第9話 対策
人斬りとの戦闘に敗れ、俺はグレンに運ばれオアシスへと戻っていた。
俺が人斬りにつけられた傷はかなり深く、一刻を争う状態だった。
そんな俺の周りには知らない大人が沢山集まり、何かをしているようだった。
そしてシルキーはというと目立った外傷こそないが、吹っ飛ばされた時に当たりどころが悪かったのか、未だ気絶していて俺の横に寝かされていた。
「ったく……シルキー、テメェ。リオンがこんな目に遭ってんのに呑気な顔して寝やがって……」
そう言うとグレンはシルキーの頭を優しく撫でた。
「ったく……どうせまたドジしたんだろ。でもまぁテメェは無事でよかったよ」
俺は意識が朦朧としている中、優しく、どこか悔しそうな表情を浮かべるグレンを眺めていた。
――いつもシルキーに対して悪態をついているのに、こういう時は優しいんだな。
へへ……後でからかってやろう。
そんな事を考えながら俺は眠りについた。
◇
数日後、俺は目が覚めると自分の体に触れて驚愕した。
「え、傷が…ない……?」
傷があるはずの場所に触れても、全く違和感がないほどに俺の体は綺麗になっていた。
「リオっち……? リオっちぃぃ……!」
するとそこへ俺の名を大声で叫ぶシルキーが、持っていたグラスと水の入った桶と体を拭く為の布を床に落とし、俺に飛びついてきた。
「いたっ……!!」
「うぇーーーん……! ごめんね、リオっちぃ……! 私のせいで……。ぐすん……でも無事でよかったよーー……! うぅ……」
泣きじゃくるシルキーに揉みくちゃにされていると、再度部屋の扉が開き、次はグレンとルドルフが入ってきた。
「おー、目ぇ覚めたか。傷は治ってんのに中々起きねぇから心配したじゃねぇか。つかシルキー! テメェ病み上がりのリオンにいきなり飛び付いてんじゃねぇ! あと、割ったグラスもちゃんと片しとけよ!?」
「ふぇーーん。だってぇーー!」
「まぁまぁ兄さん。今日くらいいいじゃない。リオンさんが眠ってた間、ずっとシルキーが看病してたんだからさ?」
そう言うと二人は俺が寝ている傍に腰掛けた。
「そうなのか?」
俺がそう聞くとシルキーは泣きながら黙って頷いた。
「ありがとう、シルキー。俺はもう大丈夫だ」
「うぅ……よかったねぇ……リオっちぃぃ……!」
俺の言葉を聞き、シルキーはまた大泣きを始めた。
そして俺の傷についてグレンに尋ねると、どうやらオアシスの部下の人達が治癒スキルを使い治してくれたらしい。
本当にここの人達には世話になってばかりで頭が上がらない。
「リオン、起きたてのとこ悪いんだが――――」
俺の想いを他所に、グレンは真面目な表情で口を開いた。
「人斬りと戦ってみてどうだった? 俺とルドルフは一瞬しか戦えてねぇから少しでも情報が欲しい。シルキーもすぐ気絶しちまったみたいだから刀を持ってて、鬼の面を着けた男って事くれぇしかわからねーんだ」
「わかった。俺がアイツと戦って感じた事、全部話すよ」
そして俺は人斬りとの戦闘の詳細を二人に話した。
中でも、最初はシルキーの素早い動きに対応出来ていなかったが、一瞬の隙をついてそれに対応した事。
俺の咄嗟の策に斬り掛かる前から気付き、刀を持ち替え対応した事。
この二つを踏まえて考えると、人斬りは戦闘経験が豊富で対応速度が早いという事がわかる。
「そうか。こっちの攻撃に反応して対応するのが異常に早ぇっつー事以外は特に追加情報も無しか……。話を聞く限り、何か特別なスキルを使った様子もないしな」
「いや、待って兄さん。一見、スキルを使ったように見えないだけで、その対応力が人斬りのスキルによるものだという可能性はないかな? 例えば数秒先の未来を見ることが出来る"目"……とか」
