第42話 運命の日


 ルドルフが立てた仮説の矛盾点と地震について考え、話し合いを続けていた俺達はいつの間にか疲れて眠ってしまっていた。


 

 そして、里には日が昇り、町にはいつもの活気が溢れ始めていた。

 そんな刹那――――



 グラグラグラグラ……ゴゴゴゴゴ……ドガガガガガーン……!!


 突然、あの時と同じ大きな地震がヨスガの里を襲った。

 俺達は飛び起きるように目を覚ました。


 

「な、何だ!? 地震か!?」

 

「そう……みたいだね……兄さん」

 

「みんな! 無事か!?」

 

「私は無事だ。武士だけに!」

 

「「「………………。」」」


 とりあえずみんな無事のようだ。

 昨日の今日で大きな地震が起きるとは予想もしていなかったので全員が戸惑っていた。

 暫く大きな揺れが続いた後、それはピタッと止まった。


 

「この地震……リオンが来た時と同じやつか?」

 

「多分……。寝てたからよくわからなかったけど、揺れの大きさ的にも同じくらいだったと思う」

 

「私達が体感した前の地震とも同じくらいだったように思うぞ」

 

「ではやはり、前回の地震はリオンさんと僕達は同じものを経験していて、今回のこの地震も恐らく同様のもので間違いないでしょう」


 ルドルフの言葉に俺達は頷き、ひとまず町に被害がないか確認する為、オアシスの外へと出た。

 しかし、町は少し物が倒れ、住民達が慌てているくらいで特に目立った被害はなかった。


 ◇

 

「ありゃー、これは全然無事みてぇだな」

 

「あんなに揺れたというのに……!?」

 

「でも前の地震の時も特に大きな被害はなかったよね……」


 三人は前回と同様に凄まじい揺れだったのにも関わらず、地震による大きな被害がない事に驚いていた。

 そして俺はそんな三人を他所にある提案をした。


 

「なぁ、壁の穴の所に行ってみないか? 俺がヨスガへ来た時も地震があったのなら、今回の地震でまた何か変わった事があるかもしれないし」

 

「確かに、リオンさんの言う通り、何かわかるかもしれませんね」

 

「よし、そうと決まりゃあ早速――――」

 

「――――そういえば……!」


 俺の提案に乗り、グレンがそう言いかけるとサナエが横から口を挟んだ。


「ンだよ……サナエ!?」

 

「いや、シルキーは大丈夫かと思ってな。あんなに揺れたというのに部屋から出てこなかったからな」

 

「シルキーは大丈夫だと思いますよ」

 

「いつものことだよ! どーせスヤスヤ寝てやがんだ! 体調わりぃみてぇだし、ほっとけ!」


 グレンとルドルフがそう言うとサナエは少し心配そうにオアシスの方を見るが、半ば流される形で俺達と壁の穴まで向かった。


 ◇

 


 暫くして、俺達は壁の穴が所へ辿り着いた。


 

「確かここら辺だったよな……? リオン?」

 

「うん……。確かに昨日まではここに穴があったはず……」

 

「もしかしてなくなっているんですか……?」

 

「そんなはずがないだろう!? よく探すんだ……!」


 サナエがそう言うと俺達は目の前の壁をくまなく探す。

 人が入れる程の大きな穴がそうそう消える筈もないのたが、俺達の前に広がる壁には穴は一つも無かった。


 

「どういうことだ……!? 昨日までここに穴があったじゃねぇか!」

 

「そうだな。だが、実際穴は何処にも無い……」

 

「本当にここに穴があったんですか? そんな形跡はどこにも……」

 

「いや、間違いなくここだ。昨日俺が地面に掘った穴がここにある……」


 そして俺は地面に開いた穴を指差す。

 この穴があるという事は、昨日俺達が来た場所がここで間違いないという事になる。


「本当だな……。これは昨日リオンがグレンに言われて掘ったあ……な……?」

 

「あん? どうしたサナエ?」


 サナエがそう言いかけると何かに気付き言葉を詰まらせた。グレンが問いかけると俺は地面の穴をよく観察した。


「ん……? この穴……昨日と何か違う……?」

 

