第34話 ひとりよがりの正義


 ヨシロウとの戦闘から、マサムネの策により脱した俺は壁に穴を掘り、最上階にいる将軍の元へ穴の中を進んでいた。

 


「うっぷ……。あぁもう……! 今日は土喰ってばっかだな……! 正直もうキツい……。サナエ達は大丈夫かな……?」

 

 俺はそんな事を呟きながらひたすらに穴を掘り進めていた。

 暫く掘り進めると硬い物にぶつかった。


 

「何だこれ? 今までの土と比べてかなり硬い……。これはもしかして将軍の部屋の床か?」

 

 そう思い俺はその硬い部分を勢いよく捕食し、一気に穴から飛び出した。

 するとそこには体格の良い凛々しい髭を生やした男が頬杖をつき偉そうに座っていた。

 

「お前が将軍だな……?」

 

 そして俺はその男の前に立ち、将軍であるか否かを問うた。すると男は、不敵な笑みを浮かべる。

 

「くっくっく。我に向かってお前とな? 生意気な小僧もいたものだ。――――いかにも。我がヨスガの里の将軍ヨシユキである。小僧、誰の許可を得てここまで来た?」

 

「やっぱりそうか……。許可なんかとってない! 俺はお前をぶっ倒しに来ただけだ!」

 

「くっくっく。おかしいな。ここへ来るまでの間に役人やら侍がいたはずだが?」


 何がおかしいのか、将軍は眉間に手を置き、ひたすらに笑みを浮かべる。

 

「そいつらはみんな俺の仲間が相手をしている! 俺は仲間達にお前を倒すようにとここへ送り出されたんだ!」

 

「そうであったか! して、小僧よ。何故、我を倒すとのたまう? 我は貴様に何かしたか?」

 

 将軍は悪びれる様子もなく、あっけらかんとした表情で俺に問い掛ける。俺はその態度と発言に苛立ち、激高した。

 

「何かしたかだと……? お前は自分の息子の罪を隠す為に、何も悪くないサナエを捕まえて処刑しようとしただろ!! それに俺達まで悪者に仕立てあげようとした! 何もしていないとは言わせない!!」

 

 しかし将軍は、またしても笑みを浮かべ口を開いた。

 

「くっくっく! はーははは! いやはや、まさかそれだけの事でここまで来る輩がおるとは思わんかった」

 

「それだけの事……!?」

 

「馬鹿な息子がしでかした事に、親が始末をつける事の何がそんなにおかしい?」

 

「その始末のつけ方が問題なんだ!」

 

「何が問題なんだ? たかが町の娘一人が見せしめに殺されるだけであろう?」

 

「たかが……?」

 

「そんなにあの娘が大事なら他の町の者を処刑しようか? それなら貴様も文句なかろう?」

 

 将軍は俺にそんなふざけた提案をした。

 

「ふざけんなよ……! 人斬りの正体はお前の息子だろうが! 処刑されるのは当然そいつだろ!」


 俺は怒りに震え、それを抑えられなくなって来ていた。しかし、将軍はそんな俺に対し、未だ笑みを浮かべている。

 

「くっくっく。小僧よ。命には価値がある。そして勿論それには格差もある。町の者一人と我が息子。どちらの命の方に価値があるか、わからないわけでもあるまい?」

 

「馬鹿な事言うな! 命の価値はみんな平等だ!」

 

「平等? そんなわけがなかろう! 人間は皆、生まれた時に命の価値は決まっておる。将軍一族かそうでないかだ。そうでない者は命の終わりすらも支配される。当然だ。我ら一族がこの里にどれだけの事をしてやったか。その我らの為に命を捨てる覚悟など、とうにできておる。寧ろ光栄な事ではないか? 我ら将軍一族の為に死ねるのだからな! くっくっく! はーはっははは!」


 訳が分からない、道理すらも逸脱し、ふざけた持論を展開した将軍は、高笑いを始めた。


「ふざけてる……。この里の長がお前みたいなクソ野郎なんてな……。いや……それで良かったのかもしれないな」

 

 俺の言葉を聞き、将軍は高笑いを止め鋭い目付きで俺を見た。

 

「よかっただと? 何がよかったというのだ?」

 

「お前がクソ野郎でよかったと言ったんだ。これで逆にお前が良い奴だったら思いっきりぶっ倒せなかっただろうからな。これで心置き無くお前をぶっ倒せる」

 

