第35話 臆病者


 穴を掘り進め、将軍ヨシユキの部屋へ辿り着いた俺は、将軍との会話を通して嫌悪感と怒りで一杯になっていた。


 

「俺は必ずお前をぶっ倒す!! そしてこの里を変えて里の人達をお前の支配から解放する!」

 

「くっくっく。やれるものならやってみろ……!!」

 

 俺がそう言うと将軍は不敵な笑みを浮かべた。

 そして将軍は指をパチンと鳴らすと俺に質問を始めた。

 

「小僧よ。我は臆病者の将軍と一部の者から言われておるのだが何故だかわかるか?」

 

「知るか! 生まれて一度も城の外へ出た事ないからだろ!?」

 

 俺の答えが合っていたのか否かは不明だが、将軍は再度指をパチンと鳴らした。

 

「くっくっ。そうだな。では、性格や年齢を度外視して、強き侍を募ったのは何故だ?」

 

「知るかって!! お前が臆病者だからだろ!?」

 

 俺がそう言うと将軍は再度パチンパチンと二度指を鳴らした。

 

「くっくっく。そうだ。では? その侍達を我が殺すと貴様に宣言したのにも関わらず、臆病者の我が貴様に対し余裕の笑みを浮かべているのは何故だ?」

 

「だから知るかって! そんなこと……!!」

 

 俺はそう言うと両手を口に変え、勢いよく将軍に向かっていった。

 

「くっくっく。それはな、我一人でも貴様に殺せるからだ」

 

 将軍が全てを言い終え、俺が一歩を踏み出したその刹那――――ドゴーーンッ……! と、大きな爆発音を伴い、突然地面が爆発した。


「うっ……がァァァ……!!」


 俺は悲鳴にも似た声を上げ、後ろに倒れると、ズズズズッ! ガシッ! ――――と、ツタのような物が床から伸び、俺の手足を縛り付けた。そして、そんな俺の無様な状態を見た将軍は、不敵な笑みを浮かべ口を開いた。


 

「くっくっく。どうだ? 我の罠にかかった気分は?」

 

「罠……? お前一体何をした……!?」

 

 俺は両手両足をツタにからまれ地面に縛り付けられていて動けなかった。

 

「くっくっく! はーはっははは! 我は臆病者なんだ。だから勝てない戦いはせぬ。我が戦うと決めたという事はそういう事だ。わかったか? 小僧。そこがお前の現在地だ」

 

「ふっざけんな! 何が戦いだ! 不意打ちみたいな真似して……卑怯じゃないか……!!」

 

「卑怯? くっくっく。貴様らだって我がいる城に不意打ちのように勝手に侵入してきたではないか。何が違うというのだ?」

 

「くっ……!」

 

 俺は言い返す事が出来なかった。

 そして俺は両手両足を繋がれた状態で上を見た。

 すると天井にバツ印のようなものが見えた。

 

「ん……? 何だ、あれは……?」

 

「くっくっく。気付いたか? あれは我が仕掛けた罠だ。我のスキル【トラップ】でな」

 

「スキルだと……?」

 

「そうだとも。我のスキル【罠】は、我が指を鳴らすだけで任意の場所に様々な罠を仕掛ける事が出来る。発動条件は罠によって違うがな。例えば先の足元の爆発と今貴様の両手両足を縛っているツタは人間が近付けば発動する。そしてその上のバツ印。それは何だと思う?」

 

「天井にあるものには触れられない……。何だ……?」

 

「くっくっく。それはな。その印の真下にいる人間がそれを見た時だ」

 

 将軍がそう言うと、バツ印があった天井が爆発し崩落した。そしてその崩落した瓦礫は俺の腹の上に落ちた。

 

「ぐぁあああぁぁぁ…………!!」

 

 俺はその崩落した瓦礫をもろにくらってしまった。

 

「はーはっははは! 痛いか? 痛いであろう? 内蔵が一つや二つは潰れたのではないか? あと二つ罠を用意しておる。楽しんでくれよ小僧?」

 

「ぐっ……! ガハッ……!」

 

 俺は血を吐き出し、痛みに耐える他出来なかった。

 すると将軍は手を叩き俺の両手両足を縛っていたツタの罠を解除した。

 

「外れた……!?」

 

「我が手を叩けば罠は解除されるのだ」

 

 その行動に俺は違和感を覚えた。

 

「何故、お前は俺にスキルの事をそんなに教えるんだ……?」

 