「何言ってんだ? どっからどう見たって普通のあな……!?」



 グレンは俺の言葉を聞き、自分の足を穴に突っ込んだ。するとズボッと、落とし穴にハマったようにグレンの足は膝下まで地面に刺さった。


「だ、大丈夫、兄さん!?」

 

「手を貸そうか? グレン?」


 サナエの呼び掛けにグレンはゆっくりと首を振り俺の方を見た。


「リオン……。昨日この穴掘った時、どう感じた?」

 

「どうって、どれだけ掘っても先が無いというか、土ばっかだったぞ?」

 

「はっはは。そうかよ……」

 

「「「…………?」」」


 グレンは俺の答えにそう言うと、複雑な表情で少し笑った。俺達はその笑みが何を意味するかわからずポカンとしていた。


「今、俺の足の下には何があると思う?」

 

「何って土だろ?」

 

「まさか……違うのか……?」

 

「兄さん……?」


 グレンの問いに俺達は更にポカンとした表情を浮かべる。


「俺の足の下には……何もねぇ……!」

 

「何も無いのかよ!」

 

「驚かせないでよ兄さん!」


 グレンの言葉にサナエはツッコミ、ルドルフは少し怒り気味で反応した。だが、俺にはグレンの言葉の意味がわかった。


「――――何も無いって、土もか……?」

 

「……あぁ。そうだぜ」

 

「「……!?」」


 俺の問いにグレンが答えると俺は全てを理解した。

 その後二人もようやく理解したのかその事実に驚愕していた。

 

 

「よっこらせっ……と!」


 そう言うとグレンは地面から足を引き抜き、穴を覗き込む。


「あぁ……暗くてよく見えねぇなぁー」

 

「私にもよく見せてくれ!」

 

「昨日まであった壁の穴が無くなり、昨日掘った地面の穴が空洞に……ブツブツ」


 グレンがそう言うと、サナエはグレンを押しのけ、よもや女の子とは思えない程に、馬鹿みたいな体勢で地面の穴に顔を突っ込んだ。そしてルドルフはまたしても独り言を始めた。


 

「なぁ、この穴の下に行ってみないか?」

 

「ブツブツ……リオンさん、流石にそれは危険です……でも行きましょう……ブツブツ」

 

「――――んっ!! よし! 行こう!!」


 俺の提案にルドルフは独り言の合間に注意喚起をしつつも賛同するという離れ業をやってのけ、穴から顔を引き抜いた残念な女武士は顔を土まみれにしながら終始キリッとした表情で行く気満々の意を示した。


「ちょっと待て! お前ら、下に行くのはいいが、どうやって上まで上がってくるつもりだ? それに下もどれだけの高さがあるかもわからねぇんだぞ!?」


(((じーーーーー)))


 グレンのその問いに俺達三人はただ黙ってじっとグレンの顔を見た。


「な、何だテメェら!? 俺、何か間違った事を言ってるか!?」


(((じーーーーーー)))


 俺達はそれでも尚、グレンの顔を黙って見つめた。


「………………。テメェらそういう事かよ……!? 俺のスキルでふわふわ浮きながら下まで行って、ふわふわ浮きながら上まで帰ろうとしてんだろ!?」

 

(((コクリ)))


 俺達はグレンのその言葉を待ってましたとばかりに笑顔で頷いた。

 そしてグレンはぶつくさと文句を言いながら俺達の重力を軽くし、全員で地面の穴の下へと降りた。


 ◇


 ふわふわゆっくりと降りて行くと暫くして、地に足が着いた。

 外から見ると暗くてよく見えなかったが、中に入り目が慣れてくると次第に周りが見えるようになってきた。

 

 そして俺達は辺りを見渡した。

 俺達の周りには壁以外は特に何も無い――――と思っていたが、すぐにとある物を見付け、その事実に驚愕した。

 


「こ、これ……って」

 

「おいおい嘘だろ……?」

 

「な、何故ここに……?」

 

「これって先程リオンさんが言っていた……」


「あぁ……。これは俺が掘った壁の穴だ……」

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