「くっくっく。はーはっははは! 全く面白いやつよのう。しかし小僧よ。貴様が我を倒したとして、その後この里を誰が治める? 貴様はそこまで考えてものを言っておるのか? 長なき里は必ず滅ぶぞ? 誰のおかげで民は生きていられると思っておる? その民達の事も考えておるのか?」

 

「お前が長じゃなかったらそんなの誰だっていいさ。とにかく俺はお前をぶっ倒す! その後の事はその時考える!」

 

 俺が必死に怒りを抑えているのに対し、将軍は涙を流しながら笑う。

 

「くっくっく! はーはっははは! そんなひとりよがりの正義で我を討つか!」

 

「お前のように保身しか考えない奴よりはよっぽどマシだ!!」



 俺達が問答を続けていると、一人の役人が部屋の中へ入って来た。

 

「ご報告致します! 一階の広間にて無数のゴロツキの侵入を確認し、城の九割の役人により対処にあたっておりましたが、先程、我々全員の身柄を拘束され無力化されました!」

 

「何だと……?」


 ――オアシスのメンバーがやってくれたみたいだな……!

 さすがはグレン達の部下だ!

 

「そ、そして……! 侍三名の部屋にまた別の侵入者が入り、侍達と交戦しておりましたが……」

 

「交戦しており……何だ……?」

 

「こ……交戦しておりましたが……。先程! 全員侵入者により敗北……! 続きまして……」

 

「侍達が負けただと……!? その上まだあるのか!?」

 

 将軍の表情は先までとは打って代わり、怒りを滲ませている。


 ――グレン達、侍に勝ったんだ……!

 やっぱり皆は強いな。

 後はサナエの所にいた人斬りか……。


 そして役人は、将軍から発せられるとてつもない圧力に、足を震わせながらも報告を続けた。

 

「そ、そして、侍達に続きまして、隠し部屋より、大罪人サナエの奪還を許し、その部屋におられたヨシロウ様もサナエと侵入者の手の者により討ち取られました……!!」


 ――サナエとマサムネが人斬りを倒したのか……!

 あの二人もやっぱり強い……!!

 あとは俺だけだな……。

 俺もコイツを必ずぶっ倒して、皆と笑顔で合流しよう。

 

 俺はそう心に決めた。

 そして役人が報告を終えるとヨシユキの表情は般若の如く怒りに満ち溢れていた。

 

「報告は以上か?」

 

「は、はい! 以上であります……!」

 

「そうか。して貴様。仲間や侍達が次々とやられていく中、何をしておる?」


 役人が震えているのを他所に、将軍は傍に置いてある刀をカチャカチャと触り、彼を睨みつける。

 

「わ、わたくしは……その! 将軍様にご報告を……」

 

「そうか……。ならば貴様は、我の部下を見殺しにしてきた。そう申すのだな?」

 

「い、いえ! 決してそのような……!」

 

 役人がそう言うとヨシユキの表情は更に曇る。

 

「貴様、我の言う事に異を唱えるか」

 

「い、いえ! 滅相もござ――――」

 

「――――もうよいわ!!!」


 そう言うと将軍は役人の首を、傍にあった刀ではね飛ばした。

 

「…………!? 何してるんだ!! お前……!?」

 

 俺はその様を見て激怒した。

 

「先も言ったであろう。こやつらの命は我の命と比べれば価値が無いに等しいと。それに加え、我の役に立たぬゴミは生かしておいても意味がなかろう?」

 

「な……何を言って……?」

 

 俺が怒りに狂いそうになっていると、更に将軍は続ける。

 

「それにこやつが言っていた通りなら、侵入者に負けた侍達も、無様にも拘束された役人達も皆、我が殺さないといけなくなってしまったな」

 

「本気で……言っているのか?」

 

「無論だ。我を守る力がない役立たず共に食わせる飯などない。我が与えた役目をも全う出来ない奴は万死に値する」

 

「お前は腐っている……。罪の無い人達を、人とも思わずに、まるで虫でも殺すように……! ――――俺は絶対にお前を許さない!!!」

 

 俺は既に怒りの感情を抑える事は出来なかった。

 

 ――このクソ野郎を速攻でぶっ倒して里を、そして知らず知らずの内に支配されている里の人達を救い出す!


 

 そう俺は心に決めヨシユキとの戦闘に臨む。

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