第9話 対策
人斬りとの戦闘に敗れ、俺はグレンに運ばれオアシスへと戻っていた
人斬りにつけられた傷は深く一刻を争う状態だった
「ルドルフ!うちのもんの中で治癒能力のスキル持ってる奴らを急いで叩き起してこい!」
「わ、わかった!」
そう言いルドルフは走って部屋を後にした
ものの一分や二分程でルドルフは治癒能力のスキル持ち数人を連れ部屋に戻ってきた
「兄さん連れてきたよ!君達、夜遅くに悪いんだけどこの人の傷を治癒してくれないかな?」
「「「承知しました!ルドルフさん!」」」
そう言うと男達は俺の傷口を瞬く間に塞ぎ、傷跡すら残さず治癒していった
「ふぅ。これでとりあえず一安心だな。ったく心配かけやがって」
「君達、ありがとう!助かった。もう戻っていいよ」
そう言うと男達は返事をし、静かに部屋を出ていった
そしてグレンとルドルフは安堵の表情を浮かべた
シルキーはというと目立った外傷はないが、吹っ飛ばされた時、当たりどころが悪かったのか未だ気絶していて、俺の横に寝かされていた
「ったく。シルキーてめぇ、リオンがこんな目にあってんのにスヤスヤ眠りやがって」
そう言うとグレンはシルキーの頭を優しく撫でた
「どうせまたドジしてたんだろ。ったくよ。でもまぁお前は無事でよかった」
俺は意識が朦朧としている中、優しく、どこか悔しそうな表情を浮かべるグレンを見ていた
いつも悪態をついているのにこういう時はやっぱりシルキーには優しいんだな
後でからかってやろう
そんな事を考えながら俺は眠りについた
数日後、俺は目が覚めると自分の体に手を当て驚く
「傷が…ない……?」
傷口があるはずの所を触っても全く違和感がないほど俺の体は綺麗になっていた
そうか、オアシスの治癒能力がある人が治してくれたんだったな
「リオっち……?リオっちーーー!!!」
パリンッ
何かが割れる音がしたので振り向くと、シルキーは持っていたグラスと水の入った桶と体を拭く為の布を床に落とし、俺に飛びついてきた
「いたっ!!」
「うぇーーーん!ごめんね、リオっちー!私のせいで……。ぐすん、無事でよかったよーー。うぇーーーん!」
すると部屋の扉が開き、グレンとルドルフが入ってきた
「おー目ぇ覚めたか。傷は治ってんのに中々起きねぇから心配したじゃねぇか。つかシルキー!てめぇ病み上がりのリオンにいきなり飛び付いてんじゃねぇ!あと、割ったグラスもちゃんと片しとけよ!」
「ふぇーーん。だってぇーー!」
「まぁまぁ兄さん。今日くらいいいじゃない。リオンさんが眠ってた間、ずっとシルキーが看病してたんだから」
そう言うと二人は俺が寝ている傍に腰掛けた
「そうなのか?」
俺がそう聞くとシルキーは泣きながら黙って頷いた
「ありがとう、シルキー。もう大丈夫だ」
「よかったねぇーー!リオっちーーー」
と、またシルキーは大泣きし始めた
「リオン、起きたてのとこわりぃんだが」
そしてそれを遮るようにグレンは真面目な顔をして話し始めた
「人斬りと戦ってみてどうだった?俺とルドルフは一瞬しか戦えてねぇから少しでも情報が欲しい。シルキーもすぐ気絶しちまったみたいだから刀を持ってて、鬼の面を着けた男くれぇしかわからねんだ」
「わかった。俺がアイツと戦って感じた事、全部話すよ」
こうして人斬り対策会議が始まった
そして俺は人斬りとの戦闘の詳細を二人に話した
中でも、シルキーの素早い動きには対応出来ていなかったが、一瞬の隙があったとはいえ、それに対応したこと
俺の咄嗟の策に斬り掛かる前から気付き、刀を持ち替え対応したこと
この二つを踏まえて考えると人斬りは戦闘経験が豊富で対応速度が早いということがわかる
「そうか。こっちの攻撃に反応して対応するのが異常に早ぇっつーこと以外は特に追加情報もなしか。話を聞く限り何か特別なスキルを使った様子もないしな」
