第88話 別れ



「じゃあよ、新しい国王を決めりゃあいいんじゃねーか?」


 グレンの一言で場の空気は凍りついた。

 恐らくグレンはヨスガの里での一件の様に考えているのだろうが、今回はあの時とは違う。

 なぜなら――――


「なら、やっぱり新しい国王様はグレン様よね」


 群衆の中の一人がボソッと呟くように声を上げた。

 

「当たり前だ! なんたって第一王子だからな!」

「そうだぜ! 新しい国王様はグレン様に決まりだ! 異論は認めねぇ!!」


 凍りついていた場の空気が一人の声によって活気づく。


「やっぱりこうなると思った……。グレン、自分がこの国の王子だっていう自覚なさすぎだろ……」


「主の言う通りだな。国王亡き今、新たな国王としてその息子であるグレンを推すのは当然の流れだろうな」


 俺とサナエがそんな事を言っていると、群衆の活気は更に勢いづき、場はグレンの名を呼ぶもので一杯になっていた。


「あちゃー。これはもう決まりかもわからんなぁー。ここでワイらが下手な事言うたら、こっちが攻撃されそうや」


 ハンスは現状を見た上で冷静にそう分析した。

 そして俺とサナエもそれと同意見だった。


「ちょっと待て、テメェら! 俺は国王になんかなんねーぞ!?」


 その場の空気にさすがのグレンも慌てて声を上げた。

 すると群衆の声はピタリと止み、その後少しだけざわつきを見せる。


「俺が国王なんてガラかよ? 自分で言うのもなんだが、俺はガサツだし難しい事は嫌いだ。そんな奴に国王はつとまらねぇ!」


「え、でも、それじゃあ一体誰が……」


「他にいねーのかよ? 頭が良くて、人をまとめられる様な奴がよ?」


 グレンの言葉を受け、群衆は再度口を閉ざした。

 グレン以外に適任はいない。

 皆がそう思っているからだろうか。


 そんな時、ルドルフがゆっくりと口を開いた。


「じゃあ僕がやるよ」


「……は?」


「だから、兄さんがやらないなら僕が国王になるって言ったんだよ」


「何言ってんだよ……? テメェは俺達と一緒に地上へ行くんじゃなかったのかよ?」


 ルドルフの突然の言葉にグレンは戸惑いを隠せない。

 複雑な表情でルドルフに問い掛けた。

 しかしルドルフは首を横に振り話を続けた。


「僕はここに残るよ」


「はぁ!? 何でだよ!?」


「確かにリオンさんの故郷をあんなにした人達は許せない……。でも僕は、この国の人達を放っては行けない。僕には父さんの記憶も王子だったっていう記憶もないけれど、父さんが死んだ今、この国の人達を導いて行くのが息子である僕らの役目なんじゃないかな」


 ルドルフは真剣な表情でグレンにそう語る。


「本気かよ?」


 グレンはルドルフの目を見て問い掛けた。


「勿論。兄さんがやらないなら僕がやる。それに僕は戦闘よりこっちの方が向いてるしね」


 ルドルフはそう言うと少しだけ笑みを見せた。


「へっ。違ぇねーな……! じゃあルドルフ、この国の事、ここの奴らの事。頼んだぞ」


「任せてよ……!」


 グレンはルドルフの胸を拳で軽く叩いた。

 するとルドルフはそれに返すように歯を見せて笑った。


「つーわけだ! テメェら! ルドルフが新しい国王になっても文句ねーか!? あんなら俺が聞いてやるから言って来い!」


「ルドルフ様は聡明な方だ。何も文句なんかありゃしませんよ」


 グレンの問い掛けに老婆がすぐさま反応し、それに続いて周りにいた人達も新国王の誕生に喜び、湧いた。

 こうしてサンドレア公国の新国王がルドルフに決まり、俺達は次の階層へ向けての話し合いを始めた。



「ひとまずさ、ルドルフがここに残る事になったし一旦整理したいんだけど、俺の目的は地上にいる奴らに故郷を潰された復讐を果たす事。だから何としてでも上を目指す。他のみんなはどうなんだ? 別に無理についてこなくたっていいんだぞ?」


「馬鹿言ってんじゃねーよ。この国を救ってくれたし。おまけにシルキーまで生き返らせてくれたんだ。この恩は俺の一生をかけて返すぜ。さっきは情けねえ姿を見せちまったが、もう大丈夫だ。力になるぜ、相棒!」


「グレン……ありがとうな」


 グレンはそう言うといつもの優しい笑顔を見せる。

 それに俺もハニカミながら礼を言った。

 

