第54話 分裂
完全に石化してしまったルドルフを抱え、グレンは涙を流しながらシルキーを睨み付けていた。
「くっ……。テメェ、シルキーどういうつもりだ……!? ルドルフも言ってだろうが! 俺達は家族だってよォ……。それが何故……! 何故こんなことが出来んだよ……」
俺はこの時初めてグレンの涙を見た。
マサムネが死んでも、将軍を倒しても、俺の故郷が潰された事を知っても泣かなかったグレンが泣いた。
それだけ彼にとってルドルフは大切な存在だったのだろう。
そしてルドルフを石化させたシルキーの事もまた……。
しかしそんな想いを知ってか否か。
シルキーはグレンに対し、冷たく悲しい言葉を突き付ける。
「そんなの。私があなた達の事なんて何とも思ってないからに決まってるでしょう?」
「くっ……。あぁ、そうかよ……。シルキー。テメェがそんな奴だとは思わなかったぜ。ガッカリだわ……」
グレンはそんなシルキーに対し、目も合わせず消え入りそうな声で涙なからに呟いた。
すると突然、ヴァイツェンはシルキーの頭を叩き罵声を浴びせ始めた。
「シルキー貴様……!! 何故一緒にグレンも始末しなかった!? またつまらない情でも湧いたか!?」
「違います……。ルドルフの方が頭が切れるから先に始末しただけです……お父さん」
シルキーが俯きながらそう話すと、ヴァイツェンはまた彼女の頭を叩いた。
「ワタシに口ごたえするなぁ!! まったく……使えない娘だな。貴様みたいな奴は下で野垂れ死んでいればよかったのだ!!」
「くっ……!! いい加減にしろよ、ヴァイツェンーー!!!!」
「流石に今のは聞き捨てならんな……!」
ヴァイツェンの非情な言葉に俺とサナエも怒りが限界を超えた。
俺は両手を口に変え本気で奴を殺そうと思った。
そしてそれはサナエも同じだったのだろう。
彼女も刀に手を掛け、抜刀の体勢に入っていた。
するとシルキーが再び口を開いた。
「二人とも、お父さんにスキルを使った攻撃はやめた方がいいよ。絶対に敵わないから。……お父さんごめんなさい。今すぐグレンも始末します……」
「ふんっ。もう良い。興が醒めたわ。それにそんな腑抜け一人、捨て置いてもどうせ何も出来まい。勿論、そこの威勢のいいガキ二人もな」
ヴァイツェンはそう吐き捨て不敵な笑みを浮かべて俺達を見た。
そして彼は何も無い所を右手で触れる様に掌を突き出した。
するとそこへワープゲートが出現した。
「え……!? それはグレゴールのスキルのはずじゃ……!?」
俺が驚きそう言うとヴァイツェンは何も言わずシルキーを引き連れその中へと入って行った。
そして去り際にシルキーは振り返りボソッと言葉を発する。
「今すぐグレンを連れてヨスガの里へ帰って。私の事はもう放っておいて……」
そして二人を飲み込んだワープゲートはその場から消え、気が付くとその場に残されたのは俺達だけになっていた。
「荷車の人達もいつの間にか帰って行ってたんだな」
「そうみたいだな主。集落の人々も先程の騒ぎに怯えて家に入ってしまったようだな」
俺とサナエは互いに言葉を交わした後、顔を見合せ「シルキー……」と彼女の名前を呼んだ。
そしてグレンは石化したルドルフを大事そうに抱え俯いていた。
「グレン。これからどうするんだ……? やっぱりシルキーの所へもう一度行って話をしに行くか? 多分何か事情があるんだと思うし……」
俺はそんなグレンに声を掛けた。
シルキーが流した涙の理由や最後の言葉の真意はわからないけど、今まで俺が見てきたシルキーが全て嘘だったとは思えなかった。
しかしグレンはそうではなかった。
「はぁ……? 何で俺がアイツの所に行かなくちゃならねぇんだ? ルドルフを元に戻させるならまだしも、話を聞きに行くだァ? お断りだ。行きたきゃテメェらだけで行けよ」
グレンは突き放すようにそう言った。
「グレン! 主はグレンの事も、ルドルフの事も。それにシルキーの事も心配して言ってくれているのだぞ!? それに対して何だその言い草は!?」
サナエはグレンを怒鳴りつけた。
「あぁ!? テメェに何がわかんだよ!? 家族をいっぺんに二人失ったんだぞ!? ルドルフは石にされちまって、アイツは裏切った……」
「だからシルキーには何か事情が――」
「事情!? どんな事情だよそりゃあ!? 家族を一人石に変えてもいい事情って何だ!? あぁ!? 言ってみろよリオン! テメェも家族を失ったんならわかんだろうが!!」
俺も母さんと父さんを一度に一瞬で奪われた。
そんな誰かの大切な家族を奪っていい事情や理由なんて無い。
そんな事はわかっている。
「でも、それでも! 俺はシルキーを見捨てる事なんて出来ない!」
「あぁそうかよ! だったらテメェら二人で行けよ! 俺ァここに残る。ルドルフを元に戻す方法を突き止める」
俺はそれでもシルキーを見捨てるという選択はできず、グレンにもう一度掛け合った。
しかしグレンは余程シルキーを許せないのかそれに応じてはれなかった。
するとサナエも珍しく声を荒らげグレンに詰め寄った。
「馬鹿な事を言うな! ルドルフを石に変えたのはシルキーだ! シルキーしか元に戻す方法なんて知る訳がないだろう!? 何を意地張っているのだ!?」
「うっせぇよ。行きたきゃ行けばいいってさっきから言ってんだろ。もう俺に構うな。テメェら二人は別に俺の家族じゃ――――」
「――――くっ……!!」
俺達と目も合わせず、腑抜けた声で話しているグレンの頬を俺は力一杯に殴った。
「何しやがんだリオン、テメェ……!!」
「今何言おうとした……!? 確かに俺達はグレンの家族じゃないよ!? でもさ、ここまで一緒に戦ってきた仲間じゃんか……。それをあんな言い方してさ……。今のグレンは子供だよ! ルドルフを石にされて、元に戻す方法を知ってるシルキーの所へ行かなきゃいけないのに、変な意地張って行かないとか言って……!! ルドルフの最後の言葉、聞いてなかったのか……? ルドルフは最後までシルキーも一緒に、皆で家に帰るって言ってたんだぞ……?」
「………………っ」
俺は声を荒らげるグレンに対し俺は思いの丈を全てぶちまけた。
するとグレンは俯き黙り込んでしまった。
「もういいよ……。グレンが行かないなら俺がシルキーの所へ行って話をつけてくる。石になった人を元に戻す方法も一応聞いてみるよ」
「主……。拙者も一緒に行くよ……」
「ありがとう、サナエ……」
俺はそう言い残し、サナエと共にシルキーがいる所を探し、向かった。
「チッ……。うっせぇよバカが……。わかってんだよ、そんな事は……。でも頭ん中で整理がつかねぇんだよ……」
俺達が去った後グレンは一人、石化したルドルフを抱えそう呟いた。
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