第41話 矛盾
更に翌日。
俺は一人で自分が掘った穴が開いた壁まで行こうと、オアシスを出てサクラ町と田畑の境まで来ていた。
「昨日はルドルフの仮説のおかげで色々な事がわかってよかったな。あとシルキーの話をした時のグレンの慌てよう……。ハハハ! 思い出しただけでも笑っちゃうな」
そんな独り言を呟きながら歩いていると――――
「昨日の俺はそんなにおかしかったかよ……!? リオン、テメェ……!」
「え……!? グレン!?」
俺は突然現れたグレンに首を絞められた。
その後ろからサナエもひょこっと顔を出した。
「一人で行くなんて水臭いじゃないか! 昨日一緒に村への帰り方を探そうと話したばかりだというのに!」
サナエは頬を膨らまし、少し怒っているようだった。
――こいつは侍に拘りすぎて馬鹿になってるけど、こういう所もあるんだよなー。
顔は可愛いし、スタイルも凄く良い。
なのに頭とその意思が邪魔をして全くもって男っ気がない。
可哀想に……。
俺は二人に平謝りすると、一緒に穴の所まで行くことになった。
◇
「しかしどうしたんだ? 急に壁の穴を見に行くなんて?」
「うん、昨日話してて一つ気になった事があってさ……」
「気になる事? 何だぁ?」
「俺が出てきた壁の穴だよ。昨日の仮説は概ね正しいと思ってる。でもそれだとあの穴から俺が出てきた事にどうしても矛盾が出来るんだよ」
「「矛盾?」」
二人は俺にそう問いかけた。
――そう、あの仮説には一つ矛盾が存在した。
それは俺がフィフシスで掘って中に入った穴が、出る時にはヨスガの里にあった事。
昨日の仮説通りなら円柱状に上下左右に伸びた壁はフィフシスからヨスガにも繋がっているとは思うけど、層が違うからフィフシスで開けた穴に入ると、当然出る時もフィフシスに出てこないとおかしいのだ。
その事を俺は二人に伝えた。
サナエは目を丸くしながら手をポンッと叩き「なるほど!」と言い、グレンは暫く黙り込んだ後、こう叫んだ。
「ふりだしじゃねぇか!!!」
――そう。そうなんだよグレン。
昨日あれだけ仮説を立てて話したというのに、この穴の説明がつかないと全てが破綻してしまうんだよ。
グレンの言う通りふりだしになりそうな予感……。
昨日思い出していればみんなで話し合えたりしたんだけど。
如何せん今朝目覚めた時に思い出してしまったのだから仕方ない。
◇
そうこうしている内に、俺達は穴の所までやって来た。
「これがリオンが出てきたっつー穴か」
「確かに人一人くらいは余裕で入れそうな広さだな。とは言っても、中はやはり土しかなさそうだ」
グレンはそう言い穴の周辺を観察し始め、サナエは穴の中を覗き込みそう言った。
「そうなんだ。俺もあの時の事をあまり覚えてないんだけど、森の中で壁を見つけて何か気になって穴を掘り進めてたら急に大きな地震が起きて――――」
俺が地震のことを話すと二人は血相を変えて俺の方を見た。
「――――地震だと!? リオン、テメェ地震があった時にここへ来たって、ンな事一言も言ってなかったじゃねぇか!」
「そうだっけ? 地震があったっていうのがそんなに重要な事?」
「……重要だ。ヨスガの里でもあったんだ。大きな地震が……」
サナエの言葉に俺は驚愕した。
サナエが言っている事が確かなら俺がヨスガの里に来てしまった原因と何か関係があるかもしれない。
「かぁーー……。ったく、何で俺も気付かなかったんだ。そういや俺がリオンと出会ったのも地震があった日じゃねぇか……!」
「え!? そうなの!?」
「そうだ……。俺はあん時、地震の被害がどんくらいか確認しに来てたんだ。したら役人に絡まれてるリオンを見付けてよ。とりあえずオアシスに連れ帰ったっつーわけだ」
――そうだったのか……。
つまり俺が穴の中にいる時に起こった地震とヨスガの里で起こった地震は同じもので間違いない。
地震と、俺がヨスガに来てしまった原因との因果関係はまだわからない。
けど地震が大きく関係していることは確かだ。
「なぁ、リオン。ここ一度掘ってみてくれねぇか?」
「ここって地面のこと?」
俺がそう言うとグレンは黙って頷いた。
何か考えがあるのだろう。
俺は言われた通り、壁の穴のすぐ側の地面を俺の体がおさまるくらいに掘った。
「何も出てこないぞ?」
「……みてぇだな」
「昨日の仮説通りなら地面の下にフィフシス村があるはずなのだがな……?」
俺が穴を掘りそう言うとグレンは頭を掻き、サナエは顎に手を当てながら思案顔をする。
「地面を掘りゃあ何か手掛かりが掴めると思ったんだけどな。スカみてぇだ」
「だな。しかしせっかくここまで来たのだから、里の人に地震についてもう一度聞き込みをしてもいいのではないか?」
「そうだな」
そして俺達は壁の穴を離れ、里の人に地震についての話を聞きながらオアシスへと戻った。
◇
オアシスへ戻ると部屋にはルドルフしかいなかった。
「あれ? シルキーは?」
「シルキーは体調が優れないみたいで部屋で寝ています」
俺がそう言うとルドルフは心配そうな表情で答えた。
そして俺はルドルフに、俺が気が付いた仮説の矛盾点と地震の事を話した。
「なるほど……。確かにリオンさんの言う通りソレが同じ穴なのであれば、僕の仮説は破綻してしまいますね。加えて、地震とリオンさんがヨスガへ来てしまった原因との因果関係については、もう少し調べてみないと何とも言えないですね」
「だーー! やっぱりふりだしじゃねぇかよー! ったく一体どこにあんだよ、リオンの故郷はよぉ!」
「まったくだ。ここまで手掛かりが無いとさすがに気が滅入るな……」
そう言うと三人は俯き、少し落ち込んでいるように見えた。
「……ごめんみんな。俺の為に悩ませてしまって」
「何言ってんだ! 俺達が手伝うって決めたんだ! リオンが謝ることじゃねぇよ」
「そうだぞ。私達が好きでやっている事だ。リオンは故郷に帰ることだけ考えていればいい」
「サナエさんの言う通りです。何としてでもリオンさんを故郷に帰してみせますから安心してください」
「みんな……。ありがとう……!」
俺が再度礼を言うとやはりみんなは少し照れくさそうにしていた。
そして俺達は一日を費やし、あーでもない、こーでもないと考えを巡らせた。
が、昨日のルドルフの仮説以上の事は何もわからなかった。
◇
そして翌日。
俺達の運命を大きく変える出来事が起こる。
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