第94話 塔の中の実態


 ラナの話を聞いて、俺達はこの階層"トゥーンランド"がいかに腐り切っているかを理解した。



「ふっ……。とりあえず、お主らはここの腐り切った現状を理解出来たようじゃな」


「あぁ。ヨスガの里もサンドレアも大概だったが、ここはそれ以上かもしれない」


「主の言う通りだ。大切な人を奪われる悲しみは計り知れない……。拙者も師匠を失ったからよくわかる。ましてや自分の子を奪われるなど……あってはならない……!」


 ラナの問い掛けに俺は怒りを滲ませながら答えた。すると続けてサナエも悲しみと怒りを露わにしながら心情を吐露した。


「んで? 話の続きだけどよ。あの塔ん中はどうなってんだ? まさか、空洞ってわけでもねぇーんだろ?」


「ふっ。察しが良いな。どうやらお主ら、ただここへ迷い込んで来た若造というわけでもなさそうじゃな」


 そう言いながら少し笑みを浮かべるラナの表情は、どこか嬉しそうに見えた。


「ならば続きを話してやろう。あの塔の中は五階建てになっておる。一階は平らな広場。要は子供達の遊び場じゃな。昼間は基本、そこで子供達を遊ばせておるのじゃ」


「遊ばせる? なんや、えらい呑気な話やなぁ? そこにおる子供達は捕まっとるようなもんちゃうんかいな?」


「まぁそうがっつくでない、糸目の」


「い、糸目……!?」


 ラナの話が始まった途端、いきなり口を挟んだハンスに彼女は彼の鋭い目付きを糸目と称し落ち着かせた。


「塔の中におる子らは赤子の時に親から引き離される。じゃから自分が親から引き離された事どころか、親という存在すら知らんのじゃ」


「酷い話だ……」


 塔の中にいる子供達の現状に、うつむき加減で憐れむサナエ。そんな彼女を他所にラナは話を続ける。


「話を戻すが、塔の中は一階が広場。そして二階と三階は居住スペースじゃ。まぁ所謂、子供達が食べたり寝たりする場所じゃな」


「あの塔の二階分を使って居住スペースがあるということは……どれだけの子供達があの中に……」


 ラナの話を聞いて、俺は塔の中にいる子供達の数を想像し絶句した。するとラナがとんでもない事を口にする。

 

「――――軽く100人はおるじゃろうな。生きとるかどうかは別として……」


「何……?」


 "生きているかは別"。この言葉に俺達は過敏な反応を見せた。


「どういう事だ……!? 子供達はただ捕まってるだけじゃねーのかよ!?」


「せや……! ラナちゃん、なんちゅうこと言うんや!?」


 グレンとハンスは驚きのあまり声を荒らげてラナに詰め寄る。すると彼女はとても悲しそうな表情で口を開いた。


「――――おらんのじゃよ……」


「ん……ラナ殿? よく聞こえなかったのだが、もう一度言ってくれるか?」


「12歳以上の子供がどこにもおらんのじゃよ……!」


「…………っ!?」


 先まで淡々と話していたのが嘘のように、ラナは目に薄らと涙を浮かべて、今までで一番大きな声で叫んだ。

 その表情は、まるで何かを必死に訴える子供のようだった。


「そんなアホな……。そら、たまたま12歳以上の子供をまだ捕まえてへんだけちゃうんか?」


「そんな事は無い……。女王の狂った統治が始まったのは約50年前。その頃から子供を塔に連れて行っておった。それはもう……赤子から12歳まで様々な……」


「じゃあ少なくともその時捕まった赤ん坊は、今じゃ50歳って事か……」


「そうなるな。だが、ラナ殿の言う通り、12歳以上の子供がどこにもいないとなると、その子達は一体どこへ行ってしまったんだ……?」


 サナエは声を震わせながら皆に問いかけた。

 正直に言えば、皆は答えがわかっていたと思う。

 しかし、俺達は誰一人として核心に迫る事は言わなかった。

 


 暫くの沈黙が続いた後、重苦しい空気の中、グレンが口を開いた。


「……そういや、四階と五階はどうなってんだ? まだ聞いてなかったろ?」


 グレンの問いに、ラナはふうっと息を吐くと、説明を始めた。


「あぁそうじゃったの。一階から三階は所謂子供達の為の空間じゃ。そして四階と五階は云わば"大人の空間"じゃな」


「大人……? 塔の中に大人なんて――――あっ……」


 俺はそう言いかけて思い出した。子供に会いたいと泣き叫ぶ父親を、なんとも言えない表情で見つめていた女性の顔を。


「そうじゃ。お主らも見たじゃろう? 塔の中にはマザーと呼ばれる女が数名おる」


「マザー……」


 新たに明らかになった"マザー"という存在。

 彼女達は一体何者なのか。そして何をしているのか。

 ラナの話はもう少し続く……。

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