第57話 銀髪の女性
俺達が小屋の中へ入ると、そこには長い銀髪の女性が両手を鎖で繋がれた状態で天井から吊るされていた。
その女性は至る所に暴行を受けた跡があり、白い肌に青い痣が目立っていた。
「どういうことだ? なんでこんな……?」
「わからない……。でも何か嫌な感じはするな」
すると俺達の話し声に気が付いたのか、女性はゆっくりと目を開けた。
「あ、あなた達は……?」
「はぁ、よかった……。生きていたんだな。俺はリオン。こっちはサナエだ」
「うむ。拙者は侍だ。ひとまずその鎖を外してやろう……」
サナエは何故か自分を侍だと言い、その後刀を抜き女性の両手を繋いでいた鎖を切った。
すると女性は地に足をつけ、俺達に深く頭を下げた。
「助けて頂きありがとうございます……。でもあなた方はどうしてここへ? ここはヴァイツェンの屋敷のはず……」
そう話す女性は俺達に礼を言うと暗い表情を見せた。
「少し用があって。それよりあなたは一体……?」
俺がそう質問すると、女性は更に暗い表情で俯き静かに口を開いた。
「私はオリビア。サンドレア公国、国王モルトの妻です……」
「え……!?」
国王モルトの妻……ということは。
この人、グレンとルドルフの母親って事か……!?
もしそうなら、この人に二人の事を話すべきか……?
いや、でもルドルフがああなってしまった以上、ショックが大きいだろうし今は話さない方が……。
俺がどうするべきか悩んでいるとサナエが口を開いた。
「国王の妻という事は、この国ではそれなりに地位が高いはず。にも関わらずこんな目に遭っていたのは何故だ? それに妻がこんな目に遭っているというのに国王は何をしている?」
サナエは至極真っ当な事を言った。
俺はてっきりグレンとルドルフの事を話し出すのかと思っていたから、少し驚いてしまった。
するとオリビアは俯いたまま涙をこぼし始めた。
「えぇ……。彼がまだ動けていたのなら、こんな事はさせなかったでしょう……。ですが……国王はもう……石にされてしまったのです……」
「…………っ!!」
「そして残された私は、以前から私を下卑た目で見て来ていたヴァイツェンに、自分の妻になるよう強要されて……。何度も断っていたらここへ繋がれ閉じ込められてしまったのです……」
「……なるほど、そういう事だったのか。やっぱりヴァイツェンはクソだな……」
「ですね。主。拙者はヴァイツェンを益々許せなくなった」
オリビアの話を聞き、更にヴァイツェンへの憎悪を募らせる俺とサナエ。
するとオリビアはそんな俺達を見てとある質問をして来た。
「何故お二人はそこまでヴァイツェンを……?」
「実は俺達、さっきここへ来たばかりなんだ。それまではヨスガの里って所に――――」
「ヨスガの里……!? お二人はヨスガの里からいらしたのですか!?」
俺が話を始めるとオリビアは血相を変えて俺に詰め寄って来た。
「そ、そうだけど。どうしたんだ突然?」
「そこでグレンとルドルフという男の子に会いませんでしたか!? その二人は……私の息子なんです……!!」
オリビアは鬼気迫る表情で俺にそう言った。
やっぱりそうだったか。
この人はグレンとルドルフの……。
もうここまで来たら言い逃れは出来ないな。
俺はオリビアに、俺達がここへ来た経緯やグレンとルドルフに何があったのか全てを包み隠さず話した。
◇
俺が話を終えると更に大粒の涙を流すオリビア。
その震える背中をサナエは優しくさすった。
すると彼女は涙を流しながらも、ゆっくりと口を開いた。
「そうですか……。でもグレンとルドルフは下でも元気に暮らしていたのですね……。よかった……! それにシルキーちゃんも……」
「シルキーの事……憎くないのか? その……シルキーは二人を傷付けて、ルドルフを石化させてしまったんだぞ?」
俺がそう聞くとオリビアは首を横に振った。
「それは……憎くないと言ったら嘘になります……。ですがシルキーちゃんも被害者なんです……」
「被害者……?」
「えぇ。グレンとルドルフ、そしてシルキーちゃんは昔からずっと仲が良くて、よく一緒に遊んでいました。しかしある男が現れてからヴァイツェンが変わってしまって……。その娘であるシルキーちゃんも変わらざるを得なかったのだと思います」
するとオリビアは涙を拭き、真っ直ぐに俺達を見つめた。
その目には内に秘めた怒りや憎しみが滲み出ているように感じられた。
「ある男……?」
サナエは真剣な表情でオリビアに聞き返す。
するとオリビアはこくりと頷き話を続けた。
「その男の名はグレゴール。地上からやって来た悪魔の様な男です」
「ぐ、グレゴールだと……!?」
俺はその男の名前を聞き鳥肌が立った。
そして同時に怒りや殺意、疑念や憎しみが一気に押し寄せた。
何を考えているのかわからないあの不敵な笑みと、シルキーの事を知っている様な口ぶりが気にはなっていたけど、まさかここでグレゴールという名前を聞くことになるとはな。
「リオンさん……? グレゴールの事をご存知で……?」
「うん、まぁ。前に一度会った事があるんだ……」
「主…………」
俺は今どんな顔をしているのだろうか。
復讐心に塗り潰された酷い顔をしているだろうか。
でなければサナエがこんなに心配そうに俺を見つめたりしないだろう。
そして俺は一度深呼吸をし、心を落ち着かせた。
「ごめん、サナエ。俺は大丈夫だ。オリビア、話の続きを聞かせてもらえるかな?」
「主……本当に大丈夫か?」
それでも尚、心配そうに見つめるサナエに俺は少し笑って頷いた。
するとオリビアは気を遣いつつも話を再開した。
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