第11話 特訓1


 グレンによるスキル講習が終わり、いよいよ特訓が始まった。

 


「よしリオン、早速だがスキルを使ってみろ!」

 

「わかった!」

 

 俺は頷き、スキルを使うイメージをして左手を口に変えた。

 

「おぉこれがリオンのスキルか。何だか少し気持ちわりぃな! ははは!」

 

「それは俺も思ってるよ!」

 

 笑うグレンに俺はそうツッコミを入れた。

 

「それはそうとリオン。今はスキルのイメージをして使うっつー流れだと思うが、何秒かかったかわかるか?」

 

「えっと、三秒くらいか?」

 

「いや、五秒だ。それじゃあ時間がかかりすぎて大きな隙になっちまう。まずスキルをイメージしなくても使えるようになれ。例えば――――こうだ」

 

 そう言うとグレンは近くにあった大きな岩に触れ、一秒もかけずにそれを宙に浮かせた。

 

「イメージして使う。これを体に覚え込ませ、使うまでの時間を短縮すんだ。その為には左手を元に戻しては口に変えるのを繰り返す。これを今の俺くれぇの速さで出来るまで反復だ!」

 

「よし、わかった! やってみる!」

 

 その後、俺は左手を元に戻し、口に変えるをひたすら繰り返した。

 グレンは簡単に言うがこれが中々難しい。

 

 例えば人は目の前にある物を持ち上げようとすると、まずその物を持ち上げるイメージをしてその後身体が動く。

 それを何度も繰り返している内に無意識で出来るようになっている。

 俺はスキルをそこまでの領域に持っていかないといけない。

 

 そして、この反復練習はその日の夜まで続いた。


 ◇

 

「ていうか、特訓が大事なのはわかるけどこうしてる間にも人斬りがまた町に現れて誰かやられちゃうんじゃないか?」

 

「それは心配ない。シルキーとルドルフが夜の町を巡回してるし、奴は脚を怪我してっからな。恐らく完治するまでは出てこねぇ」

 

「なるほど。じゃあ俺は特訓に集中できるってわけだ」

 

 俺がそう言うとグレンは頷いた。

 そんな時、俺の腹がぐぅーと音を立てて悲鳴を上げた。


「お? 何だリオン、腹の虫か? ははは!」

 

「今日、起きてから何も食ってないからな……」

 

「あー確かにそうだったな。よし、今日はここまでにして帰って飯にするか!」

 

「おぉ!!!」

 

 ――やっと飯が食える!

 

 俺がそう思った時、一日かけても出来なかったイメージ無しでのスキル行使が容易く出来てしまった。

 

「うぉ!? 何のイメージもしてないのに、何故か左手が口に変わった!? 何で!?」

 

「はぁ!? テメェ今、イメージしてねぇのか!?」


 俺は戸惑いながらもグレンの問いに何度も黙って頷いた。

 グレンは少し思案した後、何か閃いた様子で口を開いた。

 

「なるほど、そういうことか! 飯が食える――――つまり食うっつー行動に反応したっつーわけか!」

 

 ――あぁ、なるほど。

 今までスキルを使う=左手を口に変えるってイメージでやってきたけどそうじゃない。

 俺のスキル【悪食】の能力は『何でも捕食できる』であって左手を口に変えることじゃなかった……!

 目に見えてわかる変化に気を取られてその事をすっかり忘れていた。

 

「リオン。左手、元に戻してみろ」

 

「ん? あぁ、わかった」

 

 俺は言われるがまま左手を元に戻した。

 するとグレンは俺に向かってこぶし大の石を投げつける。

 

「これを食え! リオン!」

 

「はぁ……!? お、おぉ! わかった!」

 

 俺は左手を口に変えるのではなく、目の前に飛んでくる石を食おうとした。

 するとイメージするよりも先に左手が口に変わり、一口でその石を丸呑みにした。

 

「出来た……! 出来たぞぉ!!!」

 

「一日でものにするとはやるじゃねぇか! よし、明日からはこれを反復しつつ次の段階へ移行すんぞ!」

 

「えぇ……まだあんの……?」

 

「当たり前だバカ! このくれぇ出来て当然だ!」

 

「えぇ……」

 

 こうして特訓の一日目が終了した。



 ◇

 

 翌日

 

 俺達は昨日と同じ場所に来てひたらすら反復練習を繰り返していた。

 おかげでイメージ無しでのスキル行使は一秒もかからずに出来るようになっていた。


 

「よし、じゃあそろそろ次の段階にいくか!」

 

「昨日も言ってたけど次の段階って何?」

 

「リオンの能力は『何でも捕食する』だが、それには恐らく制限がある。前にスキルが発現したらスキル名とレベルと能力がわかるって話をしたと思うが、制限はわからねぇ。それは自分で見つけるしかねぇんだ」

 

「そうなのか。確かにルドルフやシルキーにも制限があったな? でもグレンは制限ないって言ってたよな?」

 

「今のところは……だな。これからレベルが上がって出来る事が増えりゃあ、それに制限があるかもしれねぇ」

 

「そうか。じゃあまず俺は今のスキルにある制限を見つけないといけないんだな」

 

「そうだ。そこでだ。とりあえずその辺の石とか草とか、大きさが違う物を片っ端から食ってみろ」


 グレンはその辺に落ちている石や雑草に目を向け、当然のように指示を出してくる。

 

「あのさグレン、簡単に食えとか言うけどコレ、食いもんじゃないだぜ? 昨日からずっとそうだけど、俺にだって抵抗あるぞ?」


 俺はそれに対し、不快感を露にしながら答えた。

 

「うっせぇよ! 強くなりてぇんだろ!」

 

「いや、強くなりたいとは一言も……」

 

「いいから黙ってやりやがれ!」

 

「は、はいっ……!」


 俺の反論は聞き入れて貰えず、特訓は第二段階へと移行した。

 

 そしてこの特訓のおかげで、俺のスキルの制限が幾つかわかった。

 

 まず一つ目に口の大きさ以上の物は一口では食えないという事。

 一口で食えない物は何回かに分けて食うか、鋭い歯で噛み砕く必要がある。

 能力からして食おうと思えば、石だろうが草だろうがなんでも食える。勿論抵抗はあるが……。


 そしてもう一つ。俺にとって最大にして最悪の制限があった。

 

 

「うぅっ。げぷ。もう、食えない……。腹一杯だ……」

 

「おいおい、嘘だろ? スキルで食ったもんが腹に溜まんのか……!?」

 

「そう……みたい……げぷ」

 

 そう、最大にして最悪の制限。

 それはスキルで食っても俺の腹に溜まり、限界が来ると食えなくなるというものだ。

 

「うぅっ。だめだ、食いすぎた……。なんか吐きそ…」

 

「お、おい! やめろ! リオン、テメェ……! ここで吐いたら許さねぇぞ!!」

 

「そんなこと言われても……ぐぷ。――――お、おええええええええ」

 

「チッ……。やりやがったこいつ……」


 

 俺はグレンの制止を振り切り、思いっ切り、それはもう清々しい程の量の汚物を吐き出した。


 

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