第72話 ハンスの実力


 リオン達よりも先に貴族街へと到着したグレンとハンスはヴァイツェンの屋敷に忍び込む算段を立てていた。


 

「グレンちゃーん。どうやって中に入ろか?」


「ンだよ、その気色悪ぃ呼び方は?」


「そんな細かい事は気にせんのが一番やでー。ほんで? どうすんのさ?」


 妙な呼び方でヘラヘラと笑うハンスにグレンは冷たい視線を送った。

 が、ハンスは一切動じずに再度同じ事を聞いた。


「どうせ戦闘になれば嫌でもバレんだからよ。正面から入るしかねーだろ」


「正面からってあんた……。もうちょい計画とかないんかいな?」


「あったらこんな事にはなってねーよ! ……でももし石化したのがルドルフじゃなく、俺だったらもう少しマシだったかもしんねーな」


 グレンはそう言うと遠くを見つめ、頭のいいルドルフに思いを馳せた。


「弟くん、そんなに頭良かったんかいなー? ほんなら逆やった方がよかったかもな! あはは!」


「あん? テメェ喧嘩売ってんのか?」


「ちょ、マジ怒りは勘弁やわー! ていうかグレンちゃんが先に言い出した事やんか?」


 ハンスはそう言いながら両手を上げ揉めたくないという意志を示した。


「チッ……。ったく口が減らねー野郎だな。……んじゃまぁ! そろそろ行くか!」


「えー……。もうわかったわー。了解、ワイはグレンちゃんに従いますー」


 グレンはそう言うと屋敷の門を勢い良く開いた。

 ハンスはそんなグレンに呆れつつも、大人しく後をついて行った。



 ◇


 二人が屋敷の敷地内へ入ると、駆け付けた数名の騎士達に早速取り囲まれた。



「侵入者だ!!」

「今すぐ捕らえよ!!」


「ほーら、言わんこっちゃない! グレンちゃんの考え無しな行動のせいで速攻で見つかってしもたやん!」


「うっせーよ! どうせやり合う事になんだったら同じだろうが!」


「はぁ……。そういうとこやで、グレンちゃん」


 小言を聞いたせいでイラついたのか、グレンは声を荒らげたが、対してハンスはため息をつき下を向いて首を振った。


「シルキーのとこに辿り着くまでに俺の前に立ち塞がる奴は全員ぶっ飛ばす。それでいいだろ?」


「はいはい、わかったよ。それでえぇで」


「それよりハンス、お前戦えんだろうな?」


「カッチーン。今何言うた? 戦えんのかって? なめたらあかんで。言っとくけどワイ、多分グレンちゃんより強いで?」


 グレンの心配を他所にハンスは彼を挑発する様な言葉を発した。


「あん? テメェが俺より強ぇだと? へっ。まぁいいぜ。じゃあコイツら相手にその力見せてもらおうか!?」


「別にえぇけど、この人ら多分命令されてるだけで悪人ちゃうから殺さんけどかまへん?」


「別にいいぜ。好きにやれよ」


「りょーかいー! ほんならやろかー、騎士さん達?」


 そしてハンスはグレンに騎士達を殺さないと宣言した上で戦闘態勢に入った。

 すると彼は先までの飄々とした態度とはうってかわり、鋭い目付きで騎士達を睨み付けた。


「き、貴様。我々とやる気か?」

「侵入して来たのはそっちだからな! 容赦はせんぞ!?」


「はいはい、御託はえぇからさっさとかかって来ーや?」


「くそが、なめやがって!!」

「突撃だー!!!」


 ハンスはまたしてもヘラヘラとした表情に戻り、騎士達を挑発した。

 すると騎士達はまんまと乗せられハンスに真っ直ぐ突撃した。


「はーい、お疲れちゃーん! そこ、落とし穴あるから気付けて?」


「は……?」

「ぐわっ……!?」


 ハンスがそう言うと、何も無かった地面に突如落とし穴が発現した。

 騎士達はそれを躱す暇もなく、穴の中へと落ちてしまった。


「相手がどんなスキルを持っとるかもわからへんのに、考え無しに突っ込んで来るから、そないな事になるんやで? 油断は禁物や」


「……っ」


 そしてハンスは穴の上から騎士達を見下ろし、まるで先のグレンの行動への当て付けかのような言葉を吐いた。

 それを聞いたグレンは悔しそうな表情を浮かべた後、口を開いた。


「よぉ、ハンス。やるじゃねーか。でもそれで終わりか?」


「はっ。まさか! さっきも言うたやろ? 相手がどんなスキルを持っとるかわからん内は油断したらアカン。この騎士さん達も、もしかしたらスキルを使ってこの穴をよじ登ってくるかもしれへん。そうなったら面倒やろ?」


「ま、まぁそうだな?」


「一応深めに穴は用意したつもりやけど、油断は出来へん。せやから、ワイは騎士さん達が動けへんようにする。こうやって――【電気ショック】」


 そしてハンスが最後まで言葉を言い終わると、騎士達に向かって小さな稲妻が走った。

 すると騎士達はソレを受けガクンとその場に倒れ気を失った。


「し、死んだのか……?」


「殺さへん言うたやんか。気絶しとるだけや。これで少しはワイの事、認めてくれた?」


「あぁ。強ぇことは認める」


「ことは……? 何や含みのある言い方やなぁ?」


「ただ何かわかんねーけど、とにかくハンス。テメェはうぜぇ」


「はぁー!? なんでやねん! ひどいなぁー!」


 グレンはハンスの強さに嫉妬し、そしてその物言いに苛立ったのか心の内を晒した。

 するとハンスはその言葉に驚き、大声で反論した。


「……ったく。テメェがギャーギャー騒ぐからまた騎士達が来ちまったじゃねーか」


「そんなん言われても、ワイが騒ぐ様な事言うたんはグレンちゃんやで?」


「っせーよ! でもこれじゃあキリねーな」


「今更!? せやから計画性をって――」


「あーもう! うっせーよ! わかったよ! ちょっと考えるから待ってろ!」


「うぇ!? 今!?」


 そう言うとグレンは一人、この後について考え始めた。

 しかしその間も騎士達は二人の元へ迫って来ている。



「よし、これでいこう」


「お!? 何か思いついたんか!? ほな、何でもえぇから早うして!」


 そしてグレンは何かを思い付いたかのように顔を上げて、ハンスの肩に手を置いた。

 ハンスは早くその考えを行動に移す様に急かした。


「とりあえず屋敷の屋根に登ろうと思う。上からなら全体がよく見えるし、敵も簡単には登って来れないだろ」


「んーまぁ、その方がシルキーも見付けられるやろうしな?」


 ハンスの言葉にグレンは黙って頷くと、スキルを発動させ屋根の上へと登った。



「はぁー! ワイ初めて空飛んだけど、こんな感じやねんな!」


「浮いただけだ。別に飛んでるわけじゃねーよ」


 ハンスがグレンの能力に感動していると、グレンは少し嬉しそうに、そしてそれを隠すようにボソッとソレを否定する言葉を吐き捨てた。


 

 その後暫く二人が屋根の上から屋敷の敷地内を見渡していると、一時間程遅れてリオンとサナエが屋敷の前に現れた。



「ありゃりゃ。グレンちゃん、あの二人もう起きてしもたみたいやで?」


「みてーだな。だから言ったろうが、アイツらはそんなヤワじゃねーって」


「グレンちゃん、仲間想いやねー?」


「うっせーバカ! 黙ってろ!」


 グレンはそう言って冷やかすハンスの頭を軽く叩いた。


「にしても、あの二人どうするつもりなんやろね? やっぱり協力した方がえぇんとちゃう?」


「いや、アイツらと俺達じゃ目的が違う。だから一緒には行動出来ねぇ」


「ふーん。頑固やな。まぁえぇわ。んで、これからどうすんの?」


「そうだな。リオン達がシルキーを見付け出したらそこに飛び込むってのはどうだ?」


「げぇ、横取りすんの?」


 グレンのまさかの案にハンスは少しの嫌悪感をみせた。


「ちげーよ! その方が効率がいいって話だ!」


「ふーん。まぁグレンちゃんがそう決めたならそれでえぇよ」



 そしてその後も二人は姿を隠す様に、屋根の上からひっそりとリオン達の動向を観察するのだった。


「あ、でもリオン達が屋敷内に入ってもうたら何も見えへんやん!」


「……うっせーよ! わかってるよ、ンなことは!!」


「いや、絶対気付いてなかったやろ……」


 その後も二人は些細な言い合いをしながら屋根の上に留まっていたのだった――――


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