第83話 捕食
サナエの遅すぎる登場により場は一瞬沈黙した。
そんな中、いち早く我に返り声を上げたのはグレンだった。
「サナエ!! 今すぐ俺とリオンを縛ってる縄を切れ!!」
「…………っ!? ――――承知した!! 【
サナエは一瞬戸惑いを見せたが、俺とグレンの状況を瞬時に理解し刀に手をかけた。
そしてサナエが新技【剣の舞】を唱えると、サナエの体が少し赤くなり蒸気の様なものを発した。
「サナエちゃん……!? させへんで……!!」
ハンスはすぐさまサナエに反応し、俺達と彼女の間に入った。
「いや、通してもらう。主の一大事なのでな……! ――――【閃光二連撃】!!」
しかし剣の舞により身体能力が向上したサナエの速度は最早目で追えるものではなく、一瞬でハンスを抜き去り俺とグレンの背後に回り、カチンッと音を立て刀を鞘に納めた。
「待たせたな主、グレン。縄は切ったぞ」
サナエがそう言うと俺達を縛っていた縄はストンと床に落ちた。
「助かったよサナエ。ありがとう。でも遅すぎないか? 何してたんだよ?」
「実はこの屋敷、地下もあったんだ。そちらも調べていたのだが、何やら崩れた石ころしか見付からなくてな」
「そうなのか。その石ころってもしかして……」
俺はそう言いかけて口を噤んだ。
――その石ころは恐らくグレンとルドルフの父親で国王が石化されたものだろう。
それをヴァイツェンが砕いて地下の部屋に捨てたのかもな。
でも今これをグレンの前で話すのは少し違う気がするし黙っておこう。
俺がそんな事を考えているとグレンが徐に口を開いた。
「ボーッとしてる暇なんかねーぞ!? 俺はシルキーを止める! サナエとリオンはハンスだ!」
「わかった!」
「ふんっ。グレン、貴様は私の主君ではないのだぞ!? まぁいい。わかった!」
「なら最初っから黙ってやれよ!?」
そんないつも通りの掛け合いをしながら俺達はシルキーとハンスに向かっていった。
「シルキー!!」
「グレンのスキルはよく知ってる。触れられなければ何も恐くないわ……!」
そしてグレンはシルキーにスキルを行使しようと何とか触れようとするが、彼女の動きは素早く中々捕まえられない。
「サナエちゃん……君とは戦いたくないねん……」
「ふん。ならば私達の邪魔をしなければいいだろう?」
ハンスはそう言いつつもサナエの動きを止める為、色々な物を発現させては彼女にぶつける。
しかしサナエはそれらをものともせず、刀でバッタバッタとなぎ倒していく。
そんな中俺はふと足を止め、思考を巡らせ始めた。
「おい、リオン!! 何ボサっとしてやがんだ!? 早くハンスの動きを止めろ!」
「あぁ…………うん。わかってる……」
そう言いつつも俺は思考を巡らせるのを辞めなかった。
――このままグレンが力尽くでシルキーを止めたとしても、目を離せばいつか必ず自死するだろう。
それにハンスの狙いもわからない。
俺達に協力したり、シルキーに肩入れしたり、何がしたいんだ……?
するとその場に足を止めていた俺にハンスが走って向かって来た。
「リオンちゃん、今何考えとる? もしかしてワイの事? いやーん、照れるわァ」
いつもの様にヘラヘラとしながら俺を再度拘束しようとするハンス。
俺はそれを軽く躱すとハンスに疑問をぶつけた。
「なぁ、ハンス。お前の狙いは一体何なんだ? 何が目的なんだ?」
俺が真剣な表情で問いかけると、ハンスもヘラヘラと笑うのを辞め、真面目な顔付きになる。
そしてその答えを話し始めた。
「ワイの目的? そんなもん決まっとるやん。この国の全員が救われる事や……」
「そうか。だからお前はシルキーが死のうとする事を止めないんだな?」
「……そうや。もうそれしかないからな。スキルの能力でああなってもうたんは今更どうにも出来へん」
そう言うとハンスは攻撃を辞め俯いた。
その表情はどこか悔しそうに、そしてシルキーが死のうとしている事を認めたくない様に見えた。
――確かにシルキーが死ねばスキルの効果が切れて国中の人々は石化から解放される。
つまり救われるということだ。
でもそれはシルキーの命と引き換えにだ。
シルキーはそれを良しとしているし、ハンスも仕方がないことだと諦めてしまっている。
何か、何か他に方法は無いのか……?
石化した人を元に戻す方法は――――
刹那、俺の頭に一つの案が浮かんだ。
「戻す……? そうか、戻すか……!」
そう呟くと俺はハンスから離れヴァイツェンの元へと駆け出した。
――ヴァイツェンのリセットを使えば石化を解くことが出来るはずだ……!
でもその為には俺がヴァイツェンを――――捕食しなければいけない。
スキルでの捕食だとしても人を今までに捕食した事はない。
正直物凄く抵抗がある……。
考えただけでも吐きそうだ。
でもシルキーを死なせない事と、国中の人々を石化から解放する事の両方を得るにはもうこれしかない。
そして俺はヴァイツェンの元まで辿り着くと両手を口に変え、ソレを大きく広げた。
――覚悟を決めろ……。
シルキーを救うにはこれしかないんだ……!
スキルレベル上がった今の俺の口なら、両手を合わせれば何とか一口ずつで飲み込めるはずだ。
だからやれ……! やれよ俺……!!
「ちょい待ちいな、リオンちゃん……? 君一体何を――――まさかっ……!? リオンちゃんそれは……!!」
ハンスの必死で叫んだ言葉も耳に入らず、グレンとシルキー、サナエが驚いた様子で俺を見ている中――――俺はヴァイツェンを捕食した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます