第8話 初戦闘


 いよいよ、人斬りが俺に向かって突貫を開始。目にも止まらぬ速さで俺に刃を振りかざす。

 


「うぉっ!! あっぶねーな……! 今考えてるんだからちょっと待って!!」

 

 俺は何とかそれを躱し、シルキーの元へと駆け寄った。


 

「なぁ、シルキー! スキルってどうやって使うんだ!?」

 

 そう聞くとあんなにいつも明るいシルキーの顔が見たこともない様な呆れ返った顔に変わった。

 

「はぁ……リオっち……。しょうがないなぁ……。あのね、スキルは身体の中にある物だからその能力を使うイメージをすれば身体が反応して使えるはずだよ」

 

「あ、ありがとう、シルキー」


 ため息混じりに教えてくれたシルキーに礼を言い俺はスキルについて考える。

 

 ――能力をイメージする……か。

 俺のスキルは【悪食】で使える能力は……左手の口で何でも捕食するだったか?


 俺の左手が獣のような口になるイメージ…。

 イメージ……イメージ……。


 

 俺は目を瞑りひたすらにイメージをふくらませていった。

 すると左手が段々と熱くなっていくのを感じ、俺はゆっくりと目を開けた。


「……よし! イメージ通りあの時と同じ様に左手が化け物の口に変わってる! これで俺も戦える!」


 自分の左手を見てそう確信した俺は、意気揚々とシルキーの元を離れ人斬りに向かって走り出した。

 そして俺はそのままの勢いで口に変えた左手を突き出しながら人斬りに飛びかかった。


 すると人斬りは刀を構え、飛びかかっている俺に刀を突き出してきた。


 ガキンッ…………!!


「へへっ。俺の『コレ』、刀も噛み砕けるんだわ」

 

「……………………っ!?」


 俺はニヤリと笑いながらそう言い、人斬りの刀の半分を噛み砕いた。

 そして怯んでいた人斬りをそのまま蹴飛ばそうと俺は足を蹴り上げた。

 すると人斬りは後ろへ跳びそれを躱した。


「ね、ねぇ! リオっち! 今の何!? 左手が口みたいになって刀を食べちゃったけど!? それがリオっちのスキルなわけ!?」

 

「あぁ、そうだ! やれる事は食う事だけだけど、これなら俺も少しは戦えるだろ?」

 

「みたいだね! よーし、そうと決まれば私もやっちゃうよー!」

 

 シルキーは意気揚々と素早い動きで人斬りへ向かっていく。

 走りながら太腿に隠していた両手ナイフを抜き、人斬りの背後へと回り込む。

 

「よし! いいぞシルキー!」

 

 俺がそう声をかけると、人斬りの背後から飛び上がり今にも首に斬りかかりそうになっていたシルキーの動きが止まる。

 そして彼女の顔は真剣なものから、いつもの間の抜けた表情へと戻った。

 

「へ? なんか言ったー?」

 

「は……?」


 あろう事か、シルキーは戦闘中にも関わらず、声を掛けた俺の方を向き返事をした。

 俺はシルキーが何故こちらを見たのか全く理解出来なかった。

 そしてその一瞬で人斬りは背後のシルキーへと反応し、刀の柄の部分でシルキーの腹を殴り、民家の外壁へと吹っ飛ばした。

 シルキーはぐったりとしてしまい、すぐには動けない様子だった。


 ――シルキーがやられた……。

 もうこうなったら俺がやるしかない……!

 この左手の口でどこまでやれるか……。

 食う事しかできないけど、さっきと同じように刀の残ってる部分を全部食えれば、人斬りは刀を失い無力化できるはず。

 俺がアイツに勝つにはそれしかない。

 

 そう心に決め俺は人斬りへと向かって行った。


 

「うぉおおおお!!!」


 俺は人斬りが刀を振り下ろすようにあえて無防備に真っ直ぐ突っ込んだ。

 

 しかし、人斬りは俺の策に気付いたのか刀を左手に持ち替え、右腕を俺の左手の口にわざと噛ませ、左手でその短くなった刀を振り下ろし、俺の体を斬りつけた。


「ぐあああああ!!!!」

 

 俺は左手の口で人斬りの腕に噛み付いていたせいで上手く身体を動かす事が出来ず、右肩から腹にかけての大部分を斬られてしまった。

 あまりの激痛に俺はその場で声を上げ、前に倒れ込んだ。

 

 ――痛い、痛い痛い……痛い……!

 何だこれ……本当に斬られるとこんなに痛いのか?

 やばい、これ死ぬやつだ……。

 スキルを手に入れて調子に乗った。

 戦い方もろくに知らないくせに、人斬りに勝てるなんて自惚れていた……。

 

「はは……。かっこ悪……」


 俺は無様にも、そんな事を呟いた。

 しかし人斬りは止まらない。倒れ込んだ俺の頭目掛けて刀を振り下ろした。


 刹那――――


「勝手に死んでんじゃねぇよ!! 馬鹿野郎が!!」

 

 グレンが叫び声を上げながら、人斬りの顔面に殴り掛かった。

 しかし人斬りもそれに上手く対応し、後ろへ宙返りする形で躱した。

 

 すると、人斬りが着地するのと同時にバンッ――――という銃声が鳴り響いた。その音の主はルドルフだった。

 ルドルフは人斬りがグレンの攻撃を躱し、無防備になった瞬間を狙っていた。

 そしてルドルフが放った銃弾は人斬りの右脚に見事命中した。

 人斬りは右脚を引き摺りながら後退していく。

 その隙に二人は俺の元へと駆け寄り、グレンは俺を抱きかかえた。

 

「おい! リオン! 死ぬんじゃねぇぞ!? しっかりしろ!」

 

「グ……レン。そんな事より……はや……く、人斬りを……捕縛し……ないと」


 俺は斬られた箇所の激痛と出血により、意識を朦朧とさせながらも、グレンに人斬りを捕縛するよう訴えた。

 

「んなもん後でいい! お前の手当が先だろうが!」

 

「は……やく、逃げちゃ……うぞ……?」

 

 そう俺が呟くとグレンは人斬りを睨み付け叫ぶ――――

 

「おい人斬りテメェ……!! よくも俺の仲間をいたぶってくれたな!? 次会った時がお前の最後だ! 覚えてやがれ、このクソ外道が……!!」


 しかし人斬りは、その声に何の反応も見せないまま闇夜の中へと消えていった。

 そしてグレンは俺を抱え、ルドルフはシルキーをおぶりオアシスへと戻った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る