「くっくっく。それを教えても尚、貴様を殺せるからだ……!」

 

「なめやがって……!」

 

 俺はもう一度立ち上がり将軍へ突貫。

 

「くっくっくっ……。そこだ」

 

 しかし、それは将軍の思う壷。俺が進み出した途端、左右両側の壁から矢が飛び出し、一瞬で俺の両肩を突き刺した。

 

「ぐぁあああぁぁぁ…………!!」

 

 俺はその場に膝をつきへたり込んだ。

 

「これが残り二つの罠だ。どうだ? まだ戦うか?」

 

 将軍は依然、肩肘をついた状態で偉そうに座っていた。そう。彼は俺と対峙して以降、一度も動いていなかった。

 

 そんな将軍に対して俺は、体中を罠によって傷付けられ満身創痍だった。

 

 そして将軍は高笑いをしながら、そんな俺を尻目に更にパチンパチンパチンパチンと指を鳴らし続ける。


「くっくっく。あといくつの罠が貴様を待っているかな? 我を倒すのであろう? ならば想像を絶する痛みと苦しみに耐えてみせろ! はーはっははは!」

 

「ぐぁ!! がァァァァァ…………!!!!」

 

 そしてその罠は俺が少しでも動く度に発動し、身体中に矢を刺し、床や天井を爆発し崩落させ瓦礫を落とし、ツタを巻き付け締め上げた。

 

「がぁぁ……!!! ぐぁあああぁぁぁ!!!!!」

 

 俺は耐え難い痛みで意識が朦朧とし始める。

 爆発の音と、ツタが生える音と、矢が身体に刺さる音。全ての音の中に高笑いする将軍の声が聞こえてくる。

 

「はーはっははは! 無様なものよのう!! 我を倒して里を変えるだと!? 片腹痛いわ! この程度でよく言えたもだ!!」

 

「………………っ!!」

 

 俺はもう痛みや苦しみに声すらも出なくなっていた。

 ただ無意識に少しずつ将軍に近付こうと動くが、全て罠に阻まれていく。

 

 その繰り返しだった。刹那――――


 

「なーにやってんだ!! リオン!!! そんな奴にやられてんじゃねぇよ!!!」

 

「リオン! 負けるな!! 君なら絶対に将軍に勝てる!! 私はそう信じてる!!!」

 

 グレンとサナエが俺が掘った穴から出てきて叫んだ。


 ――グレンとサナエの声……?

 何か言っているのか……?

 よく聞こえないな……。

 俺は今何してる……?


 

「この馬鹿リオン!! なんでスキル使ってねぇんだ!? そんな罠、お前のスキルがありゃ屁でもねぇだろうが!!」

 

 ――スキル……?

 そうかスキルか……。

 頭に血が上ってそこまで考えられていなかった。

 さすがはグレンだな。

 いつもいい所に気が付く。


 俺は朦朧とした意識の中そんな事を考えていた。

 そしてその二人の叫び声に将軍が気付いていないわけもなく。

 

「何だ貴様らは?」

 

「私達はリオンの仲間だ! 将軍ヨシユキ! お前の首をとりにきた!」

 

「あぁそうだ! お前の将軍人生はここで終わりだクソ野郎!」

 

 二人がそう言うと将軍はまた笑い始めた。

 

「くっくっく。そうか、貴様らか。我の侍や息子をを倒したのは……」

 

「「そうだ……!!」」


 二人が声を揃えて答えると、将軍は眉間に手を当て笑う。

 

「くっくっくっ……。感謝するぞ。我の手間を省いてくれたのだな? どうだ、貴様ら。我の部下になる気はないか? そこの小僧よりよっぽど見所がありそうだ」

 

「「断る!!!」」

 

 将軍の有り得ない提案に嫌悪感を募らせながら、二人は再度、声を揃えて言い放つ。

 

「そうか。残念だ。ここに来ていいのは我の部下の者だけだ。ならば貴様らもそこの小僧と一緒に死んでもらおうか」

 

 そう言うとパチンパチンとヨシユキは指を鳴らした。

 二人は将軍のスキルを知らない。

 それ故に無防備に彼に向かって行ってしまった。

 将軍はそれを見て、ニヤリと笑った。


 ――危ない……。

 このままでは二人とも罠にかかってしまう……!


 俺は、傷の痛みすらも忘れて二人を助ける為、走り出した。


 

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