第79話 戦闘激化
俺がハンスの属性玉を捕食するのを確認すると、グレンとハンスはヴァイツェンの動きを止める為に向かって行った。
「まったく、お前は使えんヤツだなシルキーよ。あの程度のヤツらも仕留められんとは」
「ごめんなさい、お父さん……」
「もう良い。あやつらの相手はワタシがする。お前は隙を見て石に変えろ。良いな……?」
「はい……」
ヴァイツェンは向かい来るグレンとハンスを視界に入れながらシルキーにそう指示を出した。
するとヴァイツェンの元へグレンとハンスが到達し、二人のスキルによる攻撃が始まった。
「【
「ヴァイツェンはん、覚悟しいやー? 『ワイヤーでぐるぐる巻きの刑や!』」
グレンはヴァイツェンに触れ体を重くさせ、ハンスは紐状の物を発現させるとソレを彼の体に巻きつけた。
「ふぉっふぉっふぉっ! 青二才が! この程度でワタシの動きを止めたつもりか? 【リセット】!」
しかしヴァイツェンは二人の攻撃を一度受けるとリセットを唱えた。
すると彼の身体の重力は通常に戻り、ハンスの発現させたワイヤーも消え、いとも容易くそれらを無かったことにしてしまった。
「くっそー、やっぱり簡単にはいかへんかー」
「どうすんだよ!?」
「そんなん決まっとるやろ。同じ事やり続けるだけや!」
「ふぉっふぉっふぉっ! 青二才が! この程度でワタシの動きを止めたつもりか? 【リセット】!」
そして二人は更に同じ攻撃を繰り出した。
しかしヴァイツェンは再度リセットを唱える。
この一連の流れを三人は何度も何度も繰り返した。
「ハァハァ……! 馬鹿みてぇじゃねーか。何回同じ事すりゃあいいんだよ!? 【
「あぁ? そんなんヴァイツェンの動きが止まるまでに決まっとるやろ! 『はい、拘束ー!』」
「ふぉっふぉっふぉっ! 青二才が! この程度でワタシの動きを止めたつもりか? 【リセット】!」
見ているこっちの頭がおかしくなるほどに同じ事を繰り返す三人。
するとそこでシルキーが口を開いた。
「バッカみたい……。本当にそれでお父さんを殺せると思ったの?」
「あらー? シルキー、手助けしてくれる気になったー?」
「どれだけ同じ事をやれば気が済むのよ!? そんなのじゃお父さんの動きは止められない。もうわかったでしょ!?」
「でもワイらにはこれくらいの事しか出来んのや……。不憫に思うならシルキーも手貸してちょーだいな」
「馬鹿野郎が。ンなもんでコイツが俺達に手ェ貸すわけないだろ!?」
グレンの言葉にハンスはニヤリと笑う。
「いんや、シルキーは必ず手を貸すで。何故ならヴァイツェンは何度もリセットをかけとるから記憶は大分曖昧になってきとるはず。その証拠にさっきから同じ事しか言うてへん」
「あぁ? ……まぁ確かにそうだが、それで何でシルキーが手ェ貸す事になんだよ?」
「アホなグレンちゃんにはわからんくても、シルキー。君ならわかるよなぁ?」
「……そうね。今お父さんに有効打が打てるのは私しかいない」
「あぁ!? 何でそうなる!?」
二人の会話について行けずグレンは声を荒らげながら攻撃を続ける。
「はぁ……。お父さんは今あんた達二人の攻撃に対処し続けている。私が裏切るとも知らずに。こうして私達が話しているのも忘れてしまうのよ?」
「だから何だってんだよ?」
「つまりこの間。お父さんは私の攻撃にだけ無防備になるの。わかる? 私が何年もずっと待っていたのはコレよ」
「はぁ?」
グレンはシルキーの説明を聞いてもイマイチ理解出来ていない様子だった。
するとそこへハンスが俺に対して指示を出した。
「リオンちゃん、今や! ワイらの攻撃をくらってヴァイツェンがリセットを掛けた瞬間に全部の属性をぶっぱなすんや!」
「わ、わかった!! ――体内にある属性玉を放出するイメージ…………」
そして俺は頭の中で体内の属性玉を放つイメージをし始めた。
「頼むぞリオン……!! 【
「コレで決めきれんかったら、ちとキツいでー? 『千重縛り!!』今やリオンちゃん!!」
「了解っ!! 【属性 放出】!! ――――おげぇぇぇぇ……」
俺はイメージ通り体内にある属性玉を放出した。
