第33話 失ったもの
ヨシロウとの戦闘に勝利したサナエは、倒れているマサムネの元へ駆け寄った。
「師匠!! 目を開けてください! 師匠……!!」
サナエがどれだけ大きな声で呼びかけようともマサムネは返事をするどころか、目も開けず、呼吸音さえ聞こえない程、静かに微笑みながら眠っていた。
「師匠には……まだ! 教わりたい事が沢山……あります……。ですが……それはもう……。叶わないのです……ね」
そして涙を流しながらマサムネに話しかけていたサナエは、涙を拭き、マサムネに貰った刀を抱いた
「師匠……! 私は必ず! 師匠を超える立派な侍になります! …………ですから師匠。ご心配なさらず……。どうか安らかに……」
そう言うとサナエはマサムネを部屋の隅へおき、隠し部屋を後にしようとする。
すると隠し部屋にある三つの扉が同時に開いた。
「……んあ? なんだ、もう終わってんのかよ……。サナエは無事に助けてもらえたんだな?」
グレンはサナエにそう話しかける。
「遅くなりまして申し訳ありません。少々厄介な相手でして……。あれ? サナエさん? 助かってます……ね? 敵……? はもう倒れていますし……」
ルドルフはサナエが無事である事と、人斬りがもう倒れていることを確認し少し戸惑いながらも安堵していた。
「サナエっちーー! 無事でよかったよおおー! うぇーーーん!」
シルキーはサナエの無事を確認して安心したのか大泣きし始めた。
「あぁ、皆……来てくれてありがとう。皆が侍達と戦ってくれていたおかげで私達は人斬りを倒す事ができた……」
サナエはみんなに礼を言うと嬉しそうな表情を浮かべた後、暗い表情を見せた。
三人は「コイツが人斬り!?」と驚きながらも、サナエのその表情に違和感を覚えた。
「ん? どうしたサナエ? せっかく人斬りを倒したっつーのに浮かない顔してよ? ていうかシルキー。リオンはどうした? ルドルフもマサムネのじじいがいねぇじゃねぇか?」
「リオっちには先にサナエっちのとこへ向かってもらったはずなんだけど……あれ? 確かにいないねー!? リオっちー? どこいったー?」
「僕もマサムネさんには先にサナエさんの所へ行ってもらいましたが……?」
三人がマサムネとリオンを探しているとサナエは俯きながら話を始めた。
「リオンはその穴から上へ登って将軍の所へ行ったよ。そして師匠は……」
サナエはそう言うと、もう既に息をしていないマサムネを三人に見せた。
「……お、おい……! じじい!! 何寝てやがんだ! 起きろ! ……まだ寝るにははえーぞ!!」
グレンは何とも言えない表情でマサムネに呼び掛けた。
「…………ぐすん」
シルキーは大泣きするのをやめ、マサムネをじっと見つめていた。
「マサムネさん……? どうして……。いや、僕の……僕のせいだ……。ごめんなさい……サナエさん……マサムネさん……」
ルドルフはマサムネがこうなってしまったのは自分のせいだと謝り始めた。
「やめてくれ。師匠は最後まで立派に戦ってくれた。正にこの里の一番の侍に相応しい戦いぶりだった。師匠の強さに私は震えたよ。まだまだ私は侍になるには遠いなと実感した。師匠の死は無念の死なんかじゃない。私を守って、その私が奴を倒した。だから……師匠の死は無駄なんかじゃ…………」
サナエは、前向きな言葉を発しつつも、それとは裏腹に大粒の涙を流した。
シルキーはそれを見て涙を流さないように上を向き、ルドルフは自責の念を必死に抑えるように奥歯を噛み締めて涙を堪え、グレンは怒りと悔しさを心の奥にぐっとしまいこもうと必死だった。
