第96話 眠りと成長


「それよりラナちゃん。ワイらをここに連れて来て、そんな話までして、何をさせたいんや? まさか愚痴聞いて欲しいなんて理由やないやろ?」


 ハンスは鋭い眼差しでラナに問う。するとラナはふっと鼻で笑うと一言だけ口にした。


「ふっ……。妾はお主らに何もして欲しくないのじゃよ」


「どういう事だ……?」


 ラナの言葉に俺は耳を疑った。俺達が戸惑っていると、ラナは更に続ける。


「妾の話を聞いて、怖気付いてくれればよかったのじゃがな……。どうもお主らは正義感が強いらしい」


「当然だ。この階層の現状を聞かされて、放っておけるわけがないだろう?」


 意図がわからないラナに対し、サナエは真っ向から意見を述べた。そんな彼女の意見は、俺達と同じものだった。


「まぁそう殺気立つな、侍の。とりあえず、茶でも飲んで落ち着いたらどうじゃ? ほれ、お主らも」


 怪訝な表情を浮かべる俺達とは対照的に、にこやかな表情で茶を勧めるラナ。俺達は言われるがまま一口で、ラナが入れた茶を飲み干した。

 すると途端に身体の力が抜け始め、遂には俺達全員が机に突っ伏す形で意識を失った。



「ラ、ラナ……。お前……これに何を入れた……?」


 俺は薄れゆく意識の中で、目だけを動かしラナを睨み付ける。そしてラナはそんな俺を見下した体勢で口を開く。


「愚かな事じゃ。先程出会ったばかりの者に出された茶を、何の疑いも無しに飲み干すとはの。まぁお主らと会うのも最後じゃ。お主の問いにだけは答えてやろう。――――その茶には妾が作った薬を入れておる。効果は"麻痺"、"睡眠"の二つじゃ」


「ふ……ざけんなっ……。俺達を……どうするつもりだ……?」


「どうもせんよ。ただお主らには一日眠ってもらうだけじゃ。なに、安心せい。目が覚めれば薬の効果は切れる。じゃから、心置きなく眠るが良いぞ?」


「ぐっ……。ラ、ラナ……お前は……一体、何者――――」


 そして俺は襲い来る睡魔に抗えず、深い眠りについてしまった。刹那、ラナは悲しげな表情で口を開く。


「正義感とは名ばかりじゃ。お主らのようなお人好しなど、誰も救えやしないのじゃ……。すまんの、若造共。目が覚めたら大人しく帰るのじゃぞ。死地へ赴くのは老いぼれだけで十分じゃ」


 そんな意味深な言葉を残し、その特徴的な口調とは裏腹に美しい姿をしたラナは、その場を後にした。



 ◇



 ラナの薬の効果により眠りについた俺達は、神の声を聞いた。

 


 ――――スキルレベルが上がりました。

 現在のスキルレベルは3です。

 スキル名【悪食】。使用可能な能力は〈捕食〉、〈属性保持、使用〉、〈属性付与〉の三つです。

 新たな能力〈属性付与〉は己の身体にのみ属性を纏わせるものです。

 尚、スキルレベルが上がったことにより、捕食した属性は、新たな属性を捕食するまで使用可能となりました。



 ――――スキルレベルが上がりました。

 現在のスキルレベルは3です。

 スキル名【グラビティ】。使用可能な能力は〈浮遊〉、〈重力操作〉、〈操作性上昇〉の三つです。

 新たな能力〈操作性上昇〉は身体の一部分だけなど細かな操作に加え、操作の際に数値を唱える事で重力の大きさを調整する事が可能となるものです。



 ――――スキルレベルが上がりました。

 現在のスキルレベルは3です。

 スキル名【剣技】。使用可能な能力は〈閃光〉、〈剣の舞〉、〈斬撃〉の三つです。

 新たな能力〈斬撃〉は刀を振り下ろし、斬撃を放つものです。加えて、〈剣の舞〉を組み合わせると連撃も可能です。



 俺達は神の声を聞いた後も、暫く眠り続けた。



 ◇



 翌日。一番に目が覚めた俺は、グレン達を起こした。



「んあ……? もう朝か……?」


「拙者……いつの間に寝てしまっていたのだ……?」


 グレンとサナエは眠そうに目を擦ると、自分達が今置かれている現状を理解出来ていない様子だった。

 

「あれ、ラナちゃんは……?」


 すると遅れて目を覚ましたハンスが、部屋の中を見回し、ラナがいない事に気が付いた。

 俺はラナがお茶に薬を入れ、俺達を眠らせた事を皆に話した。



「――――というわけだ。ラナの真意はわからないけど、最後に意味ありげな事も言っていたし、何か事情がありそうなんだ」


「なるほどな。つまりリオンの話から察するに、ラナは俺達を巻き込みたくねーって事だな?」


「まぁ、せやろな。後は単純に、ワイらがラナちゃんに信用されてないっちゅう事やな」


 俺の話を聞き、グレンとハンスは真剣な表情でラナの真意を探る。そんな中、何故かサナエだけは不敵な笑みを浮かべていた。


「何だよサナエ? 何をにやけているんだ?」


「ふっふっふ。主よ。その問題、拙者なら解決出来るやもしれないぞ?」


「あん? 何を根拠にだよ?」


「ふっ。まぁグレンにわからないのも無理はない。何故なら拙者、今しがた"神の声"を聞いたからだ! どうやらスキルレベルが3に上昇したようだ! これで百人力だろう! アーッハハハ!」


 俺とグレンの問いに、サナエは自信満々に答え高笑いを始めた。


「何だ、そんな事か」


「なっ……! 主……? そんな事とはどういう……?」


「残念だけど、神の声は俺も聞いた。俺もスキルレベルが3に上がったそうだ」


「何ぃ……!?」


「わりぃがサナエ、俺もだ」


「グレンまで!? は、ハンスはどうだ……!? ハンスは神の声を聞いていないだろう!? な……!?」


 先まで自信満々だったサナエだが、俺とグレンも神の声を聞いたと知り、慌ててハンスにも確認をとる。


「…………当たり前やん! ワイも聞いたっちゅうねん。いやぁ、いきなりの事でびっくりやったなぁ……! スキルレベルが上がった事以外、なーんにも教えてくれへんし、ほんま不親切なやっちゃなー? 神っちゅうんは!」


 サナエの問いに対し、ハンスは少しの間を開けてから答えた。だが俺は、その言葉の節々に違和感を覚えた。そしてそれはグレンとサナエも同様で、二人は怪訝な表情でハンスを見つめている。


「おい、ハンス。今の話――――」


「――――せやし、サナエちゃんの言う通りやな! ワイらは昨日より強うなった。ほんならさっさとラナちゃんの手伝いに行こか!」


 俺が抱いた違和感をハンスに追求しようと口を開くと、彼はそれを遮るように言葉を発し、部屋の扉を開いた。

 外はとっくに日が昇り、明るくなっていた。



 

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