第77話 属性


 俺のスキルを聞き、不敵な笑みを浮かべたハンスは続けて話を始めた。


「リオンちゃんはこの階層へ来てスキルレベルが上がったと思うけど、新しい能力の使い方は理解してる?」


「いや、それが正直イマイチわからないんだ。属性って一体何なんだ?」


「そうか。まぁ普通は知らんわな。ワイは科学者やからわかるけど」


「テメェ、何でもかんでも科学者って言えばいいと思ってんだろ。てかテメェも手ぇ貸せよ! 俺だけじゃもう足止めしきれねーぞ。瓦礫がもう無くなっちまう」


「あぁすまんすまん。ほんならリオンちゃんに属性の事を教えつつ、グレンちゃんに投げてもらうもん出していこか。『出てよ火の玉っ!』」


 グレンが少しいつもの様に怒鳴った事をきっかけにハンスはよくわからない事を言うと何やら説明を始めた。


「えぇか、リオンちゃん。まずこれが火の玉や。ほれ、グレンちゃん! これあの二人に向かって投げてー」


 そう言うとハンスは手のひらに火の玉を発現させグレンに手渡した。

 

「馬鹿テメェ……! ってあれ、熱くねぇ……?」


「あぁ、大丈夫。それワイが敵やと認識しとる相手にしか効果がない様になってるから」


「テメェはそんな事も出来んのか」


「言うたやん、俺は強いでって。――ほんでリオンちゃん。さっきの火の玉。コレ何属性かわかる?」


 グレンはハンスの能力に関心しながら言われた通りに火の玉を二人に放った。

 すると二人の足元に火の手が周り、ヴァイツェンはリセットを、シルキーはそれらのせいで上手く動けずにいた。

 

 そしてハンスは次々と火の玉を出し続けながらも、俺に問いを投げ掛けた。


「え? 火の玉だから……火じゃないのか?」


「ピンポーン! 正解や。ほんなら次はコレ――『出でよ水の玉!』コレは何かわかる?」


「水……か?」


「正解や。やるやん、リオンちゃん!」


「もしかして俺、馬鹿にされてる?」


 ヘラヘラしながらも水の玉と火の玉を出し続けグレンに手渡すハンスに俺は少し馬鹿にされている気分になった。

 しかしハンスは更に続ける。


「ほんなら次はちょっと難しいで? シルキーが生成する毒は何属性やと思う?」


「えぇ……? 毒……じゃないのか?」


「ぶっぶーー! 残念ハズレや」


「ハンスお前、やっぱり馬鹿にしてるよな?」


 ハンスはそう言いながら手を体の前で交差させた。

 そしてその間も両手から水と火の玉を発現させグレンに手渡し続けている。


「馬鹿にはしてへんよ。ただちょっと意地悪しただけや。ほんなら答えやけど、シルキーの毒は種類によって属性が変わるんや」


「……? よくわからないんだけど……」


「属性っちゅうんは簡単に言うたらスキルの能力その物の事を言うねん。例えば水を生成するスキルの属性は水、火やったら火。グレンちゃんのスキルやったら重力やな」


「てことはシルキーのスキルは割と特殊なんだな」


「さすがリオンちゃん! 物分りがえぇなぁ!」


 そう言うとハンスは手を叩き俺を褒めたたえた。


「つまりシルキーのスキルは色んな属性を持っているって事か」


「そういうことや。シルキーのスキルは特殊で、様々な属性の毒を生成する事が出来るんや。シルキーが生成する毒は本来、一つの属性を持つスキルとして存在しとる物やからな」


「例えば石化させるスキルとか、人を眠らせるスキルとか?」


 俺がそう尋ねるとハンスはこくりと頷いた。


 

「ほんならリオンちゃんがスキルについてよーく理解したところで、本題に入ろか。作戦はこうや――――」


 そう言いハンスは淡々と作戦の内容を説明し始めた。

 要約するとこうだ。


 まず俺がハンスが出した属性の玉を出来るだけ溜め込む。

 そしてハンスとグレンでヴァイツェンの動きを完全に封じる。

 ヴァイツェンの動きが止まった所へ俺が溜め込んだ属性を一気に放出し、奴の即死を狙う。


 というものだった。


「でもシルキーはどうするんだ? その間、確実に俺達の邪魔をして来るだろ?」


「そうだぜハンス。アイツは今、俺達の敵なんだ。必ず何か仕掛けてくるぜ?」


 俺とグレンはハンスの作戦に隙を見つけ、その対策を問うた。

 するとハンスは首を横に振り口を開く。


「それは無い。あったとしてもワイらには何もして来んよ」


「何でそう言い切れるんだ?」


「やり方は違えど、シルキーも目的は同じやからや」


「「は…………?」」


 ハンスの言葉に俺とグレンは固まった。

 グレンはハンスが出した玉を投げる事すら忘れる程に。


「俺達とシルキーが同じ目的ってどういう事だ!?」


「おいテメェ、ハンス! ちゃんと説明しろ!」


 俺とグレンがハンスに詰め寄ると彼は観念したのかゆっくりと口を開いた。


「実はワイ、ちょっと前にシルキーと出会っててな。そん時に聞いたんや。何でこんな事するんやって。ほんならシルキーは――」


「――やめてハンス。それ以上は言わないで」


 ハンスがそう話し始めると、グレンによる足止めが無くなった事により動ける様になったシルキーが俺達の目の前まで一瞬で距離を詰めて来た。

 そしてハンスの話を遮る様に口を挟んだ。


「もうえぇやろシルキー。この二人に全てを話しいや」


「テメェら一体……。もういいって何がだ……?」


 グレンは二人の関係が理解出来ず、狼狽えていた。

 するとシルキーは大きなため息をつき、その後小声で話し始めた。


「お父さんに勘づかれるとまずいから戦いながら話すね……」


 そう言うとシルキーは針を抜き、手で握ると俺達に攻撃を始めた。


「やっぱりテメェ、俺達を――」


「大丈夫、針に毒は付与してないから。……信じて」


 グレンがそう言いかけるとシルキーは自らの腕に針を刺しそれを証明してみせた。

 そして俺達は戦っているフリをしながらシルキーの話を聞いた。


 

「私は全てを終わらせる為にここへ来たの」


「全てを終わらせる……?」


「そう。あの人からこの国を、全てを取り戻す為に私は――お父さんを殺す……!」


「…………っ!?」


 俺とグレンはシルキーから飛び出した思いがけない言葉を聞き絶句した。




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