第四章 トゥーンランド 編

第89話 上へ行く方法


 シルキーとルドルフをサンドレアに残す決断をし、俺とグレンとサナエとハンスの四人は上の階層へ上がる方法を模索していた。



「俺達だけで上に行くとして……。問題は、どうやって行くかだよな」


 俺の言葉に皆は思案顔を浮かべる。

 するとハンスが口を開き、疑問をぶつける。

 

「そういやリオンちゃん達は、下からどうやってここへ来たんや?」


「ん? あぁ……それはシルキーが使ってたワープゲートがあったんだ。俺達はヨスガの里で偶然それを見つけてよ。それを使って来たんだ」


「ほな、それ使ったらまた上に行けるんとちゃうの?」


「俺もそう思ったてシルキーに確認したら、どうやらあのワープゲートはヨスガとサンドレアを繋いでいるだけらしいんだ。だからその手は使えない」


 俺の話を聞き、ハンスは顎に手を置き再び考え込み始めた。

 その後も暫く皆で考えを巡らせたが、結局これといった良い案は見付からなかった。



「やはりアレしかないのではないか?」


 そんな中、徐にサナエが口を開いた。


「アレって何だよ、サナエ?」


「ヨスガの里で言っていたではないか。グレンのスキルで拙者達を浮かせて、主のスキルで空に穴を開けると……」


「いや、でもそれは……俺が汚物の雨を降らせかねないから却下されただろう?」


「汚物の雨……!? 何やそれ!?」


 ――そうか……。ハンスはまだ、俺のスキルの制限を知らないんだな。

 ここは一度説明しておくか。


 そして俺はハンスに、自分のスキルの制限を伝えた。

 するとハンスは、意外にも驚いた様子は見せず、冷静に他の策を練り始めた。


「そうかぁ……。そら厳しいなぁ。でも、リオンちゃんのスキルで空に穴を開けることは可能なんやろ?」


「そりゃあ、まぁ……。捕食せずに噛み砕く要領でやれば制限を気にせずに掘り進められるけど……」


「次はそれによって出る瓦礫が問題だな」


 俺の言葉にグレンが続いて話すと、サナエが何かを思い付いた様子で口を開いた。


「ならば、その瓦礫をグレンのスキルで浮かせて、ゆっくり地に落とすというのはどうだ?」


「「「…………っ!!」」」


 サナエの提案に、俺達は一斉にハッとした表情を見せる。


「ど、どうした? やはり拙者が思い付くような策では考えが足らないか……?」


「いや。サナエちゃん、いい案やでそれ……!」


「あぁ。それならサンドレアの住人達への被害も抑えられるだろうしな」


 サナエは残念そうな表情で自分を卑下する。それとは相対して、俺とハンスは彼女の案に好意的な反応を示した。


「ちょっ、ちょっと待て……!」


 そんな中、戸惑いながらグレンが声を上げた。


「何や、グレンちゃん。まさかサナエちゃんが言うた事を出来ひんとか言わんよなぁ?」


「いや……多分だけどよ。俺、テメェらの重力を操作するだけで手一杯になるぜ? そんな瓦礫まで浮かせてらんねぇーよ」


 ハンスが謎の圧をかけるも、グレンはありのままを話した。


 ――なるほど……。

 確かにグレンはフィフシスから脱出する時も、俺達を浮かせる事以外はしていなかった。

 グレンのスキルは目立った制限こそないけど、一気に重力を操作出来る対象の数には限りがあるんだ。

 ならやっぱりこの策は……。


「わかった! ほんならもうしゃあない。リオンちゃん。グレンちゃんを食べよっか」


「はぁ……!?」


 俺が他の策を真剣に考えていると、ハンスは思いがけない事を口にした。


「ぷっ……! アッハハハ! 嘘嘘、冗談やん!」


「ンだよ……。ビビらせんなよ……」


「流石に主は仲間を食ったりはしないぞ?」


「冗談キツイぜ、まったく……」


 大笑いを続けるハンスに対し、俺達は冷ややかな目を向ける。するとハンスはバツの悪そうな表情を浮かべ、口を開いた。


「ごめんやん、そんな怒らんといて? でもまぁ、グレンちゃんが瓦礫の重力操作に神経を注げるようにしたらえぇんやろ?」


「そうだ。だけど、グレンのスキル以外にあんな空高くまで行く方法なんてないだろ」


「それがあるって言うたら……どうする?」


 俺の言葉にハンスはニヤリと笑みを浮かべた。

 グレンとサナエは怪訝な表情をしている。


「どうするって、そりゃあ有難い話だけど、実際はそんなのないだろ?」


「あるねんなぁ、これが。ワイのスキルを使えば可能や。まぁ、グレンちゃんみたいに宙に浮いて飛んで行くみたいな事は出来へんけどな」


「じゃあ、どうやってやんだ?」


「ふっふっふ……。ほなよう見ときや? これがスキルの正しい使い方や。――――【空まで続く階段 発現】……!!」


 ハンスは自慢気な顔で、何も無い所を指さし訳のわからない事を口にした。

 するとそこへ、突然ハンスの言葉通りの"空まで続く階段"が現れた。


「な、何だこれは……? 空まで続く階段が本当に……?」


「サナエちゃん、驚き過ぎやて。でもまぁ、これに便乗して、ワイに惚れてくれてもえぇんやで?」


「いや……それはない」


 驚くサナエの隙をついて、ハンスはふざけた事を言うも、バッサリと切り捨てられた。

 

「いや、でもサナエが驚くのもわかるよ……。さすがにこれは意味がわからない……」


「あぁ……。てか、こんな方法があんなら俺にスキルを使えとか言うんじゃねぇーよ……!」


「だって今思いついてんからしゃあないやん!」


 突然の階段の出現に俺とサナエは唖然とし、グレンはハンスに悪態をつく。そして当の本人であるハンスは何故か頬を膨らませむくれていた。


 そして俺達はその階段を使い、空まで上がる。その次は俺のスキルで空を噛み砕き、瓦礫をグレンが操作しゆっくりと下へ送った。その間、サナエは真剣な表情をしているだけで特に何もしていなかった。


 こうして俺達は、遂にサンドレアの上の階層へ辿り着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る