第81話 詰み


 ハンスの話を聞き俺はヴァイツェンのスキルについて色々と理解する事が出来た。


 

 ――なるほど。そういう事か。

 俺はヴァイツェンのスキルがリセットである事、ダメージを受ける前の状態に戻す事――――これらに囚われ過ぎて奴の認識において『いつダメージを受けたか』が一番重要なのだと勝手に思い込んでいた。


 でも違った。

 いつダメージを受けたのかとかどうでもいいんだ。

 重要なのは『どこに』、『どんな』ダメージを受けたのかという事だ。

 それさえわかればそのダメージを受ける前に戻す事が出来る。

 

 つまり表面上に受けたダメージに対しては奴が無敵に等しいのは間違いない。

 身体についた傷や痛みによってそれらを認識出来るからだ。


 でも体内なら話は別だ。

 どこにどんなダメージを受けているか正確に認識するのは難しい。

 となると、シルキーはやはり体内に毒を入れたという事か?

 でもいつ、どうやって……?



 俺がそう思案していると、グレンはハンスに質問を重ねていた。


「じゃああれは何が起こってんだ……? ヴァイツェンはシルキーの毒を全てリセットしてたはずだろうが……?」


「せや。ナイフで刺している部分だけは……な」


「あん?」


「…………体内に回った毒を悟らせない様にシルキーはあえて何度もヴァイツェンの腹を刺したって事か」


「お、リオンちゃんは何となく気付いとるみたいやな」


「どういう事だ!?」


「つまり、シルキーはヴァイツェンが認識出来ていない体内にダメージを与え続けているって事だよ」


「そういう事や。シルキーは恐らくヴァイツェンが認識出来へんタイミングで体内に毒を注入した。奴が気付かへんくらいゆっくり進行する毒をな」


 ハンスはシルキーとヴァイツェンの方を見つめながら俺とグレンにそう話した。


「そんな事が可能なのか!?」


「可能や。基本、毒っちゅうんは体内に入るとすぐに体中に回って効果を発揮する。体を痺れさせたり、眠らせたり、最悪の場合、死に至らしめたりな。せやけどこれらは全て少しの違和感を伴う。それに気付かへん程ヴァイツェンはアホやない。気付けばすぐリセットをかけるやろう」


「ならシルキーはどうやって奴の認識からそれを外した……!?」


「多分だけどそれをするにはいくつか条件があるはず。それが今まで揃う事が無かったからシルキーは計画を実行出来なかったんだと思う」


 ハンスはそう言うと手を叩き説明を始めた。


「リオンちゃんは流石やなぁ。ほんでその条件やけど――大きく分けて二つや。一つはヴァイツェンが気付かん内に攻撃を入れる事。二つ目はヴァイツェンがダメージを受けていると認識出来へん程の威力でゆっくり進行していく事や」


「つまり奴の体内では今、気付かねぇ内に入れられたシルキーの毒が回り始めてダメージを与えてるって事か? でもンな事しても毒の効果に気付いたらヴァイツェンもリセットすりゃあいいだけじゃねーか?」


「まぁ痺れとか眠気みたいなわかりやすい毒ならそんな対処も可能やろうなぁ。でも考えてみ? 体内に何の痛みも無く、ゆっくり静かに回る毒があったらどうや?」


「ンな毒、あるわけねぇだ……ろ――――っ!!」


 ハンスの話を聞きグレンはそれに反論しようとした。

 刹那、グレンはその毒の存在に気が付いた。


「お? 気付いたようやな。シルキーが使った毒は石化毒で間違いない。恐らく今、ヴァイツェンの体内のどこかが石化していっとるはずや」


 ハンスの言う通り、シルキーの石化毒は針を刺した所を起点に石化し始め、そこから徐々に石化する範囲が広がっていくというもの。

 身体の表面が石化していく分には目に見えてソレがわかるから対処は出来るだろうが、体内となると何が起こっているのかすらわからない。

 恐らくシルキーが祈っていたのはその石化に気付かないで欲しいという願いだったのだろう。


「だけどよ、今アイツは体内を石化され始めていてそれに苦しんでるわけだろ? つまりその石化した部分をリセットすりゃあ苦しまずに済むんじゃねぇのか?」


「まぁせやろな。せやけど例えば今、ヴァイツェンの内蔵の一つが石化しとるとする。それに気付いたヴァイツェンは慌ててそこの石化を無かった事にする。せやけどその間に他の部分にも石化は広がっていく。しかも身体に異常が出るまでヴァイツェンはどこが石化しとるか気付かれへんからリセットも出来へん」


「なるほど……。気付いた時には既に……ってやつだな」


「せや。つまりシルキーがヴァイツェンに気付かれんと石化毒を付与した針を刺した時点で奴は詰んどったんや。……ほんま、えげつない事考えるなぁ」


 ハンスは頭を掻きながら少し笑いそう言った。


「じゃあこのままいけばヴァイツェンは……?」


「やがて石化毒は心臓に回って死ぬ。ヴァイツェンが気付かん内にな」


「「…………っ!!」」


 薄々は感じていた事を改めて言葉で聞くと途端に現実味が湧いてくる。

 俺とグレンは無敵とも思えたヴァイツェンのスキルにこんな攻略法があるのかと驚愕した。

 


「……だけどよ、いつシルキーは奴の体に針を刺したんだ? どんだけちっせぇ針でもちょっとは痛ぇだろ?」

 

「確かにいつだ……? ――――あっ! 俺が属性攻撃をくらわせたあの時か!」


「せや。そのタイミングで針を刺す事でヴァイツェンの注意をリオンちゃんの攻撃に向けさせた。ほんでその後、刺した針の上からナイフを突き刺してリセットさせる。よって証拠は綺麗に無くなるっちゅうわけや。ほんま、完璧やで……」

 


 俺達がシルキーの作戦に感心している間、ヴァイツェンは床をのたうち回りながらリセットを唱え続けていた。


「ぐぁあああ……!! リセット……! リセット……!! リセットォォォォ……!!!」


「どれだけリセットをかけても無駄だよ。一部の臓器が元に戻っても、他の部分が石化してる事に気付けない。ていうか記憶を失う時点であなたは臓器の活動が止まるまで石化されている事すら忘れてるしね。あなたの負けはもう決まった。諦めて……死んで……?」


「クソックソックソッ……!! クソがァァァァ……!! 許さない、絶対にゆるさ――――――――」


 シルキーの言葉に反応し喚き散らすヴァイツェンだったが、途中で声を出さなくなったと思えば暫くして身体の動きも止まった。


 


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