスのメンバーの乱入により城内はひしめき合っていた。

 俺達は無数の役人達をオアシスのメンバーに任せ、侍がいる四階を目指し走り出した。


 ◇

 

 勢い良く階段を駆け上がって行ったのはいいものの、一階の騒動が思ったより大きくなっていたのか、あっさりと四階まで辿り着く事ができた。

 そしてそんな俺達の目の前には三つの部屋の扉があった。



「えーっと……。ここが四階でこの三つの部屋が侍がいる部屋で間違いないか……?」

 

 あまりにあっさり四階まで来てしまったものだから、俺は再度マサムネに確認した。

 

「ほっほっほっ。まさかここまであっさりと、しかも無傷で来られるとはのう」

 

 そう言いマサムネは笑った。

 

「アイツらに感謝しねぇとな」

 

「帰ったら褒めてあげないとね」

 

「私が頭を撫でてあげるんだよー!」

 

 そう言い三人も嬉しそうに笑った。

 マサムネの言う通りここまで無傷で来られたのは好都合だ。万全の状態で侍との戦いに臨むことが出来る。


 

「みんな、準備はいいか?」

 

 俺がそう言うとそれぞれが各部屋の前に立つ。

 みんなが頷き返事をしたところで、俺達は一斉に部屋の中へ突入した。



 ◇ sideグレン



 

「うぉらぁ!!」

 

 グレンが扉を蹴破り部屋の中へ入るとそこには小さい少年が寝ていた。

 

「ガキぃ!?」

 

 グレンが大声でそう言うと、少年は目を擦りゆっくりと起き上がった。

 

「ん……なに? だれ?」

 

「それはこっちのセリフだガキ! こんなとこで何してやがる!?」

 

「僕はスザク。何してるって見たらわかるじゃん。寝てただけだよ」

 

「寝てただあ!? 侍はどうした!? この部屋には侍がいるんじゃねぇのか!?」

 

 グレンの前に眠そうに立ち、ボソボソと話す赤い髪に黄色い瞳の少年スザクが三名の侍の内の一人だった。

 

「寝起きなんだから大きい声出さないでよ……」

 

 そう言うとスザクは耳を両手で塞いだ。

 

「うるせぇよ! てめぇみたいなガキが侍なわけねぇだろうが!!」

 

「あぁ、もーうるさいな。実際そうなんだからしょうがないじゃん。もういいよおじさん。――――死んで?」

 

「おじさん!? 俺はまだ二十歳だ――――って……おわっ!?」

 

 グレンがそう言うとスザクは空中に飛び上がった。

 そして背中から赤い翼を広げバサバサと音を立て飛んだ。グレンがその様に驚いていると、スザクは静かに抜刀。

 

「僕は【不死鳥】のスキルを持ってる。僕の翼は刀にも盾にも変わる。いくら傷付けようが僕の翼は不死鳥のように蘇る。だから残念だけどおじさんに勝ち目はないよ」

 

「そんなんあり……かよ!?」

 

 空中にいるスザクを見上げ固まっているグレンに、スザクは空中から急降下。そして斬り掛かる。

 グレンはそれをくるっと後方へ回転し躱す。

 


「おいおい、いきなり飛んだかと思えば何しやがんだ……!?」

 

「今回は手加減してあげたけど、次は確実に殺すよ?」

 

「くっ……! 口の減らねぇガキが……。子供を痛めつけるのは趣味じゃねぇがこの際しょうがねぇか……!」

 

「おじさん、僕眠いから早く死んでね?」

 

「しかも人の話を一切聞かねぇ……。それにテメェはさっきまで寝てたじゃねぇか!!」

 

(つってもどうする……? 俺のスキルは直接的にダメージを与える能力じゃねぇ。それに下手に手ぇ出すと腕を斬り落とされかねねぇ。どうやってアイツを……)

 

 グレンが思案していると、スザクは上から彼を見下ろし口を開く。


「ねぇ、おじさん。いつまでそうしてるつもり? 本当に殺すよ?」

 

 そしてスザクは再び空中を飛び回り旋回。その後、またも急降下しグレンの首元へ刀を突き立てた――――が、グレンはそれを間一髪で躱す。

 


(こ、このガキ……! 俺より全然歳下のくせして人を殺すのに全く躊躇がねぇ……!)

 

 しかしスザクはグレンに攻撃を躱されるも、瞬時に空中で宙返り。息もつかず、グレンの背中に斬りかかる。

 

「……っ!!!」

 

「おじさん、偉そうな事言う割には避けてばかりだね。反応は出来てるみたいだけどそれだけ。僕に攻撃出来ないんじゃ勝てないよ?」

 

 そう言いながらスザクはもう一度グレンに斬り掛かる――――が、グレンはそれをまたも躱す。

 

「あぁ……もうウザすぎ。やっぱりすぐ殺すのはやめて、死ぬまでいたぶってから殺してあげるよ」

 

「生意気言ってくれるじゃねぇか、クソガキが……」

 

(でもいくら敵だっつってもガキだぜ? これで攻撃したら俺が悪モンみたいじゃねぇかよ! ……ったく。入る部屋間違えたぜ……)

 

 そしてスザクはとうとう本気を出し、両翼を刀へと変えてみせた。

 

「へぇ……それがお前の真の姿か。ちったぁマシになったんじゃねぇの?」

 

 するとスザクは表情を曇らせボソボソと話し始めた。


「マシになった? おじさん、まだ僕に一度も攻撃出来てないし、僕は飛べるのに対しておじさんは飛べない。それに何か隣の部屋も騒がしくなってきたし、仲間を連れてきてたみたいだけど、みんなこの程度だったら無駄だよ?」


「あぁ……?」

 

「残念だけど、他の侍達にも絶対勝てないから。みんな弱いのが悪いんだよ? 弱いから殺される。弱いから支配される。子供の僕でもわかるんだ。おじさんがわからないわけないよね?」


「テメェ……さっきからうっせぇぞ……」

 

「ねぇおじさん。今から本気でおじさんを殺してから、他の部屋に行っておじさんの仲間も殺すけど、いいよね?」

 

 そう言いスザクは今までよりも更に速い速度で急降下し、グレンの頭に刀を振り下ろした。


 ――プチン……。

 

 刹那――――これまでは子供を傷付けていいのかと迷い攻撃出来ずにいたが、自分の仲間を殺すという言葉を聞き、グレンの中の何かが切れた。

 そしてグレンは、スザクが振り下ろした刀を素手で掴んだ。

 

「うっせぇって言ってんだろ……。俺の仲間を殺すだあ……? それを俺が許すと本気で思ってんのか……? それになぁ。アイツらが負けるなんてことは、天地がひっくり返っても有り得ねぇんだよ」


 冷たい目をしたグレンは、刀を掴まれ、顔を引きつらせているスザクを睨みつける。

 

「だからよぉ、もうガキだからって躊躇すんのはやめるわ。覚悟しろよ? ガキが大人なめてっと痛い目見るって事を教えてやる……!」

 

「何を言ってるの? そんなの出来るわけないじゃん。それに状況は何も変わってないからね? おじさんは僕に勝てない」

 

 グレンが放つ殺気にも屈さず、余裕の笑みを浮かべるスザクに、グレンも少し笑い返す。そして刀を掴んだままゆっくりと立ち上がり口を開いた。

 

「ふっ……。全然ちげぇよバーカ。そろそろおままごとにも飽きたわ……。さぁて、反撃開始といこうか……!」

 

 そう言うとグレンはスザクの身体にポンっと触れた。

 

「は? 何? 気安く僕に触らないでよ」

 

 突然の事で理解出来ずにいるスザクを他所に、グレンは次の手を打つ。

 

「【重力操作 自分グラビマイン】!」

 

 グレンがニヤリと笑いながらそう呟くと、自分をふわふわと宙に浮かせた。

 

「は……!? おじさん、何で浮いて……!?」

 

「テメェみてぇなガキが飛べるんだ……。大人の俺が飛べねぇわけねぇだろ。それによ……その刀、重ぇだろ……?」

 

 戸惑いを隠せないスザクに対し、グレンは空中から彼の刀に目を向ける。

 

「おじさん、今度は何言って――――っ!?」


 グレンの言葉にスザクが反応した途端。彼の手から刀が大きな音を立てて床へと落下。

 

「へっ……。【重量操作 上昇グラビアップ】。余裕ぶっこいてっから気付かなかったか? 俺はこの戦闘中にあと一つ触れたもんがある。何かわかるか?」

 

「おじさん、何をしたの……!? わからないよ……!」

 

「さぁーな。自分の身体に聞いてみな! 【重力操作 下降グラビダウン】!」

 

 グレンが手を上に振り上げると、スザクは天井まで浮上する、

 

「は!? 次は僕が浮き上がっ……!?」

 

「これで終わりだ! クソガキ! 【重量操作 上昇グラビアップ】!」

 

 そしてグレンは勢いよく手を振り下ろした。

 すると天井まで浮いたスザクは、グレンが手を振り下ろす勢いそのままに、床へと叩きつけられた。

 更に重力の強さによって床にヒビが入るほどめり込んでいく。

 

 そしてスザクはそのまま気を失った。

 グレンはそれを確認し、自分の重力を元に戻し、地に足をつけた。


 

「お前はそこでじっとしてろ……。――――はぁーあ。ガキをやっちまった……。これはアイツらには内緒にしとかねぇとな……」


 

 そう言いグレンは奥の確信部屋へと進んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る