第56話 屋敷で見たもの
「へぇーそうなんか。ほんで? サンドレアには何しに来たんや?」
このハンスの言葉によって俺達は本来の目的を思い出した。
「あぁ……! そうだよ、サナエ! 俺達はシルキーの所へ向かってる途中だったんだ!」
「この変な男が突然話し掛けて来るから忘れてしまっていたな……」
「サナエちゃーん? 変な男はあんまりやないー?」
ハンスはサナエの天然にツッコミを入れた。
そんな事で一々ツッコんでいたらキリがないのにな。
「そうだ、ハンス。サンドレアの大臣が住んでる屋敷を知らないか?」
「屋敷? んー。確かこのまま北に真っ直ぐ行った所に綺麗めな家が何軒かある地域があるから、もしかしたらそこやないかな?」
そう言うとハンスはその方角を指さした。
「そうか! ありがとう! じゃあ俺達先急ぐから!」
「感謝する。変な男だが、ハンスは良い奴なのだな。また会おう!」
「サナエちゃん? 変な男は余計やで?」
そして俺達はまたしてもサナエにツッコミを入れるハンスに別れを告げ、シルキーがいる屋敷へと急いだ。
◇◇
暫く歩き続けると先程まで大量にあった砂が減り始め、集落の家とは違い、丈夫そうで大きな家が建ち並ぶ地域へとやって来た。
「ここはさっきまでの集落とは違うようだな、主?」
「うん。ここがハンスが言っていた所で間違いなさそうだな。集落の家より綺麗な家が多いし、多分ここに住んでいる奴らは身分が高いんじゃないかな?」
「さすが主! じゃあこの中にシルキーの家があるかもしれないな! 何せシルキーの父親は大臣だとか言っていたからな」
そしてサナエは一軒一軒じっくりと観察しながらゆっくりと歩き続ける。
ていうかそもそも大臣って何だ?
ヨスガの里で言うところの侍的な立ち位置か?
ならグレンとルドルフの父親である国王が将軍って事か。
そんな事を考えているとサナエが突然大声で俺を呼んだ。
「主! 主!」
「何だよ、そんな大声で呼ばなくても聞こえてるよ」
そして俺は少し先を歩いていたサナエの元へ駆け寄った。
するとサナエは首くらいの高さの屋敷の塀から中を覗き込んでいた。
「お前な……。堂々と覗きなんかするなよ……」
「今はそれどころじゃないだろう? それより見て主!」
俺は言われるがまま高い塀から顔を出し、その中を見た。
すると塀の中には庭があり、その中心に屋敷があった。
「主! あの窓から中が少し見えるだろう?」
「んー? あぁ、確かに見えるな。…………あれは?」
サナエが指さした先を見ると屋敷の窓があった。
そしてその窓から見える部屋の中にシルキーとヴァイツェンの姿があった。
「シルキーだ……!」
「だがヴァイツェンもいるようだ。何かを話しているようだが、一体何を話しているんだ……?」
言葉こそ聞き取れないが、表情や動きで二人がどんな話をしているのか何となく想像が出来た。
どうやらシルキーはヴァイツェンに酷く叱られているようだった。
そして遂にはヴァイツェンはシルキーの事を殴り始めた。
「何をやってるんだあのクソ男は……!」
「主、今すぐ中へ入って奴を葬ってやろう!」
俺がヴァイツェンに嫌悪感を露わにしていると、サナエは刀をカチャカチャと触り始めた。
彼女も相当苛立っているようだった。
「落ち着けサナエ。ひとまずこの塀の中へ侵入しよう。話はそれからだ」
「うぬ。わかった。だが主。表の入り口には警備の者が居て入れそうにないぞ?」
「わかってる。この塀をよじ登って中に入ろう」
そして俺とサナエは塀を乗り越え中へと侵入した。
その後、シルキーがいる部屋の窓の近くまで行き、中の様子を伺うと少しだけ二人の声が漏れだしていた。
◇
『何の為にお前を下の階層へ行かせたと思っているのだ!? あの二人がここへ戻らんようにする為だろうが!?』
『ごめんなさい……お父さん。でも私……リオっちの事、放っておけなくて……。サナエっちも里で辛い目にあってて……。グレンとルドルフだって……! 何も悪い事は――――』
『――――口答えするなと言ったはずだぞ……? チッ……お前を殴ったら手が汚れたわぃ。……メイド!! 湯の準備をしろ! ワタシの身体を洗え!』
ヴァイツェンはシルキーを叱責しながら何度か殴ると、部屋の隅にいたメイドと呼ばれる女性二人を連れ部屋を後にした。
そして一人、部屋に取り残されたシルキーは蹲り泣いていた。
『うぅっ……うぅ。ごめん、グレン……ルドルフ。リオっちもサナエっちもごめん……。もうみんな……私の事、嫌いになっちゃったよね……』
そんなシルキーの姿を見て、横にいたサナエが涙を流し叫び出した。
「うぅ……! そんな事ないぞ……! 嫌いになんてなるものか! 拙者はシルキーに何か事情があるのだと信じていた……! 泣くなシルキー! きっと拙者と主で助けてやるからな……!!」
そう叫び、窓をバンバン叩くサナエに当然ながら部屋の中にいたシルキーは気が付いた。
そしてゆっくりと立ち上がり窓の方を見つめた。
「……馬鹿、サナエ!! そんな大声出したらバレるだろ!? 俺達は侵入者だって事忘れたのか!?」
「あ……。シルキーがあまりに可哀想で見ていられなくなってしまって……つい」
俺達は咄嗟にその場でしゃがみこみ、隠れた。
そして蹲り泣いているシルキーを見て、俺は少し安堵していた。
シルキーが好きでこんな事をしているわけではない事に。
そして暫く隠れていても、窓からシルキーが顔を出して来ない事を不審に思い、俺達は恐る恐る部屋の中をもう一度覗いた。
しかしそこに既にシルキーの姿は無かった。
「まずいぞ……シルキーこっち向かってるかもしれない」
「駄目なのか? 拙者達はシルキーと話をしに来たのだろう?」
「そうだけど、もし他の仲間とか連れて来たらまずいだろ?」
「むぅ……確かに。ならどうする? 何処か隠れる場所……」
サナエは辺りをキョロキョロと見渡す。
すると庭の隅にあった小さな小屋を指さした。
「主、あれなんてどうだ? あの中なら隠れられるのではないか?」
「何だあれ、物置小屋とかかな? とりあえずそこに隠れようか」
そして俺とサナエはひとまず、その物置小屋に隠れる事にした。
小屋の扉には鍵がかかっていたが、非常事態である為壊して中へと入った。
◇
小屋の中へと入った俺達はそこで信じられないものを目にした。
沈み始めた陽の光が窓から差し込み、薄暗い小屋の中にあるソレを明るく照らした。
「何でこんな所に……人が……?」
そこで見たものとは――長い銀髪の女性が両手を鎖で繋がれ、天井から吊るされている姿だった――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます