第84話 告白


 部屋の中にいる全員が驚愕の表情で俺を見ていた。

 そんな中俺はヴァイツェンを丸ごと捕食した。



「リオン……お前、一体何をしてんだ……?」


「食ったんや……ヴァイツェンを……」


「主……? 体は大丈夫なのか……?」


「お父さん…………」


 四人がそれぞれの反応を見せている中、俺はシルキーの方を向き口を開いた。


「シルキーごめん……。俺はシルキーを救う為にヴァイツェンを捕食した。でもこれで……石化された人達にリセットをかけて元に戻せるよ……! もうシルキーは死ななくていいんだ……!」


「リオン…………」


 俺がそう話すとシルキーは涙を浮かべて俺の顔をじっと見つめた。


「だから……な? もう馬鹿な真似はやめてさ、一緒に――――」


「ちょい待てぇ!!」


 俺が話している途中でハンスが強引に口を挟んだ。


「何だよハンス? 何か不満か? シルキーも含めた皆が助かる方法だぞ?」


「リオンちゃん……そんな事、本気で出来る思てんのか?」


 ハンスはいつになく真剣な表情をしている。


「当たり前だ……! シルキーが死ななくてもいいように国中の石化した人達を元に――――」


「何人おると思てんねん!!」


 ハンスの問いに俺は真剣に答えていた。

 するとハンスは再度、そして今度は声を荒らげて俺の話を遮った。


「どうしたんだよ……? 俺は何人だろうがリセットするつもりだぞ? じゃないと全員を救う事は出来ないからな」


「せや。そないせんと石化した人全員を救うなんて無理や……。ただそれは……リオンちゃんには出来ん」


「はぁ……? 何言って――」


「せやから無理や言うてねん! ……他者から得た属性を放出するなんてとんでも能力、そんな何回も使えると思うか?」


 ハンスは再度声を荒らげた後、今にも泣き出しそうな表情で俺の顔を見た。


「……? ハンス、お前何言ってんだ……? そんなの出来るに――――」


「じゃあやってみーや!? ワイがさっき渡した属性玉のヤツを今すぐ出してみろや……!!!」


 ハンスは目に涙を浮かべながらそう叫んだ。

 俺は言われた通りに体内にあるハンスから貰った属性を放出するイメージをした――――が、俺の口から出たのはただの吐瀉物だった。


「は、はぁ……? 何で……?」


「せやから言うたやろ。そんな大層なもんが何回も出来るわけないんや。それに、もしそんな方法が本間に可能なんやったら、リオンちゃんからスキルの能力を聞いた時に速攻で伝えとるっちゅうねん……」


