第71話 全員が助かる未来


 夢の中でのシェルミとの会話を終え、現実の世界で目を覚ました俺は隣で眠っていたサナエを起こした。



「サナエ、起きろ。サナエ……!」


「む……。主……おはよう」


 目を覚ましたサナエは目を擦り、片目で俺をじっと見つめた。

 その姿はとても愛らしく、黙っていれば本当に可愛いなと、俺は改めて思った。


「おはよう、サナエ。俺達はどうやら気絶していたみたいだ」


「……本当だな。グレンもハンスもいない。拙者達はどれくらい眠っていたのだろうか」


 そしてサナエの侍言葉に俺は我に返り、彼女の質問の返答について考えた。


 シェルミの話から察するに、恐らくそこまで時間は経っていないのだろう。

 凡そ一時間くらいってところか。


「多分一時間も経ってはいないと思う。それよりサナエ、眠っている間に何か夢を見なかった?」


「夢? 夢は特に見ていないが、神の声なら聞いたぞ?」


 俺の質問にサナエは首を傾げながら答えた。

 やはりシェルミと夢の中で話せるのはどうやら俺だけのようだ。


「そうか。それで、その結果はどうだったんだ?」


「ふふん。聞いて驚くなよ、主。なんと拙者、この度スキルレベルが2に上がり、【つるぎまい】という能力が使えるようになったのだ!」


 サナエはそう言うと、とても嬉しそうに自慢した。


「そうなのか。やっぱりサナエもレベルが上がったんだな。それでその能力は一体どんな効果があるんだ?」


「神の声によると、どうやら身体強化の効果があるらしい。もしかしたら今まで叶わなかった【閃光】の連撃が可能になるかもしれないな」


 サナエはそう言うと試してもいない能力の効果を想像し、にやけ始めた。


「試してもいないのに気が早いな。でも確かにそれが本当に可能なら、サナエ自身がかなり強くなれるな」


「ふふ。そうだな。ところで主はどんな能力が目覚めたんだ?」


 俺の言葉にサナエは嬉しそうに笑うと、俺の新たな能力について聞いて来た。

 そしてそれは俺自身、気になっていたところだった。

 シェルミとは他の話に夢中で聞きそびれてしまったからな。

 確か一度与えられたスキルは頭に刻まれるんだっけ。


 俺は頭の中でスキルについて考え始めた。

 すると頭の中の深い所に何か文字が浮かび上がって来た。


 スキル名 【悪食】 レベル2

 能力① 身体中に口を発現させ、それらで何でも捕食する事が出来る

 能力② 捕食した物の属性を体内に溜め込み、放出する事が出来る



「捕食した物の属性を溜め込み、放出……」


 俺は頭の中に浮かんだ自らのスキルの能力を呟くように、口に出して読み上げた。


「それが主の新しい能力か……? 属性とは一体?」


 サナエは俺の能力について疑問を抱き、そう質問して来た。

 正直俺もいまいちよく理解出来ず、こんな事ならしっかりとシェルミに聞いておくんだったと深く後悔した。


「んー、何なんだろうな……? 俺も新しい能力に驚いているというか、拍子抜けというか。正直どう反応すればいいのかわからない。ごめんな」


「いや、全然問題ないぞ。寧ろ主が謝る必要なんてない」


「そう言ってくれると助かるよ。それより俺、眠っている間にとある夢を見たんだ」


「夢……?」


「あぁ。少し長くなりそうだから、グレン達の後を追いながら話すよ」


 そう言うと俺はグレンとハンスが向かったであろう貴族街へと向かいながら、夢の中でシェルミと話した内容を余すこと無くサナエに伝えた。



 ◇



「それはつまり……フィフシスと同じ様に、ヨスガの里も潰されるかもしれないという事か……?」


 サナエは俺の話を全て聞き終えると怒りか恐怖か、どちらも含んだ様な表情で、そう口にした。


「うん……。フィフシスを潰された理由が献上品を納められなかった事にあるなら、ヨスガの里も危うくなってくる。勿論、俺達が将軍を倒したからというのも否めないけど……」


「そんな……!? では拙者達がした事は間違いだったという事か!?」


「いや、そうではない……と思う、ていうか思いたい……。だからこそ、何としてでも俺はジルベスターの悪意を止めなければいけないと思ってる。俺には奴に復讐したいって気持ちが既にあるけど、そんな気持ちをサナエや他の人達には背負って欲しくないんだ」


 俺は強い意志を持ってサナエに心の内をさらけ出した。

 するとサナエはおもむろに足を止め俺の顔をじっと見つめた。


「確かに拙者は主ほど、ジルベスターに対して憎しみを抱いてはいない。だがヨスガの里をも危険に晒す様なら拙者、黙ってはいられない……!」


「サナエ……」


 サナエは語気を強くしてそう話した。

 そして俺はそんな彼女を見て頼もしいと思うと同時に少しの危うさを感じた。


「それに、拙者は主の侍になったのだから、主に何と言われようと最後までついていくに決まっているだろう?」


 サナエはさも当然かのように俺に侍の生き方を説いた。


「そうか……そうだったな。ありがとうサナエ……。さすがは俺の侍だな」


「当然だっ! 主の為に働かずして何が侍か! 拙者は主の為にこの身を捧げるつもりだ!」


 俺が礼を言うとサナエは胸を張り、俺の為なら自らの命を差し出す覚悟があると示した。


「いや、そこまではしなくていいよ。サナエには生きていて欲しい。俺より先に死ぬなんて許さないからな」


「わかっているさ、主! だが、主が死ぬなら拙者も共にだからな!?」


 俺はサナエにそう話すと、前を向いて歩き始めた。

 するとサナエは走って俺に追い付き、顔を覗き込ませてそんなことを言った。

 その表情からは冗談や嘘を言っているようには見えなかった。


「……わかったよ。とりあえず今はシルキーを助け出す事に専念しよう。そして皆でこの後の事について話し合おう」


「そうだな。シルキー、無事だと良いのだが……」


 そして俺達はシルキーの元へと急ぐ。

 グレンとハンスは恐らく既に屋敷へと到着している頃だろう。

 そしてそこでグレンは何を見て、何を知り、どう思うのだろうか。


 俺はその時のグレンの感情を想像し、気を抜けば泣いてしまいそうになる程、いたたまれなくなった。

 

 グレンもシルキーも、そしてひいてはこの国の人達全員が救われる事を祈って、俺は走った。


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