「…………! 確かにそれならシルキーの素早い動きには最初対応できなかったが、一瞬の隙で対応してきたことも、リオンの咄嗟の策にいち早く気付き、速攻で対応してきたのにも合点がいく……! なら鬼の面は正体を隠す他に、特徴的な目を隠す為の物でもあるってことか!」
「まだわからないけどね。でもその可能性はあると思う」
「私もリオンに声を掛けられて隙を作っちゃったけど、あれに反応されたのは初めてだったんだよー!」
――そうか、あの反応速度は特殊な目のスキルによるものだったのか。
そんなスキルもあるんだな……。
次に戦う時は相手の動きをよく観察してどんなスキルかを確かめてから策を練らないとダメだな。
そう思案していると、ルドルフがこれから俺がするべき事を提示し始めた。
「次こそ人斬りを確実に捕縛する為にも、リオンさんにやって欲しい事が二つあります」
「俺は何でもするぜ。もうこれ以上みんなに迷惑はかけられないからな」
「そう言って貰えると助かります。――――まず一つ目は、僕ら三人とリオンさん自身を含めた全員のスキルの把握とすり合わせです。お互いのスキルを把握し合うことで戦略を立てやすくなりますので」
「なるほど……。確かにそれは大事かもしれないな。それじゃあもう一つは?」
「二つ目はスキルを使った戦い方を身につけることです。特にこちらの方が重要です。自分の身を守る為にも必ず身につけてください」
「そうだな。俺はスキルについて知らな過ぎた。だから負けた……。よし、わかった! 俺、どっちもちゃんとやるよ!」
俺がルドルフの話を聞き頷くと、早速グレンが口を開く。
「じゃあまずはお互いのスキルの把握からだな! 俺のスキルは【グラビティ】。出来る事は『自分の重力を変える』と『触れた人や物の重力を変える』の二つだ!」
――重力を変える……。これはかなり強力なスキルだな。
「僕のスキルは【スナイプ】。銃弾に能力を込める事が出来ます。能力は『直線軌道で狙った場所に確実に命中させる事ができる必中弾』と『逃げても自分が見える範囲なら標的を追いかける追尾弾』の二つです」
――ルドルフのスキルも中々に強力だな。
まず敵に近付かなくても攻撃が出来るのが良いな。
「そして制限ですが、能力の二重掛けができない事と、一度弾に能力を込めるとその弾の能力を変えることはできない事、加えてどちらの弾も途中で衝撃を与えられると効果がなくなる事です」
――なるほど。
スキルには"制限"なんて物があるのか。
もしかして俺のスキルにも制限があるのか?
「私のスキルはねー【ポイズン】っていって、能力は『武器に毒を付与できる』と『様々な種類の毒を生成する』この二つだよー! ちょっとこわこわーな感じだけど気にしないでー! ちなみに制限は毒の効果の二重掛けが出来ないことだよー!」
――確かに少し恐ろしい能力だが、仲間としてならとても頼もしいスキルだ。
そして俺は三人のスキルを聞いて、一つ気付いた事があった。
それは俺が【悪食】で使える能力が『何でも捕食する』の一つなのに対し、三人とも使える能力が二つある事。
この三人の能力が二つある事には何か特別な理由があるのだろうが、この時の俺は知る由もなかった。
◇
「よし、全員のスキルの把握は済んだな! じゃあリオン、テメェは俺と特訓だ! シルキーとルドルフは役人より上の武士で目に特徴がある奴を片っ端から探し出せ!」
全員のスキルについてすり合わせが終わると、グレンは俺に特訓を、シルキーとルドルフには人斬りの捜索を指示した。
その後二人は威勢よく返事をし、部屋を出ていき、部屋には俺とグレンの二人が残った。
そしてこれからグレンとの厳しい特訓が始まる。
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