実際の口から汚物を吐き出す様に――――
「うわっ汚ぇ!! リオン、テメェもうちょいマシな吐き出し方ねーのかよ!?」
「だって……これしか思いつかない……おぇえええ」
「凄いやんリオンちゃん! この口、まるでスキルで発現させた獣の口そのものや!」
ハンスの言葉通り、汚い見た目とは裏腹に俺の口からは属性が付与された獣の口が次々と放出された。
そしてそれらはリセット途中のヴァイツェンの体に噛み付いた。
「…………【
それと同じタイミングでシルキーも毒を付与した針をヴァイツェンの腹部に突き刺した。
「うがぁぁあああ!!!」
そしてグレンとハンスの攻撃に対してのリセットが完了したヴァイツェンは我に返った。
その途端に次は俺の攻撃のダメージを受ける。
「よっしゃ! やってみるまで確証は無かったけど、やっぱりリセット中に別の攻撃を受けたら対処出来へんみたいやな!」
リセット途中の攻撃はヴァイツェンでも認識出来ていない為、リセットをかけることが出来ない。
これがハンスが立てた作戦の本当の狙いだった。
「くっ……お前らよくもワタシに傷をつけたな……!? どうやったのかは知らんが、確かにワタシはリセット中の攻撃には対処は出来ない。だが、どこにどんなダメージを受けているかを認識出来ればリセットは可能だ。残念だったな? 【リセット】……!」
しかし上手くいったと思ったのも束の間。
ヴァイツェンは再度リセットを掛け、俺の属性攻撃のダメージを無かった事にした。
「ふぉっふぉっふぉっ! 何をしようと無駄だ! そろそろワタシも攻撃するとしようか?」
そう言うとヴァイツェンは徐に俺とグレンの腕を掴んだ。
「ぐっ……!? テメェ何しやがる!?」
「離せ……!! お前に攻撃パターンが無い事はわかってる!」
「ふぉっふぉっ……。それはどうかな? 【リセット】……」
するとグレンは何か攻撃をされたわけでもないのに、突然鼻や口から血を吹き出し膝をついた。
そして俺は上半身を刀で斬られたかのような痛みを感じた。
「ぐふぉっ……!!」
「ぐあああぁぁぁ……!!!!」
「ヴァイツェン!! 今二人に何をしたんや!?」
「ふぉっふぉっ! 自分で確かめればよかろう?」
ヴァイツェンはそう言いながら高笑いを浮かべる。
ハンスは血塗れのグレンと上半身を押さえ悶絶している俺に駆け寄り背中をさすった。
「リオンちゃん、グレンちゃん! 大丈夫か!?」
「あぁ。この痛み……忘れもしねぇ。ガキの頃、ヨスガの里で影町のゴロツキ共にボコボコにされた時のやつだ……」
「まさか……!? ヴァイツェンの奴、痛みやダメージだけをその時に戻す事が出来るっちゅうんか!?」
グレンの言葉に驚きを隠せないハンス。
そして俺は未だ話す事もままならない程の激痛に襲われていた。
「ぐぅあああっ!! あががぁ!」
「リオン、テメェまさかソレ……人斬りにやられた時の……?」
「くそっ……! そういう事かい……!」
グレンは俺の悶える姿を見て、その痛みが人斬りにやられた時のものだと推測した。
そしてそれを聞いたハンスは何かに気付き声を上げた。
「やっぱりそういう事かよ、ハンス?」
「あぁ。そうみたいや。すまんリオンちゃん、グレンちゃん。ワイの見立てが甘かったみたいや。奴のスキルは体を元の状態に戻す事だけやなかった……。受けたダメージを回復する前に戻す事も可能――つまりはワイらにダメージを与える事が出来るみたいやな……。これはキッついで……」
ハンスは冷静に、そして的確に状況を判断しヴァイツェンのスキルの能力を分析した。
そしてハンスの言葉通り、これはかなりきつい状況だ。
何故なら今までヴァイツェンは自分が受けた傷を治す為だけにリセットを使っていた。
だがたった今、奴はダメージを与える為にリセットを使った。
これにより俺達はヴァイツェンから距離を取らざるを得なくなった。
すると互いに睨み合いが始まり、戦況は膠着状態に突入した。
しかしそんな中、シルキーは何かを祈る様にじっと目を瞑っていた。
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