第14話 情報交換


 夜のサクラ町で、人斬りを探しているというサナエと出会い、一悶着あった後に家に招き入れ話をすることになった。

 そして俺達が家の中に入ると、見回りを終えくつろいでいたシルキーとルドルフがいた。



「あらあらー? 誰かなー? その女の人はー?」

 

「見たところ武士の方のようですね……」


 シルキーとルドルフは怪訝な表情でサナエを見つめる。

  するとサナエは深くお辞儀をして挨拶を始めた。


「私はサナエ。立派な侍を志す一人の武士だ……!」

 

「おーーー! かっこいいーー! サナエたん可愛い顔して言う事がかっこいいよー!」


 サナエの自己紹介を受け、シルキーは拍手をしながら彼女に賛美をおくった。

 

「いやぁ、ありがとう。そういえば皆の名前を聞いていなかった。どうか教えてはくれないか?」


 サナエは少し照れ笑いを浮かべ礼を言うと、俺達について問うて来た。

 それを受けたグレンは順に俺達を紹介した。


 ◇

 

「リオンにグレンにサナエにルドルフ。よし! 覚えたよ! 君達の事は一生忘れない!」


 グレンが一頻り紹介を終えると、サナエは俺達の顔を見ながら名前を口にした。

 

「サナエ、お前死ぬのか?」

 

 そして俺は、サナエのもう二度と会えなくなる様な言い方に、思わずツッコミを入れる。

 

「私は侍になるまで死ねない! だが! 侍になれたのなら……死んでもいい……!」

 

「いや、ダメだろ。バカかこいつは」

 

 ドヤ顔でそう宣うサナエに対し、グレンが吐き捨てる様に言うと俺は大きく頷いた。

 

「何だか私と似たようなにおいがするねー」

 

 シルキーは同種だと感じたのか、にやけ顔をすると、サナエは自分の体の匂いを嗅ぎ始めた。

 

「におい!? 私そんなに臭うか!?」

 

「…………そういうところだと思います」

 

 サナエは自分の衣服や体をくんくんと匂い、ルドルフはそれを見てため息混じりにそう言った。

 

「で、兄さん? どうしてサナエさんを家に連れてきたんだい? 何かワケがあるんでしょう?」

 

 ルドルフが尋ねるとグレンは真面目な顔で口を開いた。

 

「あぁ。どうやらサナエも人斬りを探しているらしい」

 

「そーなのー? じゃあ私達と一緒だねー!」

 

  何故か嬉しそうに話すシルキーに、サナエは驚愕した表情を浮かべ俺達の顔を見た。

 

「一緒……? 君達も人斬りを追っているのかい?」

 

「そうだ。俺はこの間、奴に負けてしまったけど、今は強くなる為に特訓もしてきたところだ。次に会ったら絶対捕まえてやる……!」


「そうなのか。じゃあ私達は同士というわけだな」


「あぁそうだ。だからよ、サナエ。俺達とテメェが持ってる人斬りの情報を交換しねぇーか?」

 

 グレンは各々が持つ人斬りの情報を交換しようと持ちかける。


「あぁ。構わないぞ」

 

 サナエはこれに了承し、先にこちらの情報をサナエに伝えた。


 ◇


「――――俺達が持ってる情報はこのくれぇだ。少なくて悪いな」

 

「なるほど。人斬りは男で鬼の面、恐らくスキルは目に特徴があり、未来予知のような能力か……。君達、よく生きて帰ってこられたね……?」

 

「まぁな。リオンなんてビビりまくって泣いてたもんな! ははは!」

 

「泣いてないし、笑うな……! 次に会ったら絶対俺が捕まえるからな!」

 

「俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ! とか言ってたのにねーリオっちー? ぷぷぷー!」

 

「うっさいぞシルキー! 元はと言えばシルキーがドジするから俺一人で戦うことになったんだろうが!」

 

「はははははは!!!」

 

「次人斬りと遭遇すれば相手はこちらの手の内を知っているし、こちらも相手の能力が……ブツブツブツブツ」

 

「あ? まーたルドルフの奴、独り言言い始めやがった! ははは!」

 

「あーもう誰か止めてくれーー」

 

 俺をからかい笑うグレンとシルキー、それに加わることなく独り言を言い始めるルドルフ、この状況を止めて欲しいと願う俺。

 そんな状況を見てサナエは笑い出した。

 

「あはははは! 君達面白いね! こんな愉快な人達と暮らせたら楽しいだろうな!」

 

「じゃあサナエたんも一緒に暮らせばいいじゃんー!」

 

「いや、私には両親も家もあるのでそれは結構」

 

 シルキーの提案をサナエはさらりと断り、話は本題に戻った。

 

「コホン。私が知っている人斬りの情報だが、君達ほど多くはない。ただ今までの人斬りによる被害から見て、ほぼ確定している情報をいくつか共有しよう」

 

「是非聞かせて頂きましょう」

 

 ルドルフがそう言うと全員が話を聞く体勢に入った。


 ◇

 

「まず初めに、人斬りが街に現れるのは決まって午前一時を回ってから二時までの間であるということ」

 

「いきなりすみません。サナエさんは何故そんな事を知っているのですか? 僕達も自身の情報網を使い、色々と調べはしましたがそんな事、一切わかりませんでしたが?」

 

「それは私が立派な侍になれる素質があるからだろうなあ! あはははは!」

 

 高笑いをするサナエに対し、ルドルフは冷たい視線を向ける。

 

「サナエ、ちゃんと答えた方がいい。俺達はまだお前の事を完全に信用している訳じゃないんだぞ?」

 

 俺がそう言うとサナエは真剣な表情へと変わり、本当の事を話し始める。

 

「私の父は役人で治安維持の部署で働いていてな。そんな父が人斬りの被害があった時、通報が来る時間が決まって午前一時から二時の間だと話しているのを聞いたんだ。どうだ、これで信じてもらえるかい?」

 

 にわかには信じられないが、サナエはこの期に及んで嘘をつくような人間ではないと俺は思った。

 それは恐らく皆も同じだったのだろう。

 誰もそれ以上は追求しなかった。

 そしてサナエは一度頷き話を再開した。

 

「二つ目の情報だが、次の標的が誰になるか……私にはもう見当がついている」

 

「…………!?」

 

 サナエの発言に皆が息を呑んだ。

 するとグレンは机を叩き立ち上がった。

 

「何故わかる!? んで誰だ!? 次の標的は!?」

 

 グレンが声を荒らげる。

 それをルドルフがなだめて椅子に座らせた。

 

「次の標的は――――」

 

 ゴクリ。

 

 異様な緊張感を放ちながらサナエは口を開いた。

 

「次の標的は――――リオンとシルキー。君達だ」

 

「えぇー!? 何でー!? またあんなのに狙われるのー!?」

 

 サナエの言葉を聞き、シルキーは大騒ぎを始めた。

 すかさずルドルフが止めに入るが、俺にはシルキーの反応もわかる。

 でも俺には何となくそんな予感がしていた。

 奴ならまた確実に俺を狙って殺しにくるだろうと。

 

「な、何故二人が……狙われるん……ぐっ……でしょうか!?」

 

 ルドルフは必死にシルキーを押さえ込みながらサナエに尋ねた。

 グレンは黙って聞いている。

 

「理由はとても簡単だ。人斬りは今まで標的にした人間は必ず殺しているからだ。一度殺し損ねても、二度目には必ず殺す。以前にもそのような事があったから間違いない」

 

「なるほどな。――――んじゃまぁ作戦はこれで決まったな」


 一頻りサナエの話を聞き終えると、グレンは閉ざしていた口を開いた。

 

「な……グレンまさか……!?」

 

「お? さすがリオンだな、もうわかったのか?」

 

 そう言うとグレンはニヤッと笑い俺を見た。

 それで俺は確信した。

 

「俺とシルキーを囮に使うつもりだろ……!」

 

「なっ……!? そんなもの危険すぎる! 辞めるんだグレン!」

 

 サナエは慌てて止めに入る。

 しかしグレンはそれに続け作戦を打ち明ける。

 

「詳しくはまたその時話すが、まぁコイツらは奴を誘い出す為のただの餌だ。その餌に食いついた瞬間、俺とルドルフで取り押さえる。心配ならサナエも着いてくるか?」

 

「あぁ、勿論だ! 侍を志す者としてそんな愚行は見過ごせん! 私もその作戦に同行しよう」



 こうして"人斬り捕縛作戦"にサナエも加わる事となった。

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