「いや、待って兄さん。一見スキルを使ったように見えないだけで、その対応力が人斬りのスキルによるものだという可能性はないかな?例えば数秒先の未来を見ることが出来る目…とか」
「……!確かにそれならシルキーの素早い動きには最初対応できなかったが、一瞬の隙で対応してきたことも、リオンの咄嗟の策にいち早く気付き、速攻で対応してきたのにも合点がいく。なら鬼の面は正体を隠す他に特徴的な目を隠す為の物でもあるってことか!」
「まだわからないけどね。でもその可能性はあると思う」
「私もリオンに声掛けられて隙を作っちゃったけど、あれに反応されたのは初めてだったんだよー!」
そうか、あの反応速度は特殊な目のスキルによるものだったのか
そんなスキルもあるんだな
次に戦う時は相手の動きをよく観察してどんなスキルかを確かめてから策を練らないとダメだな
そう考えているとルドルフがこれから俺がするべき事を話してくれた
「次こそ人斬りを確実に捕縛する為にもリオンさんにやってほしい事が二つあります。一つ目は僕ら三人とリオンさん自身を含めた全員のスキルの把握とすり合わせです。お互いのスキルを把握し合うことで戦略を立てやすくなりますので。そして二つ目はスキルを使った戦い方を身につけることです。特にこちらの方が重要です。自分の身を守る為にも必ず身につけてください」
俺はルドルフの話を聞き頷くと、グレンが話し始める
「よぉし!じゃあまずお互いのスキルの把握からだな!俺のスキルは【グラビティ】。出来る事は『自分の重力を変える』と『触れた人や物の重力を変える』の二つだ!制限は特にねぇ。あとはシルキーとルドルフだな」
グレンがそう言うとルドルフは腰から銃を抜き説明を始めた
………………ルドルフの説明があまりに長かったので要約すると――
スキル名【スナイプ】
片手銃を使い銃弾に能力を込める事で発動する
能力
『直線軌道で狙った場所に確実に命中させる事ができる必中弾』
『逃げても自分が見える範囲なら標的を追いかける追尾弾』
制限
能力の二重掛けができない
一度弾に能力を込めるとその弾の能力を変えることはできない
どちらの弾も途中で衝撃を与えられると効果がなくなる
――――というものだった
制限があるにしてもかなり強力なスキルだ
俺が『何でも捕食する』だけなのに対してルドルフもグレンは二つの能力があるようだった
そしてルドルフに続きシルキーがスキルの説明を始めた
「私のスキルはねー!【ポイズン】っていって『武器に毒を付与できる』と『様々な種類の毒を生成する』この二つだよー!ちょっとこわこわーな感じだけど気にしないでー。ちなみに制限は毒の効果の二重掛けは出来ないことだよー!」
確かに少しこわい能力だが、仲間としてならとても頼もしいスキルだ
そしてシルキーもまた二人と同じく二つの能力があった
この三人の能力が二つなのには何か特別な理由があるのだろうがこの時の俺は知る由もなかった
「よし!全員のスキルの把握は済んだな!じゃあリオン!お前は俺と特訓だ。シルキーとルドルフは役人以上の侍で目に特徴があって、脚に怪我をしてる奴を片っ端から探し出せ!」
「脚に怪我?」
「あぁ、前にルドルフの銃で打たれてっからな」
「なるほど!」
俺が納得している間に、二人は景気のいい返事をし部屋を出ていった
俺とグレンは二人、部屋に残った
そしてこれからグレンとの特訓が始まる――
☆☆☆☆☆★★★★★
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青 王(あおきんぐ)
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