「こんな事が……。あっちゃいけねぇだろ。何で良い奴が死ななきゃなんねぇんだ……? 全部人斬りがわりぃんだろ? 将軍がわりぃんだろ……? 俺が戦った奴が言ってた……。弱ぇ奴は虐げられる。弱ぇからわりぃって。なぁ……サナエ! ……ルドルフ! ……シルキー! お前達はどう思う!? マサムネのじじぃが死ぬのが当然だっつーのかよ! それが……この世界だっつーのかよ……!?」
グレンがそう言うと、ルドルフとシルキーは彼を抱き寄せ落ち着かせた。
そしてサナエはグレンの言葉に首を横に振る。
「グレンは何も間違っていない……! 間違っているのは将軍で、この世界だ。師匠の死を無駄にしない為にも私達は将軍を倒してこの里を変えなければならない」
「里を変える……」
サナエの強い想いに、ルドルフはその意味を胸に刻む。
「……将軍を倒さないとサナエっちがまた捕まっちゃうかもしれないってことだよねー?」
シルキーは将軍を倒さないとサナエがまた捕まってしまうかもしれないと危惧していた。
「将軍は倒す! だが、将軍を倒せたとしても、これから先はどうすんだ? 今この里は将軍が支配してる。それを終わらせたとしてこれからは誰がこの里の長になる? 長がいない組織は遅かれ早かれ必ず潰れる。今将軍のおかげで生きていられる奴らもいるだろ。そいつらにとっちゃあ、俺達がやろうとしてる事は迷惑な事なんじゃねぇか?」
するとグレンは強い意志と、そこから生じる様々な可能性を口にした。それに対し、シルキーとサナエは口を噤む。
しかしルドルフだけは違った。
「それなら僕らが新しい里を作ればいい。サクラ町の人達だけじゃなく、集落の人達にも話を聞いて、初代将軍が目指した、皆が笑顔で平等でいられる里を作るんだよ! 誰が長になるかなんてその時考えればいい。あんな将軍がいなくなって困る人の事より、将軍がいるから困ってるという人を助けてあげようよ!」
ルドルフがそう言うと他の三人は表情が少し明るくなった。そして四人は将軍を打ち倒しヨスガの里を良い里に変えると心に誓った。
◇
「ひとまず、先に将軍の所へ行っているリオンの元へ急ごう。私はリオンが心配だ」
「心配すんなサナエ。アイツは強くなった。将軍なんかにぜってー負けねぇ」
「大丈夫だよー! 特訓のおかげでリオっちも強くなってるんだよー!」
グレンとシルキーはリオンを信じ、必ず勝つと言い切った。
「リオンさんなら大丈夫でしょうけど、サナエさん。将軍のヨシユキは強いんでしょうか?」
「わからない……というのが本音だ。師匠がリオンを送り出す時、ヨシユキは強いと言っていた。だがスキルや戦い方までは何も……」
ルドルフの問いに不安そうな表情でサナエは返した。
「つまり得体が知れねぇ相手っつーわけだな。それじゃあ俺達もさっさとリオンの所へ行くか」
するとグレンは、真剣な表情で天井を見上げた。
「でも兄さん、マサムネさんをここに置いていくのは少し気が引けるんだ。それに僕とシルキーは傷を負ってかなり消耗している。だから僕らはマサムネさんを背負って先に城を脱出するよ」
「そうだねー。私も正直今からさっきの侍より強い人と戦うのはちょっとしんどいかもだよー」
「まぁしょうがねぇな。俺とサナエはほぼ無傷だからな。後は俺達に任せろ! お前達はマサムネのじじいを連れて城の外へ出てろ。ついでにその辺の役人達に事の顛末を説明してくれると助かる」
グレンの話に二人は頷き、ルドルフはマサムネを抱えて、シルキーはそれを後ろから押すようにして隠し部屋を後にした。
◇
「じゃあ俺達も行くか」
「あぁ。よろしく頼むよ、グレン」
そう言い二人は俺が掘った穴の中へと入り、将軍がいる城の最上階へと向かった。
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