 ハンスの言葉で俺は全てを理解して、その場に膝から崩れ落ちた。

 俺の一世一代の決断が完全に無駄になってしまったこと、そしてやはりシルキーは救えないという事実に絶望した。


「ああっ……あぁ……ぁあぁぁぁぉあ!!!!」


 俺はその場で声を出して泣いた。

 両親や故郷を失った時よりも大きな声で泣いた。

 そしてサナエが俺の元へと駆け寄ってきて泣き崩れる俺を何も言わず静かに抱きしめた。



「ははは……。やっぱり無理なんじゃん。ちょっと期待しちゃったよ。私なんかが生きる事に期待しちゃダメなんだけどね……」


 シルキーは泣き崩れてサナエに抱きしめられている俺を見てボソッと呟いた。


「無理じゃねーよ……!! テメェも簡単に諦めんな! だからよ、もう一回――――――」


 グレンは全てを諦めたシルキーの肩を掴み再度説得を試みた。

 しかしその途中でグレンの声が止まる。


「し、シル……キー……?」


「ごめん、グレン。やっぱりこうするしかないんだよ。だからちょっとの間だけ……じっとしてて」


 シルキーは不用意に近づいたグレンの腹に麻痺毒を付与した針を突き刺した。

 グレンはその場にうつ伏せで倒れ込み、顔だけを上げた状態でシルキーを見つめた。


「あ……がぁ……ま、待て……シルキー。は、はやま……んな……!」


「ごめんねグレン。私バカだからさ……。何回考えてもこんな方法しか思い付かなかったんだよ」


 グレンは麻痺毒によって身体の自由が効かないながらも必死に口を動かしシルキーに言葉を届けようとした。

 しかしシルキーはそれで止まる事はなく、床に落ちていたナイフを手に取った。


「私ね、色々やってみたんだよ……? お父さんが寝ている間に毒殺しようとしたり、飲み物に毒を混ぜてみたり……。でもね、ダメだった。私一人じゃお父さんにそんな隙を作らせる事は出来なかった。体内から石化させる方法は最近思い付いたんだけど、やっぱり一人じゃ上手く出来そうになくて。でもそんな時にグレン達は来てくれた……」


 シルキーはナイフを握ったまま、ひたすらに一人で話し続けていた。


「嬉しかったなぁー。私を心配して助けに来てくれたんだって内心ホッとしたりもした。…………それでも私は計画を実行することに決めた。そうしないといけないと思ったし、みんながお父さんを倒そうとするこのチャンスにかけるしかないってそう思ったの」


「し、シル……キー……やめ……ろ……!」


「お父さんを殺した後は、また皆でワイワイ出来るかなーとか色々妄想したりもしたよ? でもね、やっぱりダメだよ……。私が石化させた人達をそのままにして、私だけ幸せに生きようなんてそんな虫のいい話はないよ」

 

「シルキー、もうやめるんや……。これ以上は……みんな辛いだけや……」


 シルキーが一人で話しているのに対し、ハンスは涙ながらに声をかけた。


「ハンスもありがとう……。私の計画を知って、私が死ぬのを止めようとしてくれて。知ってるんだよ? 石化した人達を元に戻す方法をずっと探してくれてたんでしょ?」


「あぁ……せやで……。でも見付からへんかった……。シルキーが死ぬ事以外に……石化した人達は元に戻る方法はなかった。調べれば調べる程、そうとしか思えへんくなった……」


「そうだよね、ごめんね。……ハンスは変わってるよ。見ず知らずの私の計画を聞いて全部信じちゃって、私を死なせない為に色々頑張ってさ。将来、悪い女に騙されたらダメだよ?」


「うっさいわ……ほっとけ……」


 ハンスは大粒の涙を流しながら少し笑った。


「リオっちもサナエっちもありがとう。短い間だったけど、二人と過ごした時間は忘れないよ」


「シルキー……!!!!」


「あぁ……ああぁぁぁーー……!!」


 サナエは泣きながらシルキーの名を叫び、俺はただただ泣き叫んだ。

 そしてシルキーは再度グレンの方へ向き直り口を開く。


「グレンはさ、小さい時からずっとヤンチャで、でも家族思いで、強くてかっこよくて、ルドルフが生まれた時は目をキラキラさせて喜んで。あ、そうだ。ねぇ、覚えてる? あの時グレン『お前ら二人は俺が守る!』なんて言ってたんだよ? 馬鹿だよねー、まだ二歳とかの子供に何が出来るんだよって……。笑っちゃうよね……」


「ンな……こと覚え……てねぇよ……。でも……これからは俺が……守るか……ら……! 絶対……! 守るから……! 死ぬ……な! シルキー……!」


「ははは……。こんな事をしでかした私にそんなこと言ってくれるなんて……。グレンはやっぱり優しいね……。はぁ、もう最後だし言っちゃおうかな……」


「……な、なに……をだ……?」


 グレンが声を振り絞り、そう問うとシルキーはナイフを首に突き立てて、最後の言葉を伝える。


「小さい時からずっと……ずっとグレンの事が好き……大好きだった……。次生まれ変わるならまたグレンの隣がいいな。はは……。私みたいな女に次なんてないか……。――――じゃあね、グレン。大好き……」


 そう言い残しシルキーは手に持ったナイフを自らの首に深く差し込み倒れ――――絶命した。


 刹那――

 シルキーの身体から眩い光が放たれた。



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