第12話 特訓2


 グレンとの特訓が第二段階まで進み、自分のスキルの制限がわかった。

 しかしその制限により俺は盛大に吐き散らかしてしまっていた。


 

「おえええええええええ…………」

 

「リオン、テメェ……! 吐くなつっただろうが!」

 

「ぐええぇ……。無理だってそんなの。じゃあ同じ事、グレンがしてみろよ……。絶対吐くから……。おえええええ」

 

「無理に決まってんだろ! てか喋るか吐くかどっちかにしろよ! あぁ、汚ぇ……」


  そして俺はグレンに罵倒されながら腹の中にある物を全て吐き出した。


 

「はぁー、スッキリした!」

 

「はぁー、スッキリした! じゃねぇよ!」

 

 そう言いグレンはバシッと俺の頭を殴った。


「いってぇな……! 何するんだよ!?」

 

「てめぇが吐くなつったのに吐くからだろうがよ!」

 

 そう言いグレンは再度、俺の頭を殴る。

 

「二回も殴るなよ! 俺は親父にも殴られたことないんだぞ――――」

 

「――――うっせぇわボケェ!!!!」

 

 俺が頭を押えながら反論すると、グレンはかなりお怒りの様子で顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。

 俺はグレンのあまりの圧力に、黙って俯くしか出来なかった。

 そしてグレンは腕を組み、ため息混じりに話を始める。

 

「はぁ……。まぁスキルの制限がわかった事だし、特訓の第二段階はこれで終わりだ。んじゃあ次は実戦形式で今のスキルレベルで出来ることを増やしていく第三段階に移行する」

 

「…………わかった。で? 具体的には何をすればいいんだ?」

 

「そうだなー。腹の容量を増やすのは大前提として……。それより気になってたんだが、その左手の口、右手には出せねぇのか?」

 

「言われてみれば……確かに……」

 

 グレンに言われて俺は初めて気が付いた。

 シェルミにスキルを与えられた時に、左手が口に変わったから考えもしなかった。

 スキルを使う時は左手が変わるものだと思い込んでいた。

 

 言われてみればそうだ。

 グレンも何かを浮かせようとスキルを使う時、右手でも左手でもどちらでも浮かせられていた。

 

 そうして俺は右手を左手と同じ要領で試してみる。

 すると右手も左手と同様に獣の口へと変わった。

 そして左手も口に変え、両手が口に変わる。

 

「うわぁ……。片手だけでも大概なのに両手ともなると、もうこれはバケモンだな」

 

 グレンはさらりと酷い事を言う。

 俺は深く傷付いた。

 

「でもこれで片手では一口で食えなかった物も、両手でならもっと早く食えるようになるぞ……!」

 

「確かに。いい発見だったっつーことにしとくか」

 

 そしてこれを機に、ここから本格的に実戦形式での特訓が開始した。


 ◇

 

 実戦形式とは言ってもグレンはスキルを使わず、大小様々な石をどんどん投げつけてくるというもの。

 それを俺は躱したり、スキルで食ったりと対応していく。

 

 そして腹が一杯になれば吐き、また特訓を再開する。

 それを何度も何度も繰り返していき、特訓は完全に日が落ちるまで続いた。


 ◇


「だいぶ仕上がってきたんじゃねぇか?」

 

「はぁはぁはぁ……。そう? そうだといいんだけど…………!」

 

  石を投げながら話してくるグレンに、俺はそれに対応しながら返答した。

 

「じゃあこれはどう……だ!?」

 

 するとグレンは一度に石を三つ投げてきた。

 俺は両手で二つの石を食った。

 しかし残った一つの石が俺の腹目掛けて飛んでくる。

 

 ――このタイミングとこの距離じゃもう避けられない……!

 両手の口も二つの石に使ったから間に合わない。

 これは……当たる……!


 刹那――――

 俺の腹に三つ目の口が現れその石を丸呑みした。

 

「え、えぇ!?」

 

「おいおい……どんどんバケモン化していくな」

 

「さすがにこれは……」

 

 俺もグレンも俺の姿にひいていた。

 しかし腹が口が変わったことにより両手の口が元の手に戻っていた。

 

「ん? 手が……何で?」

 

 俺は試しに腹と右手を口に変えてみる。

 ――出来る。

 

 次に左手と腹。

 ――出来る。

 

 次に両手と腹。

 ――出来ない。

 

 最後に腹だけ。

 ――出来る。

 

「つまり、一度に口へ変えられる体の部位は二つまでってことか」

 

 そして腹が口に変わったことにより更に一つの可能性に気が付いた。

 それは俺の体ならどこでも口に変えられるのではないかということ。

 早速試してみると両足や頭、太腿や肩といった細かい部分までも口に変えることができた。

 

 そして俺は人間から化け物へと変わっていっている事に落胆していた。

 そんな俺にグレンは明るい声色で声を掛ける。

 

「ま、まぁ……! 新しいスキルの使い方とその制限がわかってよかったじゃねぇか! あとリオンがやらなきゃなんねぇ事はわかるよな?」

 

「実戦経験を積んで、戦いの中でこの能力を自在に使えるようになる……ことか?」

 

「そうだな。んじゃあ明日からは一度に投げる石の数を増やす。その為に俺もスキルを使う」

 

「わかった……」

 

「ったくしゃあねぇー奴だなリオン……。なんか美味いもんでも食いに行くか?」

 

「……行く」

 

「ならシャキッとしろや!」

 

 そう言いグレンは俺の尻を叩き飯屋へ連れていってくれた。


 ◇

 

 更に翌日

 

 グレンがスキルを使い始めた事により、特訓の過酷さは更に増していった。

 

 グレンはスキルで無数の石を宙に浮かせ、それを大きな丸太で叩く。

 すると丸太で叩かれたそれらは、とんでもない速さで、しかも一斉に飛んでくる。

 

 それを俺は体のどこにどの順番で当たるかを予測し瞬時に口に変える場所を切り替えていく。

 物凄い集中力と精神力をすり減らし、ギリギリのところでなんとか対応していった。

 

 そして余裕が出来てきたところで石を破壊、つまり攻撃もしていけとグレンに言われ、それにも挑戦してみる。

 確かに相手の攻撃をかわしたり食ったりしても、敵は倒せない。

 敵を倒すにはやはり攻撃しなければいけない。

 

 俺は口の切り替えをしつつ、時たま攻撃をする。

 この特訓を更に一週間続けた。


 ◇

 

 一週間後

 

 俺はスキルを自在に操り、瞬時に口の位置を切り替え、石を食い、また破壊することが出来るようになった。

 

「いいんじゃねぇか? こんだけできりゃあ人斬りとも互角以上にやりあえんだろ。特訓は終わりだな」

 

「はぁはぁ……。ありがとう……。次こそ人斬りを……はぁはぁ……捕まえような」

 

「あぁ。んで次はリオンの故郷探しだな!」

 

「あぁ! ありがとう!」

 

 こうして俺の長くて過酷な特訓が終わった。


 ◇

 

 特訓が終わり夜。

 サクラ町へと戻りオアシスへの帰り道。

 

「そういえばこの一週間、本当に人斬りは現れなかったな」

 

「んあ? あぁ、そうだな。ルドルフ達に探してもらってたが、どうやらそっちも全然見つからねぇみてぇだしな。俺が心配してた事もなさそうで安心だわ。ははは!」


 ――心配してた事?

 

 俺は少し疑問に思ったが、グレンが笑っていたので特に気にも留めなかった。

 暫く歩きオアシスの前まで帰って来ると突然、建物の陰から刀を持った者が現れた――――



「そこの二人。止まってもらおうか……」

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