第106話 脱獄
俺達が牢に捕らえられて数時間が経過した頃。女王がラナを連れ去り、サナエまで連れ去られて意気消沈していると、牢の前へ一人のマザーが現れた。
「助けに来たわよ。まさか死んでないでしょうね?」
「は……? お前はさっき、俺達を拘束した……!?」
突然牢の前に現れ、そして助けに来たと言うそのマザーは華麗な拘束術を使い、俺達を捕え、牢に入れた超本人ミレーヌだった。俺は突然の来訪者に戸惑いを隠せないでいた。
「何よティア。まだ私達の事を話していなかったの?」
「うん、ごめんミレーヌ。でも……それどころじゃなくって」
驚愕している俺達を他所に、ミレーヌはティアに詰め寄った。
――私達の事を話す……?
何を言っているんだ……?
それに助けに来たという言葉……。
不可解過ぎてついていけない……。
「言い訳はいらないわ。ティア? 早くその人達を解放なさい?」
「わかった……。皆さん、今から全てをお話します」
そう言うとティアは俺達の拘束を解き、俺達に話していない事を全て話してくれた。
その内容はミレーヌ達、他のマザーは全員ラナやティアの仲間であること。サナエが無事であること。加えてラナの計画はもう既に始まっているということだった。
「――――といった感じです。ご理解頂けたでしょうか?」
「いや、いきなり過ぎで流石に全ては理解出来てないよ……」
「まぁとにかく……。サナエちゃんが無事で何よりや。ほんで? ティアちゃん達はワイらを解放して何をさすつもりなんや?」
ティアの説明を受け俺は困惑。ハンスは全てを理解したわけではないが、サナエの無事を受け安堵し彼女らの目的について問うた。するとティアがそれに答え始める。
「皆さんには好きなように動いてもらって構いません。そもそも敵は女王一人ですし、こちらの人員は足りていますので」
「ははっ! そんだけ話が単純になりゃあわかりやすくていいな!」
「いや、でも本当に俺達は好きに動いていいのか?」
ティアの話を受けグレンは笑みを浮かべやる気を見せ始める。対して俺は本当にそれでいいのかと念を押した。するとミレーヌは片目を瞑って答え始める。
「えぇ、構わないわ。そもそもあなた達の存在は当初の予定に無かったんですもの。イレギュラーはイレギュラーなりに行動していればいいのよ」
「そういう事か……。わかった。なら俺達は好きに動かせてもらう。因みに子供達は……?」
ミレーヌは若干呆れた様な表情でそう言い、俺はそれを受け入れる事にした。そして次に子供達の安否について問うた。
「子供達も無事よ。別の仲間が先導して塔から逃がす手筈だから。あと先に言っておくと、サナエは今女王の足止めをしているわ」
「女王の足止めやと!? なんちゅう危険な……! サナエちゃんは女王に顔が割れとるんやで!?」
ミレーヌが淡々と口にしたサナエの現状に対し、ハンスは声を荒らげて反応した。
「大丈夫ですよ。女王は子供以外の顔をいちいち覚えていませんから。その証拠に私達マザーの事を名前で呼んだ事は一度もありませんから」
「……っ! そこまで拗らせてんのかよ……。んで? テメェらはこれからどうすんだよ?」
ティアの言葉を受け、俺達は初めて女王の本質に気付いた。そしてグレンは彼女らの今後を尋ねた。
「私とミレーヌはラナ様の手伝いへ向かいます。まぁ恐らくその必要は無いと思いますが」
「そうか。なら俺は塔の外へ逃げ出してるっつうガキ共の方へ向かうぜ」
「ほな、ワイもそっちや。グレンちゃんだけやったら何をしでかすかわかったもんちゃうからな」
「あ!? 何だとハンス、テメェ……!?」
彼女らの今後を聞いたグレンは一階の子供達を逃がす班に加わると宣言した。それにハンスもついて行くようだが、その言い方にグレンは声を荒らげていた。
――へぇ……。グレンは前線ではなくそっちを選ぶのか……。
血気盛んなグレンにしては珍しいな……。
余程さっきの女王との対峙が尾を引いているのか、それともただ子供達が心配なだけか……?
「リオンさんはどうなさいますか?」
俺がそんな思案を重ねていると、ティアがそう尋ねて来た。
「俺はサナエの元に向かうよ。無事だとは思うけど心配だしな。……あと、女王の最期もしっかりと見ておきたい」
「そうですか。わかりました。では各々その手筈で参りましょう」
俺がサナエの元へ向かう事を決めそう告げると、ティアは頷き皆に目線を送った。そして俺達は牢を脱し、グレンとハンス、俺とティアとミレーヌに分かれ行動を開始した。
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