第110話 アニマの逆襲


 ラナの話が終わり俺達は唖然としていた。

 ティアは彼女らの壮絶な過去に涙し、ミレーヌは何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。


 そして俺とサナエはラナから飛び出した"階層主"という言葉に聞き覚えがあり、彼女らもまたこの世界――――"アンダーワールド"の犠牲者なのだと感じていた。


 その中で唯一理解出来なかったのはラナの隣にいるミシェルと呼ばれる女の子だ。

 彼女の外見からわかる年齢から考えて、この塔の中で生まれ育った世代に間違いない。にも関わらず、何故か彼女は目に涙を溜め、それがこぼれないようにそっと上を向き、ひたすらに『ごめんなさい』と小声で呟いていた。


 ――ミシェル……という子は何なんだ……?

 今の話の中ではまだ生まれてすらないはずだろう?

 それなのに何故、あんなにも申し訳なさそうな顔をしているんだ……?


 俺は思案の末、直接ミシェルに声を掛けようと立ち上がった。それと同時にアニマがおもむろに口を開いた。



「つまり姉上は……妾の計画を止める為にここまでやって来たということじゃな……?」


「そうじゃ……。姉として、階層主として……責任はしっかりと果たすつもりじゃ」


 アニマの問いにラナは真っ直ぐに答えた。するとそれを受けたアニマは唇を噛み締め俯いた後に再度、口を開く。



「全て……姉上の為だというのに……。何故それがわからんのじゃ……」


「妾の為じゃと……? 妾がいつそんな事を頼んだというのじゃ……!?」


「……もう良い。姉上も壊れてしもうた……。それもこれも全部妾達を苦しめた大人達のせいじゃ……!」


「違う……! 壊れてしまったのはお主じゃアニマ! 原因は妾にある。勿論償いもする……。じゃから……! 元に戻ってくれ……アニマ……!!」


 ラナとアニマ。二人の姉妹による口論は互いの義をぶつけ合うだけの虚しいものだった。しかしそれを見ていた俺達の中に、そこへ口を挟もうとする者は誰もいなかった。


 そしてラナが思いの丈を吐き出し、妹の名を叫んだ時――――アニマの顔色が変わる。



「姉上の事を想ってした行動が……姉上には受け入れて貰えない……。何故じゃ……? ――――あぁそうじゃ……。姉上も大人になってしもうたからじゃ……。やはり大人というものはロクでもないのう……」


「アニマ……?」


「……そんな姉上などもういらぬ。妾に逆らう大人もいらぬ……。そうじゃ……初めからこうすれば良かったのじゃ……。ふっ……。ふふふふっ……」


 そう言うとアニマは一層不敵な笑みを浮かべる。それを受け、その場にいた俺達は一気に緊張を走らせる。


「アニマ……? これ以上何をするつもりじゃ……?」


「愚問じゃろうて姉上……。この階層から大人を全員消すのじゃ……。――――【魂操作 幼児化ソウルマジック レベルダウン】」


「…………っ!?」


 ラナは引きつった顔でアニマに問うた。するとアニマはニヤリと笑い、天井に手のひらを向けた。

 刹那――――先程サナエを幼児化させた青白い光を放出した。そしてその光は一瞬で塔の天井を突き破ると、創られた空の下で止まり、弾けた。



「…………っ!!」


「あの光に直接触れては駄目よ……! 何か物陰に隠れて……!」


 俺達は息を呑んだ。するとミシェルが一際大きな声でそう叫んだ。しかしここは塔の階段。慌てて物陰を探すも、身を隠せる場所など何処にも無かった。

 俺達は呆然と立ち尽くす。そこへ空で弾けた青白い光が矢のように降り注ぎ始めた。



「「ラナ様……!!」」

「…………っ!? お主ら……!」


あるじ……!」

「サナエ……!?」


 ティアとミレーヌはラナを、サナエは俺を光から守るように全身で覆いかぶさった。しかし幼児化してしまったサナエの身体では俺を守り切る事は出来なかった。


 ――サナエが守ろうとしてくれているけど、これはさすがに厳しいか……。

 俺も幼児化してしまうのか……?

 

「リオン……!! 【特殊能力無効之盾アンチスキルシールド】!!」


 万事休す――――そう思った矢先。ミシェルが知るはずのない俺の名を叫びスキルを行使。俺とサナエの身体は透明の壁のようなものに覆われた。そしてその壁は無数に降り注いでいた光の矢を全て弾いていた。


「「…………っ!?」」


 俺達は戸惑っていた。目の前で幼児化していくティアとミレーヌを横目に、俺達は無傷でその場にしゃがみこんでいた。そして全ての光の矢が降り終わった頃合で、俺達を覆っていた透明の壁は跡形もなく消えた。



「何だったんだ今のは……?」


 俺はそんな言葉を吐き辺りを見渡した。そこには不敵な笑みを浮かべるアニマと、幼児化したティアとミレーヌに守られ難を逃れたラナ。そしてアニマのスキルの影響を一切受けていないミシェルが立っていた。



 ◇


 

 同刻――――突如として放たれた光の矢は、階層全土に降り注いだ。当然の事ながら、洗脳状態で働いていた大人達は為す術なく光を浴び幼児化していた。


 そしてそれは塔の一階にある広場で子供達を逃がす手伝いをしていたグレンとハンスも例外ではなかった。



「何やったんや今の光は……? ん? グレンちゃん、何やその姿は? えらい可愛なって! 笑てまうわ!」


「あぁ!? そりゃあテメェも同じだろうが……!!」


「嘘やろ……!?」


 幼児化したグレンを茶化すハンスだったが、自らも幼児化している事に気付きうろたえた。

 そしてグレンは塔の上階を見つめ心配そうに口を開く。


「どうすんだよこれ……? これも女王の仕業か? 大丈夫なんだろうな、リオン達は……?」



 アニマのスキルによりこの階層にいる者は全て幼児化されてしまった。但し、リオンとラナを除いて――――




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ここまで読んでくださりありがとうございます!

そして現在、私はカクヨムコンテスト用に新作を投稿しております。

おかげさまで、良い作品に仕上がったのではないかと感じております。


未読の方は是非一度読んで頂けると嬉しく思います。

そしてもし、面白いと思って下さったのであれば★による評価をして頂けると幸いです。


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