「主が行く所に拙者がついて行かないわけにはいかんだろう。何せ拙者は主の侍だからなっ!!」


「そうだな。サナエもありがとう」


 俺が礼を言うとサナエは胸を張り自慢げに笑った。


「上の階層へ行くんやったらワイもついてくわ。リオンちゃんらとおったらおもろいしな!」


「え、ハンスも来るのか?」


「あかんのかいなー? あぁ、勘違いせんといてな。ワイはリオンちゃんの復讐とかには関与するつもりはないから!」


「あぁ、わかった。でもまぁ人数は多い方が何かと都合がいいし、一緒に行こう。よろしくな、ハンス」


「おう!」


 俺の言葉にハンスは笑顔で返した。


「あとはシルキーだけど――」


「うん……そうだね。私はここに残ろうと思ってる」


「え……?」


 俺がシルキーの方へ目を向けると、彼女は俯きながら残る意志を示した。


「何でだよ、シルキー!?」


「この国の人に沢山迷惑かけちゃったんだよ。私も、お父さんも……。だからね、私もここに残ってルドルフみたいに、みんなの為に何かしたいの。罪滅ぼしってわけでもないんだけどさ……」


 シルキーは照れ笑いを浮かべながら胸の内を明かした。


「そっか……。寂しくなるけど、そういう事なら俺は止めない。頑張れよ、シルキー」


「拙者も主と同意見だ。そんな立派な考えを拙者は否定しない。応援しているぞ、シルキー」


「ありがとう、リオっち、サナエっち……」


 俺とサナエはシルキーの意志を尊重し、彼女の気持ちを応援する事にした。

 するとハンスはニヤニヤと笑いながらグレンに近付き、肘で彼の身体をつつきながら口を開き冷やかし始めた。


「どうするどうするー? シルキーはここに残るって言うてんでー? しかもめっちゃ立派な理由でや。これは男として止められへんわなぁ? グレンちゃんせっかく両思いになれたっちゅうのに寂しいなー?」


「うっせぇよバカ!! 寂しくなんかねーよ!」


 グレンが怒鳴ると、ハンスはクスクスと笑いながら彼から少し距離をとった。

 そしてグレンはシルキーの方へ顔を向け、真剣な表情で話を始めた。


「シルキー、本当は一緒に行きたかったけどよ。そんな理由があんなら俺は止めらんねぇ。まぁ、その……なんだ。ちゃちゃっと上の面倒事を片付けて戻って来るからよ。それまでここで待っててくんねぇか?」


 グレンは頭をかきながら照れくさそうにそう話した。

 するとシルキーは嬉しそうな表情を浮かべグレンに抱きついた。


「うん! 待ってる! ずっと待ってるから! 私、頑張るね……。この国を。きっと前よりいい国にしてみせるから……!」


「あぁ。期待してるぜ。頑張れ……!」


 シルキーの言葉にグレンはそう返し、彼女の頭を優しく撫でた。

 勿論その間、ハンスが二人を冷やかしていたのは言うまでもない。


 ◇

 


 そして翌日。

 俺とグレンとサナエ、そしてハンスを加えた四人で、ここより更に上の階層へと向かうのだった。



 第三章 サンドレア編 〜完〜



 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 ここまでお読み下さりありがとうございます!


 今回で第三章は終了となります。

 如何だったでしょうか?


 一応作者としてはシリアスな展開を含め、キャラクターの心情や葛藤を上手く書けたのではないかなと感じています。


 あと因みになんですが、ここへ至るまでの間にこの第三章へ繋がる伏線をいくつか張っていたのは気付きましたか?


 例えば、ヨスガの里にいる人達は全員"和名"なのに対し、サンドレア出身のグレン、ルドルフ、シルキーの三人のみ"洋名"だったり、

 この三人だけスキルレベルが2だったり……。


 そしてこの第三章にもこの先の展開に繋がる伏線をいくつか張っています。

 その辺りも考察しながらこの先を読んで頂けると、より一層この作品を楽しんで頂けるのではないかと思っています。



 最後になりますが、いつも拙作を読んでくださりありがとうございます。

 ここまで毎日投稿を続けてこられたのは、応援して下さる皆様のお陰です。


 また、皆様から頂いたコメントや★評価は私のモチベーションアップに繋がっています。

 本当にありがとうございます。

 まだ評価していないという方は是非ページ下部よりポチッとして頂けると嬉しいです!


 そして以前、近況ノートでもお伝えした通り、この作品は少しの間休載し、再開後は週三回(月水金)の投稿ペースに変更します。

 ご理解頂けると幸いです。



 青王(あおきんぐ)


 

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