第95話 マザー
新たに明らかになった"マザー"という存在。
彼女達は一体何者なのか。そして何をしているのか。
「そのマザーっちゅうんは何をしとるんや? その名の通り、捕まっとる子供らの母親代わりっちゅうわけか?」
ハンスの問いにラナは一度頷いて、ゆっくりと口を開く。
「マザーの役割は大きく分けて四つじゃ。一つは子供達の世話。飯を食わせたり、風呂に入れたりとかのう」
「なるほど。そこは普通の母親と変わらない感じだな。――――なら残り三つは?」
「二つ目は外の者への対応じゃ。お主らも見たじゃろ? 時たま、ああやって訪れる者を上手くあしらって再度洗脳しておるのじゃ」
「外への警戒は行き届いているのか。ならば拙者達が侵入するのも容易ではない……か」
ラナは淡々と説明を続けながらも、俺やサナエの質問にもしっかりと答えてくれた。しかしその表情からは、怒りや憎しみのようなものが薄らと感じ取れる。
「そうなるのう。次に三つ目は子供達の管理じゃ」
「管理……?」
「マザー達は常日頃から子供達を観察し、成長記録をつけておる。それによって子供達の年齢から体調、スキルや能力値まで全て把握しておる。そしてある一定の年齢に達した子達を四階へ連れて行くのじゃ」
「四階……。確かそこは"大人の空間"って……」
俺がそう呟くと、ラナは鋭い眼光で虚空を見つめ、重い口を開く。
「そこでマザーの四つ目の役割が果たされる――――」
「――――おいおい、ちょい待ちーな……。嘘やろそんなん……。いくらなんでもそれは残酷過ぎるやんけ……」
ラナが四つ目の役割を話そうとすると、ハンスが首を何度も横に振りながら口を挟んだ。そんなハンスの言動で俺達もある程度の察しがついた。
「察しが良いの、糸目の。そうじゃ。四つ目のマザーの役割は――――"子を産む事"じゃ」
「…………っ!」
俺達は、信じ難い事実を知り言葉が出なかった。だが、今までのラナの話を聞いて、それが嘘偽りない真実である事は理解出来た。
――ラナが言っていた12歳以上の子供がいない事。
加えて一定の年齢に達した子達が四階へ連れて行かれる事。
この二つを加味して考えると、自ずとその結論に行き着く。
考えたくはないが、狂った女王ならやりかねないのだろうな……。
「せやけど、女王が即位して50年。そん時から子供達を攫ってたんやったら、さすがに子供の数も減るやろし、成長して12歳以上に至る子達の数が増えていくんとちゃうんか? それにその子らが何人も子供を産み続けていけるとは思えんで?」
「そうじゃのう。女王は異常なまでに子供達を愛しておる――――が故に、女王は子供ではない者を異常なまでに嫌っておる。それは人間として扱う事すらしないまでにな……」
ハンスの問いにラナは暗い顔で返答した。そしてそんな彼女にサナエは更なる問いを重ねる。
「人間として扱わないとはどういう事だ……? 現にマザーとして生きている女性もいるのであろう?」
「人間として扱わないとは言葉の通りじゃ。若い男女を子作りの為だけに生かし、そして子を産めなくなった者達を間引いていく。女は何かしらの条件を満たせばマザーとして生きられるようじゃが、男は皆殺されておるようじゃ」
「ンだよそれ……。ンなもん、まるで家畜じゃねぇか……!? 人間のすることじゃねーだろ!」
「なら、塔の中に12歳以上の子供がおらん事にどう説明をつける? 減り続けるはずの子供達が増えている事は? マザーとは何だ? 男の子はどこへ消えた? わかるなら答えてみせよ、褐色の……!!」
グレンはラナの話を聞き怒りを露わにしながら声を荒らげた。するとラナはそんなグレン以上に声を荒らげ詰め寄った。
「チッ……。俺が知るかよンなもん……。だからムカつくんじゃねぇーかよ……」
「だからってラナ殿に怒鳴るのは違うだろ。すまないラナ殿。だが、子供が減り続けるはずというのはどういう事だ?」
サナエはグレンの非礼を詫びると、ラナへ更に問いを投げかけた。するとラナは一度深く息を吸って、落ち着きを取り戻してから説明を始めた。
「外の集落の大人達は自らの子を問答無用で奪われた。そんな事が何度も、そして何年も続けばどうなると思う?」
「普通に考えれば子供を取り返そうとする……よな?」
「いや、リオンちゃん。それはワイらみたいに戦える能力があったらの話や。通常、スキルっちゅうんは戦闘向きというよりは生活に役立てるのが普通や」
「それと、歌による洗脳のおまけ付きじゃ……」
「た、確かに……。ならどうするんだ? これ以上、子供を奪われないようにする為に、子作りをしない……とか?」
「まぁ……そうなるわな。結論として言えば、塔の外に住む大人達は、10年前から一切の子作りをしておらん。自らの生殖機能を停止させてな……」
そう話すラナの表情は酷く悲哀に満ちていた。
「酷い話だな……。だけど集落の人がそこまでしているのに、塔の中にいる子供の数は減っていないってわけだよな? しかも12歳以上の子供が消えているにも関わらず……」
「そうじゃ。つまり妾が先に言うた事が全て事実であるということじゃ。わかったか、褐色の?」
「あぁ……わーったよ。悪かった」
俺達が話を漸く理解すると、ラナはまとめに入り、グレンの顔を片目で睨み付ける。するとグレンは素直に頭を下げた。
「それよりラナちゃん。ワイらをここに連れて来て、そんな話までして、何をさせたいんや? まさか愚痴聞いて欲しいなんて理由やないやろ?」
ハンスは鋭い眼差しでラナに問う。するとラナはふっと鼻で笑うと一言だけ口にした。
「ふっ……。妾はお主らに何もして欲しくないのじゃよ」
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