第13話 武士




 特訓を終えた夜、オアシスへの前まで帰ってきた俺とグレン

 そこへ刀を持った者が現れた


 


  「そこの二人、止まってもらおうか」

  「あん?誰だてめぇ!」

 

 グレンは叫んだ

 暗くてよく見えないが、一人で刀を持っている

 

  「もしかして、人斬りか?」

 

 俺がそう言うとグレンはチッと舌打ちをした

 

  「くそ、俺の心配してた事が起こりやがった」

  「さっきも言っていた事か!なんだそれ!」

  「リオン、お前の傷はどうやって治った?」

  「え、それはオアシスの治癒能力持ちの人のおかげで……あ!」

  「そう、俺らの中にも治癒能力使える奴がいるんだ。人斬りがもし役人以上の奴なら治癒能力が使える奴くらい当然いるだろうよ」

  「まさか……!じゃあ何でこの一週間くらいの間、姿を現さなかったんだ!?」

  「それはわからねぇ。今目の前にいる本人に聞いてみたらいいんじゃねぇか?」

 

 そう言うとグレンは戦闘態勢に入った

 俺も両手を口に変え相手に向き直した

 

  「おい!クソ野郎!こないだはよくもやってくれたなぁ!」

 

 グレンは叫んだ

 しかし相手は黙ったままだ

 

  「黙ってねぇで何とか言えやコラァ!!」

 

 そう言うとグレンは相手に向かって行った

 俺もすぐにあとを追う

 先に向かって行ったグレンは相手の胸元へ右手を伸ばし、追い付いた俺は左手を伸ばした

 すると

 

  「ちょ、ちょっと待ってくれ!何なんだ一体!?こちらに戦う意思はない!」

 

 と言い相手は両手を上げた

 

  「「はぁ!?」」

 

 俺はその声に反応し左手の口を元の手に戻した

 特訓の賜物だった

 これでとりあえず誤って攻撃してしまう心配はなくなった

 

 しかし俺とグレンは確実に人斬りを捕縛するつもりで勢いよく向かっていっていた

 当然間に合うはずもなく俺達の手は『そこ』へと届いた


 むにゅ


 俺達の手には大きく、そして柔らかな感触が伝わる

 俺達は顔を見合わせ

 

  「「むにゅ……?」」

 

 と言い俺達は感触をよく確かめる為、その手をもう一度動かした


 むにゅ

 もみもみ


 

  「いやんっ……!」


 

 俺達はその声を聞きようやく現状を理解した

 あぁこれは、この膨らみ、柔らかさ、そして温もり

 それは幼い頃感じた母さんの『それ』そのものだった

 すると

 

  「んんっ!」

 

 という咳払いと共に、雲間から月のあかりが差し込み暗闇の中から『彼女』は姿を現した

 

 黒ぬ長い髪に大きくて綺麗な黒い瞳

 体はサラシを巻き、胸元が少し開いた桃色の着物を着ている

 腰には刀が一本あり、胸には俺とグレンの手がある

 俺とグレンの手がある……?

 

  「コホンッ!あのー、いつまで触ってるつもりかな?」

  「「ご、ごめんなさいいいい!!!」」

 

 俺とグレンは慌てて手を離し自然と土下座の体勢になっていた

 

  「一度目は許す。不可抗力だったのでな。しかし!二回目は何だ!確実に揉んでいただろう!?」

  「はっ!おっしゃる通りで……」

 

 俺は深々と頭を下げた

 

  「わ、わざとじゃねぇんだ!許してくれよ、この通りだ」

 

 グレンも続けて頭を下げ謝罪した

 これは俺とグレンが人生で最初で最後となるしっかりとした土下座であった

 

  「誠意が伝わったので許す!」

  「「ありがとう」」

 

 俺達はあっさり許された

 

  「しかし君達、こんな夜遅くに何をしている?早く帰らないと今この町は危険だぞ?」

  「俺達は今丁度、家に帰っているところだったんだ」

  「そうだったのか!いやぁ呼び止めてすまなかった。さっ!もう帰ってくれて構わない!気を付けて帰るんだぞ!」

  「いや、そのー……」

 

 俺は言えなかった

 あんたが立っているのは俺達が帰る家の前だということを

 しかしこういう時、グレンははっきりと言う

 

  「あんたが立ってるそこが俺達の家だ!どいてくれ」

  「え?ここが?こんな人の家の前の冷たい地面の上が君達の家だって言うのかい?」

  「ちげぇわバカ!その家が俺達の家だつってんだ!」

  「……………………」

 

  グレンにそう言われようやく理解したのか女は顔を真っ赤にしてその場を退いた

 

  「す、すまない。さっどうぞ」

  「あぁ。悪かったなさっきは。ていうかあんたこそこんなとこで何してたんだ?」

  「何って、私は人斬りを探していたんだよ」

  「人斬り!?」

 

 この女も人斬りを探していたのか

 でも何のために?

 

  「そう、最近ここいらでは人斬りの噂が耐えないだろう?私の両親もこのサクラ町にいていつ狙われるかわからない。私は心配でたまらなくてな。いてもたってもいられず、こうして人斬りを探して私が成敗してやろうと思ってな」

  「成敗だぁ?見たところ刀は持ってるみてぇだし……。あんた戦えんのか?」

  「勿論だ!私は武士だからな!」

  「武士って…あの武士か!?」

 

 俺は本物の武士に会うのは初めてだった

 話でしか聞いたことがなかったけど女の武士もいるんだな

 

  「すまない、どの武士かは知らないが私は武士だ!」

  「いや、その武士だよ……」

  「いや、だからどの武士…」

  「リオンてめぇうるせぇよ!話が進まねぇだろ!」

  「あ、ごめん」

 

 俺はまたグレンに黙らされた

 着々とグレンの部下になりつつあるのだろうか

 それは嫌だなと思う俺がそこにいた

 

  「つか、さっき何故、俺達に声をかける時、(そこの二人、止まってもらおうか)って意味深な言い方したんだ?」

  「いやー、それはだなぁ…」

 

 そう言うと女は顔を手で隠し何やらもじもじしている

 

  「なんだよ!さっさと言えよ!」

 

 グレンがそう言うと女は手で顔を隠しながら呟いた

 

  「か、かっこいいから」

  「「はぁ!?」」

 

 俺とグレンは予想だにしなかった意味のわからない返答に戸惑いを隠せないでいた

 

  「んだよかっこいいって!?紛らわしいことしてんじゃねぇよ!」

  「そこの二人、止まってもらおうかって何か侍っぽくてかっこいいだろう?私一度言ってみたくてつい…な!」

 

 ダメだこいつバカだ

 俺の直感がそう言っている

 

  「な!じゃねぇよ!な!じゃ!」

 

 怒るグレンに照れて顔を隠しもじもじする女

 奇妙な光景だった

 

  「はぁ。とりあえず中に入って話さねぇか?あんた名前は?」

 

 グレンはため息混じりにそう言った

 すると女はもじもじをやめ答える

 

  「名はサナエだ。ただすまない。私は人斬りを探す為にここにいる。君達と話している暇は無い」

 

 そう言い立ち去ろうとするサナエをグレンは引き止める

 

  「恐らく今日も人斬りは来ねぇ。理由は後で話してやる。だから家に入んな」

  「そ、そうか。わかった」

 

 そう言いグレンに続きサナエも家の中へ入っていった

 グレンかっけぇー!と思う俺がそこにいた


 

 そして俺達は中に入り、サナエと話をする事になった




☆☆☆☆☆★★★★★


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青 王(あおきんぐ)

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