第105話 マザー達の計画
複数のマザー達に監視され、塔の四階にある通称"大人の部屋"へと連行されたサナエは、ここにいる子供達は家畜だと聞き、どれだけ劣悪な環境で監禁されているのかと身構え、出来る事ならその子供達を救い出したいと考えていた。
しかし女王の目から離れ、大人の部屋の扉の前に立った途端、マザー達の様子が急変する。
「は……? 何をしている……?」
「何って見ればわかるでしょ。拘束を解いているのよ」
戸惑うサナエを置き去りに、マザー達は身体を縛る糸を切り始めた。
「何故だ!? 拙者は家畜となるのではなかったのか!?」
「そのつもりよ? 女王だけはね……」
「…………?」
ミレーヌの言葉を受けても尚、サナエは理解出来ないといった様子でキョトンとした顔をしている。すると、長髪のマザーがため息混じりに口を開いた。
「はぁ……。まぁ見てもらった方が早い。私達は――――敵ではない」
長髪のマザーはそう言うと、大人の部屋の扉を開いた。サナエは咄嗟に目を瞑り、部屋の中にあるであろう凄惨な状況を想像し、耳まで塞ごうとした。
「目を瞑っていては何も見えないぞ。言ったはずだ。私達は敵ではない」
長髪のマザーは、目を瞑り躊躇するサナエにもう一度同じ言葉を口にした。それを受けたサナエはゆっくりと目を開く。すると飛び込んで来たのは、想像していた凄惨な現場ではなく――――やせ細ってはいるが、生きる気力はある子供達の姿だった。
「ど、どういう事だ……? ここでは日夜、子作りをさせられているのではなかったのか……?」
「数年前まではな。それこそティアや、お前達を拘束したミレーヌがマザーになってからは生まれて来る子の数は激減した」
「……? 何故だ……?」
サナエは怪訝な表情を浮かべ、長髪のマザーに問う。すると、サナエの拘束を解き終えたミレーヌが口を開く。
「私はね、5歳の頃からこの塔に違和感を持っていたのよ。時々訪れる外の大人達。それを追い払うマザー達。外の人が痩せこけているのに対して、私達は何不自由なく暮らせていたり……。そして何よりも不可解だったのは、塔の中に12歳以上の子供がいなかった事よ」
「ん……? 何だ? 全く話が見えないのだが……」
「まぁ最後まで聞いてやれ……」
またしても突然始まったミレーヌの一人語りに戸惑うサナエだったが、長髪のマザーは最後まで聞くようにと促した。
「そんな違和感を覚え始めた時、ティアがやって来た。初めは普通の赤ん坊だったけれど、一歳を過ぎる頃には有り得ないほど流暢に話し始めたの。本来、一歳の子供が知るはずもない塔の事、外の話を――――」
「そうなのか。ティア殿がラナ殿の眷属である事が起因しているのだろうな」
ミレーヌの話を聞き、サナエは適当な相槌を入れる。ミレーヌはそれに対し一度頷くと、話を続けた。
「私はティアの話を真剣に聞いたわ。一歳の子供の話をね。――――そして私は協力する事を選んだ。この塔の実情を知ったからね。それから私とティアは同年代の子供達を仲間につけ始めたの」
「それが私達、第三、第四世代のマザー達と、ここにいる12歳以上の家畜と呼ばれる子達だ」
「…………っ!?」
ミレーヌに続いて、長髪のマザーが口を開いた。二人が話す事実にサナエは驚愕した。
「それから私達は内部から徐々に変えていく計画を立てたわ。まず、家畜となった子達に子作りを辞めさせること。でも、女王に勘付かれては困るからね。少しずつ減らしていったのよ」
「だが、それでも女王にバレる危険性は無くならないだろう? 女王がここへ来て何もしていない状況を見れば――――」
「――――それは大丈夫だ。女王は子供を異常なまでに愛しているが、その行為自体は毛嫌いしているからな。ここへ自ら足を運ぶ事はまずない」
「つまり……バレないと?」
「そうよ。流石に近頃は産まれる子供の数が減り過ぎて違和感を覚えているようだけど、0ではない以上どうとでも言い訳が出来るわ」
漸く話を理解し始めたサナエの問いにも答えつつ、二人は淡々と話を続ける。
「家畜問題をクリアした私達は、次に一階の子供達にも根回しを始めた。――――時が来たら、"全員で外へ逃げる"と。まぁ3歳以上の子達は大体理解してくれた印象だな」
「つまり、子供達は皆、ここから逃げ出す準備が出来ているという事か?」
「そういう事よ。そして今日。この計画の大元であるラナ様が塔へ侵入した。何の因果かあなた達を巻き込んでね」
ミレーヌがそう言うと、サナエは大きく息を吐き、口を開く。
「なら後は……女王を倒すだけ――――そういう事だな?」
「そうね。この塔にはもう、女王の味方は誰一人としていない。そしてこれだけの仲間が集まった。後は女王を討てるかどうかだけ。――――そうだわ。私はそろそろ行かないと……」
サナエの問いに答えた後、ミレーヌは何かを思い出したようにそう言った。
「何処へ行くというのだ?」
「牢に囚われているあなたの仲間を逃がすのよ。協力者は多い方がいいからね」
「そうか……! なら拙者は何をすればいい!?」
ミレーヌがリオン達を助けに行くと言うと、サナエはやる気に満ち溢れた顔で刀に手を掛けた。すると長髪のマザーが口を開く。
「そうだな。ひとまず、マザーのフリをして女王の足を止めてきてくれないか?」
「何……!? 拙者がか……!?」
「責任重大よ? 頑張って?」
「…………あ、あぁ! 任せろ!」
そう言うとサナエはミレーヌに女王の部屋の場所を聞き、マザーの服に着替えてそこへ向かった。
ミレーヌはそれを見届けてから、リオン達を解放すべく牢へと向かう。残された長髪のマザーは大人の部屋にいる子供達を先導し、一階へと降りて行った。
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